長谷川白紙×長久允『オレは死んじまったゼ!』対談 “軽薄”に対する音楽面でのアプローチ、作家としての使命も語り合う

 長谷川白紙がWOWOWのオリジナルドラマ『オレは死んじまったゼ!』の音楽を手がけた。「そうして私たちはプールに金魚を、」(2017年)、『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(2019年)『DEATH DAYS』(2021年)といった作品で注目を集める気鋭の映画作家・長久允が脚本・監督を手がけ、ザ・フォーク・クルセダーズのヒット曲「帰って来たヨッパライ」(1967年)をモチーフに展開する奇想天外な「幽霊」の物語である。

 長谷川と長久のコラボレーションは長谷川白紙×諭吉佳作/menのシングル「巣食いのて」(2021年)に始まる。お互いの作品のファンだったというふたりはここで意気投合し、再び相まみえることになったのだった。(小野島大)

長谷川白紙が長久允作品に感じた、テクスチャーが映画を駆動している力

ーードラマを拝見しました。大変面白かったです。もっとオフビートなコメディ色が強いものだと思っていたんですけど、意外とエモーショナルな内容でした。

長久允(以下、長久):ありがとうございます。そうですね。

ーーお二人の最初の出会いは「巣食いのて」のMVですね。

長久:(それまで)普通に好きで。ライブに行ったりとかしてて。

長谷川白紙(以下、長谷川):私も(長久の映画が)普通に好きで、映画館に(行ったり)。テクスチャーに対して自覚的な作家だなぁと。

ーー最初に観た作品は何ですか?

長谷川:『WE ARE LITTLE ZOMBIES』ですね。もちろんストーリーも印象的だったんですけど、テクスチャーの映り方、映像自体の質の移り変わりというのに、ものすごく自覚的な作家さんなんだなと思いました。配分がコンポジションされているというか。時間の中でこのテクスチャーが登場する意味を感じるというか。

ーーそれは具体的にはどういう?

長谷川:なんか、デカい車が投げ込まれるシーンとか、あったじゃないですか。

長久:はいはい(笑)。

長谷川:あそこだけすごい、光が、ボヤボヤしているテクスチャーになっていて。映っている光景が現実のものとして提示されているのか、そうじゃないものとして提示されているのか、行き来するようなものだったと思うんですけど、あの作品は。そこだけ、その二つが融合する光源が曖昧になっているっていう感覚があって。その時に、テクスチャーが映画を駆動している力というのをめっちゃ感じましたね。ともすれば物語が一番、その映画を駆動するものと思われがちというか、けっこう権威的なものだと思うんですよ、物語って。基盤にあるというか、基盤があるというように想定してしまうというか。まず物語があって、その表象として映画があるという構造を無意識に想定してしまうところが我々はあると思うんですけど。

長久:あぁ、(自分の)作り方はその逆でやっています。

長谷川:そう。それがすごくわかるんですよね。その感覚。私も。

長久:シナリオを書く順も、まずセリフをパーツパーツで書いて、寄せ集めて。物語にしていく。撮り方の質感をセリフの意味合いごとにロジックで確定させていくから。そういう意味で、テクスチャーを寄せ集めて物語にしているという指摘は、作り方が正しく伝わってるんだなと。そう受け取ってもらえると嬉しい。まさにそう作っているから。

ーー監督は長谷川さんの音楽に対してはどういう印象を?

長久:白紙さんの……なんというか……使っているのは電子楽器じゃないですか。楽器というか、PC上のもの、電子的なものだったりするんですけど。それが、身体にアナログ機器として染み込んでいる気がすごくしていて。すごくアナログっぽく聴こえる感じ。有機的な気がして、すごく好き。

ーー電子楽器も身体化して、手足のように使いこなしている感じがある。

長久:そうですね。指に配線されている感じというか。

長谷川:配線されている(笑)。

長久:有機的な、ぐにょぐにょしたものを感じる。キモ好きというか(笑)。気持ち悪~い! って、ニコニコしながら言うやつというか。とても好きです。

長谷川:嬉しいです。

ーー「巣食いのて」のMVの監督に長久さんを選んだのは、そういう映画の印象がある?

長谷川白紙 + 諭吉佳作/men - 巣食いのて (Official Music Video)

長谷川:「巣食いのて」はテクスチャーのつながりがストーリーになっている。結果的にそうなっている、みたいな構成の曲だったので。ものすごく合うかなと思っていて。頑張って「オファーできませんか?」って言って(笑)。それでもう、快く引き受けて頂いて。めちゃめちゃ嬉しかったです。

ーー長久さんはMVの仕事もたくさんされていますけれども。長谷川さんの仕事の時はどんなことを考えながら作られました?

長久:僕は、すごく若くはなくて(現在39歳)、手法としてはけっこうクラシカルなんです。撮って合成したりとか、アニメーションを入れたりとかする作家ではないから。白紙さんの曲に合う映像って、無限の拡張性、可能性を秘めているんだけど、僕はクラシカルな作家だから、最初は大丈夫かな? と思っていたんです。でもそれはあがいても仕方がないから逆によりクラシカルな方式をとろうと思いました。こっち側はこっち側で、60年代のモノクロ映画、シュルレアリズム映画という、音楽とは違うコンセプトを打ち立てて対峙して新しい世界が作れないかなぁ、と。そういう意味で難しかったです。どう思われるかなって、不安ではあった、最初は。

ーー楽曲にめちゃめちゃ合っていますよね。

長谷川:不思議なことですよね。

長久:そうですよね。そうですよね。

幽霊に対して“軽薄な態度”で臨んだ音作り

ーー今回はそれ以来のお仕事ということですが、「オレは死んじまったゼ!」の企画はどういうところから始まったのでしょうか?

長久:2年前にWOWOWさんと一本ドラマをやらせてもらったんですけど(『FM999 999WOMEN'S SONGS』2021年)、また「今年もやりませんか?」っていうお話を頂いて。その時にいろいろ(アイデアを)出す中から、幽霊の話を作りたいと思ったんです。生き死にをテーマにする作品は多いですけど、死んだらどうなるっていうのを、人類は誰も知らないじゃないですか。そこで”ぬるく、楽しく、良い死後の世界”があるっていうことを提示したいなっていうところから始まってるんです。そういう幽霊の話を作りたいって書いたのが、今回のドラマの経緯です。おっしゃるように、最初はもっとオフビートにしようと思っていたんです。でも、物語化していく段階で、エモーショナルに着地していったっていうのがあって。

ーー成仏できない幽霊が現世を彷徨っていて、という話は、日本の昔ながらの怪談でめちゃくちゃいっぱいありますよね。

長久:まさに、『四谷怪談』のゆるいコメディみたいなものを令和でやろうと。白紙さんに音楽をお願いしたいと思ったのも、そういうことを意識していて。怪談モノって、音楽がめちゃめちゃ大事じゃないですか。幽霊にどういう音がつくか、現代の幽霊にマッチする音はどうしたらいいか、って思ったときに、白紙さんの音なんじゃないかなって思ったんです。幽霊物語を現代にリブートしていく時の「現代」とはどこなのか。

ーーそれが長谷川さんの音だったと。オファーを貰った時にどう感じましたか?

長谷川:めちゃくちゃ嬉しいというだけで。劇伴は『あの頃。』(2021年、今泉力哉監督)以来だったんですけど。

ーーザ・フォーク・クルセダーズの「帰って来たヨッパライ」を使うのは最初から決めていたんですか?

長久:そうですね。企画の立ち上げの時から、「帰って来たヨッパライ」をテーマ曲にしたいなというのはあって。

ーー「帰って来たヨッパライ」は1967年の発表。長谷川さんが生まれる30年以上前の曲ですね。

長谷川:「帰って来たヨッパライ」だけを知っているという方はものすごくたくさんいらっしゃると思うんです。すごくキャッチーなモチーフだし。すごく真摯な問いかけだとその時点で思いましたから、「帰って来たヨッパライ」がテーマ曲になると聞いた時点で、けっこう道が見えた感じがすでにありました。どうすれば長久監督の思っていることに音楽として応えられるか、ある程度予見できたんです。なので、OKです! っていう感じで(笑)。

ーー幽霊のお話なんですが、音楽として関わっていく時にどのようなことを考えました?

長谷川:まず最初に……幽霊っていう単語の比喩としての利便性があまりに高すぎるということに、ずっと注意していました。マジックワードになっちゃっていると思うんですよ、「幽霊」って。なくなったものとか過ぎ去ったものを「幽霊」って言っておけば、言った感じが出るというか。

長久:はいはい(笑)。

長谷川:ナニナニの幽霊っていうだけで少し恰好がつくから、そこに含みを持たせられるというか。けっこう権威的な発想なのかなと思うんですよ。「幽霊」って言っておくと、幽霊というモノのわけのわからなさに……自分の本来考えなくてはいけなかったものが依託できると思うんですよ。そういう、めっちゃ便利な言葉だと思う。かつては私もそれに捉われていて。音楽をやっていると時間について考えなくてはいけない。私は過去とか、存在していない身体から生み出されている電子的な音響というものを幽霊だと捉えていたんですけど、それは無自覚に逃避的な態度だったと思うんですよ。そういうのをもうやめようと思って。例えばあるシーンに、あまり自分の中ではマッチしていない音響をつけたとしても……「幽霊」という言葉がそれを可能にしてしまう、と思ったんですよ。

ーーあぁ、なるほど。

長谷川:それに言い訳を与えてくれるような気がしたというか。だからそれはやめようと思って……長久監督のこのドラマって、幽霊であることが、この登場人物たちが幽霊である必要性がいい意味で全くないというか。

長久:うん。全員フィジカルというか。幽霊っぽくないようには作っています。

長谷川:そうですよね。幽霊を取り扱う時に、無自覚に逃避的に幽霊という便利なものを使ってしまうか、もしくは、幽霊って何なんだろうって徹底的にリサーチしてとりうる態度はこれ、みたいな文化人類学的な方法もあると思うんですよ。ただ長久監督の方法はそのどれでもない。私たちが割と幽霊という言葉に感じているインプレッションのみに、すごく着目している気がするというか。あの、これ本当に良い意味なんですけど、軽薄だと思ったんですよ。幽霊に対して。

長久:軽薄ね。そうか。

長谷川:浅いところだけをめちゃくちゃ拡大している作品だと思ったんです。だから私も、幽霊っていうテーマに対して、音楽もある程度軽薄じゃないといけないって思ったんです。幽霊が幽霊であることの必然性が音楽で説明できてはいけないと思ったんですね。なので、ヒュードロドロっていう、伝統的な幽霊の効果音があるじゃないですか。それをサンプリングして、カットアップして入れてみたり。ある程度、軽薄な態度っていうのを保ち続けようとしていました。

長久:“この、舐めている感じが良いと思います”みたいな会話をしながらね(笑)。なんか、話自体も『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)が全員幽霊でもいいんじゃないか、くらいの感じで。ある種のシェアハウスものだけど、登場人物を幽霊に置き換えてやっているというか。

ーー監督はこれまで死にまつわるテーマを多く取り扱ってきています。『WE ARE LITTLE ZOMBIES』も『DEATH DAYS』もちろんそうですし、『そうして私たちはプールに金魚を、』もそういうイメージですよね。

長久:そうですね。

ーーそういうテーマにこだわっている?

長久:そうですね……基本、恋愛とかに興味がないっていうのがまずあるんですけど。

ーー恋愛に興味がない?

長久:興味がないというか(笑)。恋愛を描いたりすることに。(最近の映画は)恋愛映画とかアクション映画とかばかりだから、僕はそれを作る使命感をまず感じない。

ーーああ、なるほど。

長久:僕はすごく……ホームで電車を待っていると、めっちゃ飛び込んじゃうイメージをしたりとか。小さい時高層マンションに住んでいて、毎日いつ飛び込もうかなって思いながら過ごしていていたりとか。死のイメージがすごく強いから。自然に、生き死にの話をどうしても書いちゃう。「よし! 生き死にの話を書こう!」と思って書いているわけじゃないんですよ。自然に企画していると、また生き死にの話になってしまった……みたいな。

ーー身近の人の死を経験されて考えるようになったとかではなくて。

長久:そうですね。身近な人で亡くなっている人もいますけど……それを機に、それと向き合うために作りたいとかではないし。自然な暮らしの中ですごく生き死にの想像をしてしまうことがある。めちゃくちゃ多い。だから、自動車とか運転できないんですよ、本当に怖くて。免許はあるんですけど。5秒後に自分がこう(ハンドルを急に切る仕草)しちゃう気がするんですよ。それがすごく強くて。

長谷川:すごくわかります。

ーー希死念慮というか。

長久:そうなんですよ。やっちゃいそう。体をコントロールできなくなりそうな自分がいて。だから、そういうところが出ているのかもしれないですね。

ーー『WE ARE LITTLE ZOMBIES』は、親が何らかの理由で死んだ子どもたちの話でしたけど、今回は誰かを残して死んでしまった人たちの話、要するに『WE ARE LITTLE ZOMBIES』の逆の立場にいる人たちが主人公ですが、それは意識されました?

長久:いや、していないです。でも感覚は同じで、死というものを軽視して対峙しない姿勢という。しっかり対峙すると絶望するに決まっているから。対峙なんかしないでヘラヘラとやっていくんだぞって、生き方として僕の沁みているところではあって。それをずっと体現していく。死を扱う上で死に対峙しない、軽視する、ヘラヘラやる、っていうのは、たぶん出し続けていくと思います。

ーー斜に構えちゃう感じ。

長久:うん。現実に対して軽薄に。本当に僕、演出する上で軽薄っていう言葉を一番使う演出家なんじゃないかと思います。よく役者さんに、「もっと軽薄にしてください、軽薄な人物像でお願いします」って言いながら演出していくんです。軽薄さっていうのは、本当に大事にしているキーワードではあります。

ーーなるほど。じゃあ長谷川さんの感じた直感は正しいわけですね。

長谷川:うん。それがすごくわかりやすくプレゼンテーションされている作家だと思います。読みこんで行ったら軽薄だったねっていうんじゃなくて。観た瞬間に軽薄さ、という一個の宣言のようなものを、すごくわかりやすく出すタイプの方だなと。

長久:(笑)。そうですね。

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