海上自衛隊の歌姫 三宅由佳莉、コロナ禍経て音楽で届ける平和への願い 岡本知高との「祈り」、『マクロスF』楽曲などへの挑戦
「リアルマクロス」を実現させた中川麻梨子との「ライオン」
ーー選曲についてはいかがですか。アニソンも多い印象ですが。
三宅:東京音楽隊の企画係が中心となって選曲していて、しっとりしたワルツからアップテンポジャンルと年代を幅広く考えてピックアップしました。私も曲のキーなど、歌えるかどうかもチェックしましたが最終的にほとんど原曲キーで歌ってますね。
アニソンは企画係にオタクな方が多かったのもあり、多めです(笑)。吹奏楽にすると景色が浮かびやすくなる気がしますね。例えば「君の知らない物語」なら、歌の主人公の心情や夏の切ない風景がイメージできるように、単純に歌うというよりもセリフっぽい感じで録音しました。あと、「悪魔の子」はソプラノサックスが歌と違うカラーで重なりあっているのが印象的ですね。こういったダークな歌をお届けするのが初めてなので、ぜひ聴いてほしいです。
ーー中川麻梨子とのデュエットとなる「ライオン」はいかがですか。
三宅:「ライオン」は好きな隊員が多い曲なんですよ。海上自衛隊に入ってから「歌えばいいのに」とよく言われたのですが、私はよくわからなくて「『マクロスF』知らないの?」と問い詰められました(笑)。みんな愛がすごくて、シェリルちゃんとランカちゃんが歌っている曲なんだと教えてくれたり、「三宅さんはランカです!」と言ってくれたり。それで「あ……わかりました。やらせていただきます」と(笑)。多くの隊員の夢だった「リアルマクロス」を実現させた形です。
ーー多彩な曲を歌う時に心がけていることは?
三宅:色々な声色で曲を表現したいといつも思っています。全部が同じ声や発声ではなく、曲のなかで自分がどういうキャラクターとして存在するのか、という立ち位置を考えるのが大切。三宅由佳莉として歌う時、自衛官の制服を着て国歌を歌う時でも違いますね。
初恋をした少女になり切るなら、自分の体が小さくて息の量も少ない年齢だとイメージしたり。「悪魔の子」なら辛くて叫びたい想いがあふれ出てしまった状況で、どれくらいご飯が食べられているだろうか、痛みはあるのかないのか、と考えてみたり。そのように歌と向き合っています。
あとは「さよならの夏」や「世界の約束」のような優しい曲は心と心が繋がれたらいいなと思うので、自分を無にできるように努めました。その曲に思い浮かぶ人をそれぞれ考えながら聴いてもらえれば、色々なストーリーが味わえるのかなと。
ーー新作は「コロナ禍を経てのリスタート」がテーマですが、それと同時に「瑠璃色の地球」などで世界の平和についても歌われているなと感じました。実際に何かの有事が起こった場合、皆さんはどのように活動されるのですか?
三宅:音楽隊が前面に立って現場に行くことはありません。隊員の士気高揚や出航する時などに演奏するといったことでしょうか。自衛官である以上、平和への想いは強いですし、それを願って演奏してきました。そのために世界で演奏して各国との交流を深めたり、平和を維持するために色々な人とコミュニケーションを取ることも我々の任務ですね。
世界の数百カ国に私たちの音楽を届け、また相手の国をリスペクトして現地の音楽を演奏することによって好意的に思ってもらえたり、私自身をよく思ってくださることが少しでも平和の架け橋になれば嬉しいです。これは自衛官の醍醐味ですね。私が普通の歌手だったら、こうはいきませんでした。しっかり制服を着て、世界各国で日本を代表する歌手として歌うことが、少しでも日本のために役立てば。この仕事を誇りに思っています。
ーーご自身のなかで印象的だった海外でのエピソードがあれば教えてください。
三宅:冒頭にお話しした遠洋練習航海で11カ国を回ったのですが、寄港地の国歌を現地で歌わせていただいたのは思い出に残っています。歌手の方が「君が代」を独唱・斉唱することはあるのかもしれませんが、他国の国家を歌うことはあまりできない体験なのかなと。
とても緊張したのですが、「なぜ君が歌えるんだ!?」という顔で驚かれますし、同時にとても喜んでもらえるんですよ。あれは、まさに心と心の距離がぎゅっと縮まる瞬間。その後の交流が深まったんじゃないかなと思いますし、貴重な体験でした。どの歌も耳コピで原曲を聴いてマネしながら練習しているので、きっとカタコトなんですけど、誠意を込めて歌わせていただいたんです。
ーー今後はどのような活動の予定なのでしょうか。
三宅:9月は米海軍を主体とする艦艇が地域内の各国を訪問して、医療活動や文化交流などを行う「パシフィック・パートナーシップ」音楽の部でパプアニューギニアに行ってきます。昨年はベトナムに行ったのですが、海外の方は反応がダイレクトなので楽しみですね。
私自身も参加して歌うのは11月に日本武道館で行われる『自衛隊音楽まつり』です。海陸空の自衛隊が集まるイベントなので、アルバムの収録曲はお届けできませんが、大きなイベントなのでぜひ観に来てほしいです。
ーーちなみに今回の岡本さんのようにコラボレーションしてみたい相手は他にいたりします?
三宅:サラ・オレインさんやデーモン小暮さんとご一緒してみたいです。ふたりとも大好きなんです。デーモンさんがアレンジした中島みゆきさんの「地上の星」を東京音楽隊でカバーしたこともあるので、それをぜひ歌ってもらいたいですね。
ーーいち歌手としての今後のビジョンは?
三宅:歌は続ければ続けるほどに客観的に見えてくるので、もっともっと練習しなきゃなと思っています。ただ新作を改めて聴くことで、10年前よりも成長できていると感じました。これから先も自分にないスキルを付けて、練磨して、多くの人に受け止めてもらえるような音楽を生み出せたらと思っています。
そういう意味ではいつも「新たな船出」な気もしますが(笑)、いつか技術抜きに感動する岡本さんの“本気”のような歌を届けられたら。そのために人としても成長していきたい。あとは「守る」「耐え抜く」「強く」という歌詞に自衛官として共鳴するんですよね。いち自衛官として出せる音は私だけの個性でもあると思うので、それを追求していきたいという想いもあります。
■リリース情報
『Departure~新たな船出』
8月30日(水)リリース
¥4,000(税込)/¥3,704(税別)
詳細:https://www.universal-music.co.jp/miyake-yukari-jmsdf/products/uwcd-10004/
公式Twitter:https://twitter.com/Gn4jS