RUCCAが語る、“職業作詞家”としての矜恃 『パリピ孔明』OP「チキチキバンバン」の手応えやアニメタイアップ曲の変化も

アニメタイアップは“シンクロ率”を高くすることがすべてではない

ーーアニメの主題歌をメジャーアーティストが担当するという流れは加速していて、しかもそのアニメとの親和性が深まっている印象です。

RUCCA:2000年代初期はタイアップといっても、協賛しているレーベルに所属するアーティストのシングル曲をアニメの主題歌にあてはめるようなパターンが多かったですよね。それと比べると時代が変わりましたよね。

ーー最近ですと、Official髭男dismが手掛けた「ミックスナッツ」(『SPY×FAMILY』OP主題歌)や「ホワイトノイズ」(『東京リベンジャーズ』聖夜決戦編OP主題歌)あたりも、原作の読み込み度が深いと感じた楽曲でした。シンプルに、アーティスト側がアニメに馴染んだ世代になってきているのかもしれません。

Official髭男dism - ミックスナッツ [Official Video]
Official髭男dism - ホワイトノイズ [Official Video]

RUCCA:それにアニメの社会的地位が向上したというのもあると思います。昔と比べてアニメを見ている人の数が増えてますし、アニメ関連でヒットした曲を歌うアーティストが『紅白歌合戦』に出ることも普通になった。そういう意味ではアイドルも同じで、アイドル楽曲に対して音楽ファンもネガティブなイメージを持たなくなりましたよね。

ーーこうなってくると、アーティスト側もアニメのタイアップ曲を作るハードルが上がりますよね。しっかり、研究して掘り下げないといけないような。

RUCCA:でも作詞って、それだけではないんですよ。原作を理解して、シンクロ率を高くするというのはひとつの方法論で、それがすべてではないと思います。具体的に書かないというのもアリですし、原作の意図を超えて、違う解釈で書いて、それが結果的に評価されることもある。僕がアニメタイアップ曲をやる時は、最初からそのあたりのバランスを考えることもあって、原作の要素とアーティスト性をどれぐらいの比率にするかとか、細かく決めながら作ったりします。

ーー詞も曲も自分たちで作るバンドや、シンガーソングライターは、そこがワンストップなので、より自由な作品づくりができるのかもしれないですね。

RUCCA:実際にどれくらいなのかはわからないですけど、アーティストがタイアップ要件や踏み込み方まですべて自分で考えているとしたら、僕のような職業作詞家とは根本的に違いますよね。だからこそ、素直に尊敬するし、敵わない。例えば、あいみょんさんとか、言葉遣いが素直で、本当に天才だと思います。「愛を伝えたいだとか」という曲は、〈健康的な朝だな〉から始まるんですけど、これは僕には書けない。ディレクターからダメ出しされそうで、提出できないですね。

あいみょん - 愛を伝えたいだとか 【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ーー商業的な意味での前提条件があると、なかなか出てこないセンテンスかもしれないですね。

RUCCA:僕がやらせてもらう仕事にはそれぞれレギュレーションがあるし、暗黙のルールもある。米津玄師さんの「KICK BACK」は、モーニング娘。の「そうだ!We’re ALIVE」の一節をサンプリングしてますけど、ああいう離れ技はアーティストだからこそ交渉が成立すると思うんですよ。他にも、瑛人さんの「香水」も書けない。サビにタイアップもついていないブランド名をまるまる出すとか、商標的にNGで成り立たないと思ってしまう。でも、結果的にあの曲は〈ドルチェ&ガッバーナ〉じゃないと成立しないし、あの部分がなかったら売れなかったかもしれない。あのような、忖度しないピュアな表現に尊敬と憧れがありますね。

米津玄師 Kenshi Yonezu - KICKBACK
香水 / 瑛人 (Official Music Video)

AIよりも、若い世代に対してのほうが脅威や楽しみを感じる

ーー昨今ではコンプライアンス関係も厳しいと聞きます。

RUCCA:確かに言葉の縛りは厳しくなっていると思います。英語でいえば、どんなにいい意味というか、“最高にヤバい”という文脈で使っても「FUCK」はNGになります。ただ、そういったことを気にしすぎると、この仕事は出来ないとも思いますね。デリケートな問題ではありますけど、本当にその言葉じゃないと表現できないことはあって、僕もその責任を負う覚悟はあって作っているというか。業界としては確かに忖度もありますけど、それでも現場のスタッフは誰もクリエイティブで、責任を持ってやってると思います。

ーー作詞の界隈でいえば、AIの脅威というのも話題になりますよね。以前から、J-POPの歌詞は、よくある言葉の順列組み合わせと指摘されることもあって、それならAIで生成しても同じじゃないかとか。

RUCCA:確かにAIで代替できる歌詞もあるかもしれないですけど、個人的にはそこに危機感はまだないですね。「ファクトリー」と呼ばれた僕ですけど、常に新しい表現や言葉を探しているし、これからもそれは変わらない。作詞に関しては、AIよりも、これから世に出てくる若い世代に対してのほうが脅威というか、楽しみを感じています。

ーー生まれた時からインターネットのある環境で育ってきた。Z世代以降の若者たちですね。

RUCCA:小さいころからスマホがあって、あらゆる情報にアクセスできる。自分から学ぼうとしたら、いくらでも学べるから、基礎知識の部分だけでかなり底上げされてますよね。それでいて、言葉に対してのセンスとかも、昔とは比べものにならないほど洗練されてきていると思います。

ーーSNSネイティブ世代ですよね。日頃から短い文章を送り合っているから、言語感覚が鍛えられる。

RUCCA:SNSって、こういう言葉を発したら相手がどう感じるかということを自然と学べるじゃないですか。そんなつもりじゃないけど傷つけてしまったとか、それとなく好意を伝えるとか。それは詞にして、歌になった時にどう聞こえるかの感覚にちょっと近い。語尾ひとつで印象が変わる、みたいなことも身についている。

ーー言葉の受け手としても敏感で、洗練されているということですよね。今後はそういう世代がアーティストとして世に出てきます。

RUCCA:僕は自分のことを裏方だと認識してますけど、逆に言えば表に立つアーティストというのは、すごく特別だと思うんですよね。 関わっているスタッフや、いろいろな人の人生を背負うわけじゃないですか。その重みに耐えうる精神もそうだし、能力も含めて、本当に選ばれし者。そういう方々を、少しでも盛り立てて、売っていくためにも、僕の歌詞が良いと思われなきゃいけない。

 どんな言葉も、歌となって、アーティストに表現してもらって完成するものですから。それをリスナーが気に入ってくれたら、なお嬉しい。作詞家として自分の表現も追求しますけど、あくまでアーティストの想いを伝えるものでもあってほしい。そんなことをたまに考えながら、ロマンスカーに乗ってます(笑)。

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