バンドはシーンを守ってきただけでなく耕してきた 歓声と共に幕張メッセに帰還した『SATANIC CARNIVAL 2023』が繋ぐもの
シーンを作って、繋いできたのは、もちろんコロナ禍の間だけではない。DAY2は特に、これまでにPIZZA OF DEATHが作り築いてきたパンク・ハードコアシーンを改めて感じさせるラインナップで、RAZORS EDGE、SANDと、これまでにPIZZA OF DEATHから作品をリリースしているバンドが続々登場。RAZORS EDGEはPIZZA OF DEATHから初めてリリースした『RAZORS RISING!!!!』から「DO THE SPIN SOUL」や「JUSO CRAZY NIGHT」などを投下する一方で、先日MVが公開された最“短”曲「LIFE」をプレイするなど、レイザーズ節全開のスラッシュパンクでフロアを盛り上げた。SANDのステージでは「Vanilla Shake」でラッパーのANARCHYを呼び込んでコラボするなど、大阪のハードコアシーンをそのまま持ち込んだようなライブが展開された。
「お待たせしました!」と挨拶をしながら『SATANIC CARNIVAL』に初出演したのはLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS PLUS。この日はLOW IQ 01(Gt)、渡邊忍(Gt /ASPARAGUS)、安野勇汰(Gt/HAWAIIAN6)、山﨑聖之(Dr/fam、The Firewood Project)という布陣での参加となった。昨年はBRAHMANのステージにゲスト出演したLOW IQ 01。そのお返しとして、「WHAT'S BORDERLESS?」「Snowman」の2曲でTOSHI-LOWをフィーチャリングゲストとして呼び込んだという。これも『SATANIC CARNIVAL』が開催され続けているからこそ見られたコラボだ。
2018年以来、5年ぶりに『SATANIC CARNIVAL』に帰ってきたCrystal Lakeは新体制に。メンバーチェンジを経てJohnを新ボーカルに迎えたCrystal Lake。新体制での彼らへの期待に、多くのオーディエンスがEVIL STAGEに集まった。バンドはそんなオーディエンスに、叙情的かつヘヴィで凶悪なサウンドをお見舞い。「新体制」などという言葉は一切不要、期待をやすやすと上回るCrystal Lakeを見せつけた。彼らもまた音楽を止めないという選択肢をしたからこそ、このステージがある。
そしてハイライトはやはり2日目のトリ、Hi-STANDARDのステージ。当日は仲間のバンドからドラマー数名が叩く、ドラマーは当日のステージで発表されるということが事前に発表されていた。時刻になるとスクリーンに恒岡の生前の映像が映し出され、VTRが終わるとゆっくりとHi-STANDARDのバックドロップが掲げられる。そこへ横山健(Gt/Vo)、難波章浩(Vo/Ba)と共に、1人目のドラマー・Eiji(Ken Yokoyama)が登場。Eijiを迎えた形で「START TODAY」「STAY GOLD」「FIGHTING FISTS, ANGRY SOUL」「CLOSE TO ME」、そして恒岡との遺作「I'M A RAT」の5曲が届けられた。さらに2人目のドラマー・ZAX(The BONEZ)を迎えて「ANOTHER STARTING LINE」「MY HEART FEELS SO FREE」「The Gift」「Brand New Sunset」をプレイ。3人目のドラマーを待っている間に、難波が突然「The Sound Of Secret Minds」を弾き語りで歌い始め、さらに横山が「Lovin' You」のカバーを歌うという自由自在な時間も。そして最後にナヲ(マキシマム ザ ホルモン)を迎え、「Can't Help Falling in Love」「NEW LIFE」「MAXIMUM OVERDRIVE」「DEAR MY FRIEND」を演奏。「DEAR MY FRIEND」時にはステージ後方に恒岡の写真が映し出され、難波と横山は恒岡を指差し笑顔を見せた。もともと、今年は『SATANIC CARNIVAL』に出演することを決めていたというハイスタ。『SATANIC CARNIVAL』からのオファーに最初に「やろう」と言ったのが恒岡だったということも明かされた。また、この日の形態について難波が「これがハイスタってわけじゃないかもしれないけど……」と言えば、横山が「これがハイスタだよ」と返す。またバンドの今後について、友達に手伝ってもらう形ではなく専念できるドラマーを見つけてからライブに出たいという意思を示した。難波が「これから俺と健くんが鳴らせばツネちゃんも鳴らすから。だってやりたいもん、健くんと」と言えば、横山も「俺もなんちゃんとやりたい」と返し、2人は「やろう、ハイスタを!」とまるで漫画の1シーンのようなやりとりに、照れながらも拳をぶつけ合っていた。
初日のKen Yokoyamaのステージで、横山はKen Bandのテーマソングである「Let The Beat Carry On」の演奏前、「続けて続けて、自分ができなくなったら誰かに教えて繋いで、そいつがまた続けて続けて、繋いで、続けて。そうやって俺らみたいな文化は育ってきたんじゃないのかな」と話をしていた。まさにHi-STANDARDのステージは、続けて繋いでいく最中だったし、この2日間、各バンドが見せてきたのは、続けて、繋いで、シーンがさらに育っていく様子だった。
コロナ禍で、バンドは「ライブハウスを、バンドシーンを守りたい」と口々に言っていた。ライブに足を運ぶファンも、同じ気持ちでいたはず。だからこそ普段は「モッシュ・ダイブ禁止」の注意書きなんて見て見ぬ振りしてきていたはずのキッズたちも、みんな足元のマークに忠実に従い、シンガロングパートでもグッとこらえ、どんなにテンションが上がってもすべて力を込めた拳に変えて、ここまでやってきた。そのなかで、バンドも模索をしてきた。シンガロングができなくても楽しめる楽曲を作ったり、もみくちゃにならなくても楽しめるライブを作ったり。もともと持っていた筋力以外も鍛えてしまった彼らはもちろんマッチョになるほかなく、幕張に帰ってきた『SATANIC CARNIVAL』では、もはや全員が超強力バンドになっていた。この3年間、“守ってきた”だけでなく、耕してきた3年間だったということも、知らしめられた2日間だった。