長瀬有花、曽我部恵一に下北沢を学ぶ。 つながりから広がる街の魅力、自然体の音楽が生まれる背景にあるもの

下北沢では住んでる人同士のつながりのなかで生まれることも多い

——長瀬さんは下北沢という街について、どんなイメージを持ってますか?

長瀬:都会と田舎の境目みたいな印象がありますね。すごく栄えているし、人もいっぱいだけど、どこかマイペースな面も見えて。たとえば銀座や渋谷に行くと肩に力が入って、身構えちゃうんですけど、下北沢は肩肘張らず、ありのままでいられるというか。自分も好きなように歩こうみたいな気持ちにさせてくれる街ですね。

曽我部:僕もそういうところが好きで下北に居ついたんですよね。90年代は渋谷が遊び場で、カッコよくてお洒落な場所だったんですよ。下北はちょっとホッとするというか。レコード屋さんや劇場はあるけど、最先端っていう感じじゃなくて、普通におばちゃんやおじいちゃんも歩いていて。ホッとするようなところが好きなんでしょうね。

長瀬:2000年頃からお住まいなんですよね?

曽我部:そうです。すごく住みやすい街なんですよ。2001年に長女が生まれたんですけど、ベビーカーを押して歩くのも困らないし、近所に区役所の出張所があったり。前の事務所から独立したときも、すぐに家の近くに事務所を借りようと決めたんですよね。音楽系の事務所って六本木とか青山とか渋谷、原宿にあることが多かったので、「下北なの?」みたいに言われたんだけど、たまたまいい感じの物件が見つかって、「ここに事務所があるって、すごくいいな」と思って。家から歩ける距離で、仲間と一緒に音楽をやっていくイメージが沸いたというか。イメージがあれば、たぶんできるじゃないですか。もちろん最初はなかなか上手くいかなかったけど、なんとかやっていましたね。

長瀬:今では、そのイメージが現実になって……。

曽我部:そうですね。縁もあると思います。たとえば高円寺でいい物件が見つかってたら、また違う人生だったと思う。どこがいいかはわからないけど、たまたま自分に割り当てられたのが下北だったというか、引き寄せられた感じもありますね。あとは、好きな街で仕事がしたいというのもありますね。それが実現できてすごくハッピーです。

長瀬:下北沢の方々は、つながりが深いというイメージもあります。

曽我部:そうですね。「〇〇さんがイベントで歌ってほしいって言ってるよ」とか、「そういう話は、あの人に相談したらいいんじゃない」とか。音楽業界っていうとビジネスという感じがあるけど、下北では町内というか、住んでる人同士のつながりのなかで生まれることも多いので。

長瀬:温かいですね。曽我部さんはカフェやカレー屋さんもやってらっしゃいますよね。

曽我部:お店はね、本当にたまたまなんだよね。友達が「レコード屋をやりたいんだよね」って言ってて、「だったら俺、夜はバーをやるよ」なんて話してたら、いろんなつながりで実現することになって。ごはんを食べに行ったり、友達や家族が集まれる場所があるのはすごくいいし、経営しているというより、楽しませてもらっている感じかな。

長瀬:それも縁なんですね。下北沢に住まれてから、曲作りが変わったりしましたか?

曽我部:あると思います。下北に住んで、子育てをして、仕事をして。ここで暮らしている姿を歌にしなきゃなって、どこかで意識していたと思う。特に自分は生活とか生き方、音楽活動について自分でチョイスしてきたと思っているし、それをちゃんと書くべきだなって。

長瀬:歌詞にもときどき“下北沢”が出てきますよね。アルバム『sketch of shimokitazawa』(2005年)は、当時の下北沢の姿を残しておこうと思って作られた作品なんですか?

曽我部:下北沢に大きい幹線道路を通すという開発計画があるんですよ。それは今も残っていて、行政はいつでも始められるんだけど、2005年くらいに立ち退きとかを進めていた時期があったんだよね。それに対して、下北で生まれ育った人たちを中心に反対運動が起きたの。リリー・フランキーさんとか、今年お亡くなりになったデザイナーの信藤三雄さんなどが力を合わせて反対していて。僕もそんな開発はイヤだし、そのときの状況をドキュメントしようと思って作ったのが、『sketch of shimokitazawa』なんです。

長瀬:楽曲だけではなくて、ボイスメモリーで街の音をそのまま録った音源も入っていますよね。踏切の音とか。

曽我部:開かずの踏切があったんだよね。朝の忙しい時間帯に30分くらい下りっぱなしなんていうこともあって、すごく困ってたんですよ。 いまは踏切がなくなって助かってるんだけど、邪魔だけど愛おしいものってあるでしょ。踏切もいつかなくなるのはわかっていたし、せめて音で残しておきたいなって。

——長瀬さんも自分の感情や暮らしを歌にして残したいと思ったりしますか?

長瀬:いずれはできるようになりたいと思っています。印象に残ったことがあると書き留めたりしてるんですが、まだ修行中みたいな感じです。

曽我部:具体的に生活のことを書かなかったとしても、歌っている人の価値観とか感情は歌に出るんですよね。感動しそうなことを文面に並べても全然感動しないでしょ。そういうことではなくて、その人が持っている何かが聴いている人を感動させるんだと思うんです。長瀬さんの歌にも、長瀬さんが今まで生きてきて感じたこと、大事なこと、傷ついたことが全部出てるんじゃないかな。

長瀬:はい。

曽我部:ただね、歌えば歌うほど、長くやればやるほどテクニックみたいなものが身についちゃうと思うんですよ。「この曲はこういうふうに歌ってやろう」みたいな演出もできるようになっちゃうんだけど、それはあまり良くないと思っていて。

長瀬:歌が上手いアーティストさんはいっぱいいて、自分もそっちに引っ張られそうになることがあるんです。もっと上手く歌えたらなと思ったりもするんだけど、それだけでは響かないだろうなとか。

曽我部:上手く歌いたいっていうのは、誰しも思ってるでしょうね。ただ、そうなったときに「何が大事だったんだっけ?」って立ち戻る瞬間が来ると思うんですよね。僕もそうで、ずっと自問自答しながらやってますよ。ライブもそう。

長瀬:ライブで意識していることはあるんですか?

曽我部:さっきも言ったけど、まずは一生懸命、全身全霊でやることだよね。そのとき出し切れる力の1.5倍くらいを目指して。それしか術がないし、そこまでやって届かなかったから、自分も納得できるというか。長瀬さん、練習する?

長瀬:すごくしちゃうんですよ。たぶん不安だからだと思うんですけど。

曽我部:どんな練習?

長瀬:まず最初から最後まで1曲歌って、それを録音したのを聴いて、気になったところを繰り返し練習して。あと、たまにライブの本番と同じような環境で歌ってみることもあります。日々研究してるんですけど、最近、練習しすぎもよくないのかなって思ったりしますね。曽我部さんは練習されるんですか?

曽我部:バンド練習しかしないですね。歌の練習をするのは、本当にたまにです。あとはライブかな。本番やって、「今日はすごく上手くいった!」と思っても、録音したものを聴いてみると「あれ? ずっとフラットしてるじゃん」とか。

長瀬:自分もあります。悔しいですよね……。

曽我部:難しいよね。もっと練習すれば満足できる歌が歌えるのかなって思ったりもするけど。ホールでやってると、音が混沌としてきて、ピッチが取りづらくなることもあるし。そういうときは「落ち着け」って言い聞かせてます。

長瀬:曽我部さんでもそんなことがあるんですね。ちょっと安心しました……!

曽我部:まだまだですよ。まあ、ライブとレコーディングは別だと思ってるんだけどね。レコーディングはすごく丁寧にやるんだけど、ライブはウワーッてやってるから。ピッチとかそういう話ではないし、その場にいる人に向かって呼びかける、叫びかける感じだからね。しかもライブは一発勝負だから。最高に楽しいよね。

——長瀬さんは8月に初のワンマンライブを控えています。

長瀬:今まではオンラインライブだったり、会場でのライブでも事務所のメンバーと一緒だったりしたのですが、8月のライブは一人で出て、お客さんを前にして歌うんです。今から楽しみでもあり、すごく不安ですね……。

曽我部:大丈夫だよ。長瀬さん、堂々としてますよね。

長瀬:え、本当ですか。いつもライブの前は緊張してて、スタッフの方に「もっと自信持って」と言われてるんですよ。ただ、歌だけは自信があるというか、自分の歌、けっこう好きなんです。言葉にすると変かもしれないけど、自分の歌のファンというか。

曽我部:大事なことだと思います。長瀬さんは何も変える必要がないと思うし、そのままでいいと思う。僕もそういうふうに歌いたいです。

長瀬:……ありがとうございます。いろいろ考えちゃうこともあるけど、がんばります。

あわせて読みたい

長瀬有花、下北沢を学ぶ。 ー下北沢SHELTER編ー 店長 義村智秋氏に聞く、多くのアーティストから愛される街の魅力

『長瀬有花、下北沢を学ぶ。 ー下北沢SHELTER編ー』  長瀬有花はバーチャルの世界(二次元)とリアル(三次元)を行き来しな…

長瀬有花が下北沢に残したいくつもの痕跡 二次元と三次元を横断したコンセプトライブ『Home』

6月11日、長瀬有花がバーチャルオンラインライブ『Yuka Nagase Concept Live "Home"』を自身のYou…

■長瀬有花ライブ情報
『長瀬有花 LIVE “Eureka”』
・日程:8月25日(金)
・場所:東京恵比寿・LIQUIDROOM
・時間:OPEN 18:00/START 19:00
・チケット:
プレミアムチケット:18,000円(税込)※特典グッズ付き
一般チケット:6,000円(税込)

<プレミアムチケット特典グッズ詳細>
・レコードパッケージ風Tシャツ(限定デザイン)
・刺繍ワッペン
・お持ち帰りライブCD「長瀬有花 LIVE “Eureka”」

 チケット情報
・プレイガイド:https://l-tike.com/nagaseyuka/
・先行抽選販売:6月12日(月)12時 ~ 7月2日(日)23時59分まで受付
・一般販売:7月8日(土)18時 ~ 8月24日(木)23時59分まで受付

主催 DISK GARAGE
企画・制作 汽元象レコード:https://riot-music.com/kigensho-records/
お問い合わせ DISK GARAGE:https://info.diskgarage.com/

■長瀬有花関連リンク
【Twitter】https://twitter.com/yuka_n_RIOT
【YouTube】https://www.youtube.com/channel/UCf-PcSHzYAtfcoiBr5C9DZA
【TikTok】https://www.tiktok.com/@nagase_plus
【サブスクリプション】https://stlink.to/YUKA-NAGASE_PR

■サニーデイ・サービスライブ情報
『サニーデイ・サービス TOUR 2023 第2部』
オフィシャル先行予約 
6月20日(火)17:00~6月26日(月)23:59
受付: https://w.pia.jp/t/sunnydayservice-tr/

9月2日(土)旭川 CASINO DRIVE
9月3日(日)小樽 GOLDSTONE
9月15日(金)静岡 Freakyshow
9月29日(金)宇都宮 HEAVEN'S ROCK VJ-2
10月9日(金・祝)浜松 窓枠
10月27日(金)熊谷 HEAVEN'S ROCK VJ-1
10月29日(日)横浜 Bay Hall
11月5日(日)四日市 CLUB ROOTS
11月10日(金)鹿児島 CAPARVO HALL
11月11日(土)熊本 Django
11月17日(金)盛岡 CLUB CHANGE WAVE
11月18日(土)山形 ミュージック昭和セッション
11月24日(金)水戸 LIGHT HOUSE
12月1日(金)秋田 Club SWINDLE
12月2日(土)青森Quarter
12月3日(日)八戸ROXX 
12月8日(金)松本 ALECX
12月9日(土)富山MAIRO
12月13日(水)東京 LIQUIDROOM
12月16日(土)高知 X-pt.
12月17日(日)松山 サロンキティ
12月22日(金)奈良 NEVERLAND
12月23日(土)和歌山 CLUB GATE

<チケット料金>
スタンディング ¥4,500(税込)※ドリンク代別途
※お一人様4枚まで
※紙、電子チケット併用
※個人情報取得: 購入者のみ取得
※中学生以上はチケット必要
※小学生以下は保護者1名につき1名無料

チケット発売日:7月15日(土)10:00~

<オフィシャル先行予約>
6月20日(火)17:00~6月26日(月)23:59 
受付:https://w.pia.jp/t/sunnydayservice-tr/

<プレイガイド最速先行>
6月27日(火)12:00~7月3日(月)23:59 
受付:https://w.pia.jp/t/sunnydayservice-tr/

<e+プレオーダー先行>
7月4日(火)12:00~7月10日(月)23:59 
受付:https://eplus.jp/sunnydayservice/

企画/制作: ROSE RECORDS / SMASH
お問い合わせ: SMASH 03-3444-6751 smash-jpn.com

関連記事