たしかに、今回のアルバムを聴いていくと、SNSなどで大量の情報を得られる今の時代や社会のあり方に疑問を呈しているかのようなリリックが多いことに気づく。例えば、今作のタイトル曲である「Haegeum」。3年前作った伝統楽器によるビートを活かし、「自分自身からの解放」というコンセプトを持ちながら制作したという本楽曲は（※1）、ダークな雰囲気をまとったサウンドの中で、下記のようなリリックをSUGAが淡々と紡いでいくのが印象的だ。

〈해석들은 자유　개소리는 아웃　표현들의 자유　어쩌면 누군가의 죽음 사유　그것 또한 자유일런지　당신의 판단과 추측엔 확실한 신념들이 있는지（解釈は自由　たわ言はアウト　表現の自由　もしかすると誰かの死の事由　それもまた自由だろうか　あなたの判断と推測には確固たる信念があるか）〉

　ショッキングな言葉とともに綴られたこのリリックからは、BTSがスターダムを駆け上がる中でSUGAが見てきたであろう、さまざまな言葉への怒りのようなものを感じる。そして、楽曲の後半では、まさに今回のアルバムのテーマと結びつく〈정보의 쓰나미에서 쓸려 내려가지 말길（情報の波に流されないで）〉というフレーズが出てくる。SUGAが今回のアルバムに関して公に語った言葉はまだ少ないが、この「Haegeum」という楽曲は、彼が今の社会に対して鋭くアンチテーゼを投げかけている作品と言えるのではないだろうか。

　また、3曲目に収録されたJ-HOPEとのコラボ楽曲である「HUH?! （feat. j-hope）」にも、印象的なフレーズが多数並ぶ。不穏な空気の漂うビートとともに〈What the shit, do you know about me？（クソが、俺のこと知ってんのかよ）〉〈Fuck that shit, you think you know’bout me(All me)（クソどうでもいい。あんたが俺を知ってると思ってるだけだろ。俺のすべてを）〉というリリックを聴いていると、「誰かのすべてを知った気になっていないか？目の前の情報だけで判断していないか？」とSUGAに問いかけられているように感じる。このようなリリックは、タイトル曲「Haegeum」で描かれたテーマにも繋がる部分がある。

　ただ、今作を1曲目から聴いていくと、アルバムの中盤で曲調が激しいものから少し落ち着きのあるものへと変化していく。そして、歌詞は社会や人間関係への憤りを描いたものから、韓国の人気歌手・IUとコラボした「People Pt.2（feat.IU）」に描かれているような、人間関係や人生を深く考察したものへと変わっていく。例えば、ブームバップをメインとしたポップR＆Bの「People Pt.2（feat.IU）」は、SUGAが3年ほど前、人間関係について悩んでいた時期にできた曲で、自分自身もこの楽曲に救われた部分があるのだという（※1）。

　そして、9曲目に収録された「Snooze」では、坂本龍一によるピアノと韓国のバンド The RoseのWOOSUNGのボーカルでコラボレーションしている。夢をテーマとし、静かなピアノサウンドの中で〈다 괜찮아질 거야（全部うまくいく）〉という歌詞が何度も出てくるこの楽曲には、「夢を見る子、僕たちを見て夢を見る子へ、してあげたい話を沢山込めました」とSUGAは語っている（※1）。

　今回のアルバムは、そのテーマの一貫性や各楽曲の強烈なコンセプトのほかにも、多彩なサウンドを楽しめるのも特徴だ。1曲目から歪んだエレキギターと叫ぶようなラップで攻撃的なサウンドがリスナーの耳を奪う「D-Day」、洗練されたメロディとビートが印象的な「SDL」、エレキギターとストリングス、坂本によるピアノ演奏の中にSUGAのラップが響く「Snooze」、効果音で映画の中の荘厳なBGMのような楽曲となっている「Interlude：Dawn」など、SUGAの楽曲制作力の高さを改めてうかがい知ることのできる作品となっている。

　かねてからソロ名義で楽曲を発表し、多くのファンや音楽関係者から評価を集めていたSUGA。ときに心の深淵まで描き出すようなその楽曲は、人間の闇を鋭く描き出してリスナーをドキッとさせたかと思えば、「People Pt.2（feat.IU）」で〈눈물이 터져 나오면 그대 울어도 돼 당신은 사랑받기에도 이미 충분한데（泣きたいなら、泣けばいい　君は愛される資格があるんだから）〉と歌ったように、誰しも持つ弱さに寄り添い、心が救われるような力を秘めている。一方でSUGAはIUのYouTube番組『IU's Palette』の中で、「最近は楽曲制作の原動力となっていた“怒り”が減ってきた。だから、Agust Dの3部作が終わると同時に、（Agust Dに）会えなくなるかもしれません」とも語った。彼は4月26日より始まるワールドツアーの中で何を語り、パフォーマンスを通じて私達に何を伝えようとするのだろうか。

※1：https://youtu.be/OP9I2w7UMDc