スピッツは変わらず“スピッツ”のまま新たな旅に出る 『コナン』の物語とリンクした瑞々しい優しさと反骨心

 曲名にある〈鰭〉や〈小惑星〉のような単語が醸し出すファンタジックなムードの中に、〈よろめく足を踏ん張って〉と地に足を着けてなんとか生きている人間の姿が浮かぶ歌詞もいい。振り返れば草野マサムネの歌詞は、社会や世界の理の端っこをよろめきながら歩く人にあたたかな目を向け続けてきた。動物や魚や虫や花といった生き物たちを登場させながら、彼はそれらに人間を、ときに自分自身を託してきたのだと思っている。そのやるせなさを受け止めながら、内側に眠る微かな反骨心に火を灯す。〈流れるまんま 流されたら/抗おうか 美しい鰭で〉と歌うこの曲は、そんなスピッツの根っこを草野らしい言葉で言い表したものだ。世界との距離を繊細に測り、ときにそれに寄り添い、もしくは反発しながら、まさに〈コツをつかんで生きて来た〉4人の姿が、この「美しい鰭」には刻まれている。歌詞に登場する〈冷たい水〉という言葉に、「チェリー」を連想するのは深読みのしすぎだとしても、〈100回以上の失敗は ダーウィンさんも感涙の/ユニークな進化の礎〉というフレーズには、ずっと続いてきたバンドの歩みを丸ごと肯定するような響きがある。

 そういう意味で重要なのが、いわゆる落ちサビで歌われる〈優しくなった世界をまだ 描いていきたいから〉という言葉である。ここで歌われる〈まだ〉にはとても大きな思いが込められているように感じられる。『コナン』に限らずミステリーとは事件によって混乱した秩序を取り戻す物語だが、そのすべてが収まったあとの〈優しくなった世界〉は、スピッツがずっと追いかけ続けてきたものでもある。それを〈まだ 描いていきたい〉というメッセージは、これからも続くであろう『コナン』の物語へのエールであると同時に、スピッツの決意でもあるのだと思う。物語は続く、優しさの方へと。スピッツがスピッツであり続けるとは、その果てなき旅を続けていくということなのだ。

 その“続けていく”思いはカップリング曲にも滲んでいる。アコースティックギターの音色がキラキラと眩しい「祈りはきっと」で歌われる〈巻き戻せない時を越え 始めよう/新たなる旅路〉というフレーズ、そしてタイトルを口にしただけでなんだか笑顔になってしまう「アケホノ」の軽やかで鮮やかなバンドサウンドに乗せて届けられる〈上書きされる初恋の定義/ナマケモノのまんまで 走れるかもね頑張れ〉という瑞々しい気持ち。このシングルに収められた3曲はどれも、今まで歩んできた道のりをちゃんと見つめながら、その上に立って前へと足を踏み出している。〈新たなる旅路〉で始まる新しい“初恋”に、スピッツは今胸を躍らせているのだ。このシングルを経て5月17日にリリースされるニューアルバムの名前は『ひみつスタジオ』。まるで子どものような無垢さをたたえた最高のタイトルに、今からワクワクが止まらない。

※1:https://www.conan-movie.jp/news26/1677148349.html

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