來-Ray-×二ノ宮はぐ×YAMAADに聞く、リアルと仮想を区別するSTUDIO KyoUの画期性 長期活動できるVアーティストの在り方
來-Ray-と二ノ宮はぐが所属するV&Rアーティストプロジェクト STUDIO KyoUが、2022年11月に始動。これまでもコンスタントに楽曲を発表する中、3月16日に來-Ray-のニューシングル「Turning Over」が配信された。同曲はASICS Japanのブランドムービーのテーマソングを務めており、新しいことや挑戦に踏み出せず葛藤する人の背中を押す応援歌に仕上がっている。
さまざまなバーチャルアーティストが登場する昨今、STUDIO KyoUはあえてリアルとバーチャルを区別し、それぞれの分野でのアーティスト活動を展開。YouTubeなどの投稿はイラストだが、リアルライブは本人が生身でパフォーマンスするなどが予定されているようだが、まだその詳細はベールに包まれている。リアルサウンドでは、プロデューサーのYAMAAD、來-Ray-、二ノ宮はぐの三者にインタビュー。プロジェクトの全貌からバーチャル/リアルにおける新しい表現について話を聞いた。(編集部)
長期的に生き残っていくためには生身を記憶してもらうことが重要(YAMAAD)
ーーまずはV&Rアーティストプロジェクト、STUDIO KyoU立ち上げの経緯を教えてください。
YAMAAD:発端は來-Ray-と二ノ宮はぐの2人に出会ったところからで。2022年の3月にまず僕が自主制作で出した「Happy!」という曲で來-Ray-に歌唱してもらったんです。その後、8月に出した「負けてやる」という曲では二ノ宮はぐに歌唱してもらいました。その時点で2人とも歌い手として活動していたわけですけど、それぞれに話を聞いてみるとゆくゆくはアーティストとしてやっていきたいという意志があって。だったらそのチャンスを探ってみようということで、一緒にデモ音源の制作をするようになったんです。当初はスタジオという形態での活動は考えていなかったんですけど、來-Ray-とはぐの2人を別々にプレゼンしていくのではなく、1つのプロジェクトとしてしっかり着地点が見える動き方のほうがいいんじゃないかなと思いまして。その結果、生まれたのがSTUDIO KyoUなんですよね。今ご一緒しているavexさんにプレゼンしたのが昨年9月で、プロジェクト始動が11月なので、かなり短いスパンで準備することになってしまったんですけど(笑)。
ーーSTUDIO KyoUは、「“虚構”と“うつつ”に境界を引き、実在性を求める」というステートメントを掲げています。そこについても具体的に説明していただけますでしょうか。
YAMAAD:“虚構”と“うつつ”という表現は少し難しいですけど、ざっくばらんに言えば“リアル”と“バーチャル”ってことなんです。なぜそこに境界線を引くかと言うと、まずひとつとしてネットミュージックの問題点、不安点が挙げられます。僕自身、ボカロPとしての活動をしてきた中で、メタバースにおけるXR分野が技術的に追いついていない印象があったんですよ。例えば、最近は様々なVsingerさんが実際のライブハウスやホールでライブ活動をされていて。そこに大きな技術的発展は見られますけど、細かく見ればアーティストの歌と口の動きが嚙み合っていないなど、まだまだ足りない部分も多い。その結果、生身のアーティストが行うリアルライブと、バーチャル的なホログラムなどを使ったライブでは、オーディエンスが得られる経験の差が大きくあると思うんですよ。
ーーだったらライブはリアルに振り切ればいいんじゃないかと。
YAMAAD:はい。今ある技術の中でどういった形態でライブをするのがお客さんにとって一番喜んでもらえるものなのかを考えたときに、ライブにはバーチャルを持ち込まない方がいいのではないかと考えました。僕らはいわゆるテック企業になりたいわけではないので、まだ足りない部分のあるXR分野にあえて踏み出さなくても、リアルでできる最大限のことをやるほうがいいだろうと。それがSTUDIO KyoUとしての大きなステートメントになりますね。
ーー現在のメタバースで活動しているVsingerの多くは、リアルとバーチャルの垣根をなくしたいという思いを持って活動されている方が多いので、STUDIO KyoUの方向性は真逆とも言えますよね。そこに関して、所属アーティストであるお2人はどう感じましたか?
來-Ray-:私がネット上で顔を出さずに歌い手を始めた理由は、ビジュアル面を抜きにして、自分の声、自分の歌だけで評価してもらいたかったからなんです。ただ、リアルのアーティストさんのライブを生で拝見すると、そこにはバーチャルでは感じられない大きな感動があるのも事実で。私自身、何度かライブハウスに立って歌った経験もあるので、アーティストとして活動していくのであれば、目の前にいる人たちに自分の歌声や歌詞に込めたメッセージを直接しっかり届けたいなという気持ちもあったんです。なのでSTUDIO KyoUの方向性はすぐ受け入れられましたね。パフォーマンス力というのは実際に自分がステージに立たないと磨かれないものだとも思うので、そこにやりがいも感じますし。
二ノ宮はぐ:私は10年以上、インターネット空間で歌い手をやっているんですけど、一時期そこから離れたことがあって。そのときにはリアルでバンドを組み、ライブ活動をしていたので、生身で歌うことがお客さんに大きなエネルギーを届けられるということは身をもって知っていたんですよ。さらに言うと、過去には演劇の研究をしていたこともあるので、人前に立って総合芸術的なものを届けたい気持ちは大きくて。STUDIO KyoUはそれが実現できるプロジェクトだと思うので、YAMAADさんの考え方にすぐ賛同して、参加させてもらうことにしたんですよね。
ーー資料を拝見すると、“虚構”と“うつつ”に境界を引く理由は他にもあるとか。
YAMAAD:はい。もうひとつの大きな理由が、アーティストのメンタルヘルスです。メタバースで活動するVsingerさんのメリットとして、「アバターは老いない」とよく言われます。でも、現実問題としてアバターの中の人、その魂を担うアーティストさんが年齢を重ねていくことはどうしたって止められるものではない。5年くらいまでだったらあまり問題はないと思うんですけど、活動が10年20年と続いたときに、きっとメンタルヘルス上の問題が生じてくるはずなんですよ。僕はこのSTUDIO KyoUを長期的に展開していくプロジェクトだと思っているので、所属アーティストがアバターだけでやっていくことに大きなリスクを感じたんです。だからこそ、アーティストが生身で表現できる場を絶対に作りたいと思ったんですよね。
ーーSTUDIO KyoUのアーティストは年齢を重ね、成長していく姿も余すことなく届けていくということですね。
YAMAAD:はい。今のエンタメ業界は消費速度がものすごく速くなってきていますよね。その中で長期的に生き残っていくためには、そういった生身の姿をしっかり意識し、記憶してもらうことが重要だと思うので。アーティストを応援したいと思う気持ちは、リアルな姿を見せることで一番アプローチできるはずなんです。