松本千夏×LITTLE「Smile in your face」対談 原曲リリースから20年、世代を超えて語り合う音楽シーンの変化

誰にでもシンデレラストーリーが待っている時代(松本千夏)

――松本さんにはご自身が生まれた頃から活躍されているアーティストさんはどのように映っているでしょうか。

松本:FMヨコハマでラジオ番組をやらせていただいていて、番組でオンエアする曲を自分で選曲していることもあって日々いろんな時代の音楽を聴くんですけど、曲にもその人にも強烈な個性があると感じます。宇多田ヒカルさんも椎名林檎さんもaikoさんもCHARAさんも、その人自身が神様みたいな存在というか。ファンの人たちもその人から生まれる音楽を愛している印象があります。

――確かに90年代からアーティストのキャラクターがフィーチャーされた音楽番組も増えていたので、そこをきっかけにブレイクした方も多かったですね。でも逆に今は、ストリーミングサービスやSNSが発達して、曲単体がフォーカスされている。

松本:“○○さんの音楽が好き”というよりは、“○○さんの「△△」という曲が好き”って感じの子が多いと思います。スマホのアプリで曲も作れるし、どんな場所に住んでいても何歳であってもネット上に楽曲をアップしていたら何かのきっかけさえあれば楽曲の再生数がどんどん回っていくし、誰にでもシンデレラストーリーが待っている時代だと思いますね。

LITTLE:今はいろんなツールがあるから、変に綺麗にトリートメントされる前のフレッシュな才能が次々と出てくるよね。地元のライブハウスやクラブ、そこにいる先輩たち、大人たちが集まったレコード会社の会議室を通らないで世に出られるのはうらやましい。自分が若い頃に、今の時代で音楽をやってみたいなと思うことはあるね。聴き手も作り手も若くて、いちばん音楽を聴いている世代といちばん音楽を作っている世代が直接つながるんだから、それはすごくいいことだと思うし。

松本:わたしの音楽仲間にも、事務所に入っていなくても、いい曲を出すとポンポンポンって広がる人たちは多いので。だからいいものは自然と広がって評価される、すごくシンプルな時代だとも思いますね。

LITTLE: 2000年代前半から音楽の配信リリースが始まって、その時点でストリーミングサービスまではなんとなく想像できたけど、制作者側だけでなく受け手側も動画を作ったり、あれだけ音楽を使うことになるとは思ってもみなかったな。やっぱりTikTokは画期的だったよね。

――いろんなところで語られていることではありますが、この20年で音楽の聴かれ方、音楽の発信の仕方もかなり変わったと思います。その怒涛の変化の中で音楽を続けてきたLITTLEさんとしては、難しい側面もあったのでしょうか。

LITTLE:どうなんだろう。20年前の時点で僕らのシーンではすでにターンテーブルがCDJに移り変わったりもしたから、徐々にCDJを使っていた人たちがPCでDJするようになったりはしてたんですよね。USBを1個持って行けばすぐDJができるようになった。もちろん“そんなのDJじゃない”って言ってた人たちもいっぱいいたけど、新しいものに順応してる人たちのほうが結果いい方向に転がってる気がしますね。

――新しいものを面白がることで、新鮮な気持ちで長く続けられるというか。

LITTLE:多分そういう人たちは、聴いてきた音楽や自分のやっている音楽、活動に確固たる自信があるから、新しいフォーマットであっても機材がどう変わっても自分のカラーを出せるんだと思いますね。ひとまず取り入れて“これは自分のスタイルに向いてるな”とか“全然これで大丈夫だ”みたいな基準を自分で作れる人が、時代に順応できるんじゃないかな。……千夏ちゃんも何かものを買うときに感じたりしない? 今使ってるメーカーと違うものを買いたいなと思いつつ、あんまり詳しくなくて結局同じものを使い続けたり。

松本:確かにそうかもしれないですね。

LITTLE:俺もあんまりカメラに詳しくないから、安パイのめちゃくちゃ高いレンズを買っちゃったりするの(笑)。でもこの前現場で一緒になったカメラマンさんが“これ中華ブランドのレンズですよ”と言っていて、値段を聞いてびっくりして。でもカメラマンさんは“全然これで十分ですよ”って。それは自分で積み重ねてきた経験値からくる自信だよね。そのときに“あ、俺は自信がないから高いのばっか買ってたんだな”と思った。だから音楽もそういうのと一緒で、その人にちゃんとジャッジできる軸があればいいんじゃないかな。

――選択やジャッジの重要性は、音楽ジャンルにも言えることだと思います。松本さんも様々な音楽性にチャレンジなさっていますが、その理由とはどんなものでしょう?

松本:“音楽ジャンルを決めたほうがいい”とはずっと言われてきましたね(笑)。確かにジャンルを決めたほうがプレイリストに入りやすいし、わたしの声はポップス向きだと言われるからポップスに振り切ったほうがいいのかもしれないなとも思うんです。でも今はいろんな音楽がすごく手軽に聴けるし、この曲のジャンルってなんだろう? と思う曲も溢れていて。そういう環境にいると自分のやりたいこともカッコいいと思うものも毎日更新されていくんですよね。特定のジャンルが好きだから音楽をやっているのではなく、音楽を通して出てくるものがすべて好きだから、その時その時の自分のやりたいことをやれて、そこに嘘がなかったらいいなと思ってます。

LITTLE:いろんなジャンルに挑戦できるのがソロアーティストの人の特権でもありますよね。俺はヒップホップのカルチャーで生きている人間だけど、やっぱりやりたくないことはやらないっていうことに尽きると思う。やりたいことならとっくにやってるし、大きなステージに行くためにラップを選んだわけじゃないし、全部ラップが好きだからやってるだけ。その理由が軸にないことは、あんまりしたくないなと思いますね。

――「Smile in your face」のリリースで幕を開けた2023年、おふたりにとっていいスタートになったのではないでしょうか。

松本:デビュー2年目で壁にぶち当たることもいっぱい出てきて、この先どんなふうに頑張ろうかと考えていたタイミングだったので、今回LITTLEさんとご一緒させていただいて、めちゃくちゃありがたかったです。すごい人なのにわたしとも対等の目線で接してくださるし、いつもフラットでいてくれるところがすごくカッコよくて、LITTLEさんみたいな大きな人になりたいなと思いました。自分にエンジンがかかりましたね。

LITTLE:千夏ちゃんはラップもうまいし、これからも既存のかたちに捉われず、自分のスタイルをいろんなパフォーマンスで貫いてほしいですね。すごく稀有な存在だと思うので、いろんな面を見せられるようになったらすごく楽しいことができると思う。期待してます。

■リリース情報

「Smile in your face」
松本千夏 feat.LITTLE
配信:https://chinatsu-matsumoto.lnk.to/smileinyourfacePR

松本千夏 オフィシャルサイト
https://matsumotochinatsu.com/

LITTLE オフィシャルサイト
https://little.vc/

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