ケンドリック・ラマー、カーディ・B&ミーガン・ザ・スタリオン、Metallica……時代を動かしたグラミー賞のパフォーマンス

 2023年2月6日(日本時間)に開催される『第65回グラミー賞』。以前今年のグラミー賞の主要4部門における予想と、近年のグラミー賞の変化について書いたが(※1)、今回は歴代グラミー賞で特に印象的だった6組のパフォーマンスを紹介したい。

ケンドリック・ラマー(2016年、2018年)

 近年のグラミー賞のパフォーマンスで最も印象的であり、社会的なインパクトが強かったのはケンドリック・ラマー(2016年、2018年)のパフォーマンスであろう。2016年には『To Pimp A Butterly』収録の「The Blacker The Berry」と「Alright」、そして未リリースのヴァースを披露し、ブラックアメリカンに対する不当な扱いや人種差別の上で成り立っている社会システムに抗議する演出が大いに話題になった。未リリースのヴァースでは、2012年に起こったトレイボン・マーティン射殺事件について、「(トレイボンが射殺された)2月26日に、私の人生も失くした」という内容をラップした。

 2018年にはグラミー賞のオープニングを務め、「XXX.」「DNA.」「New Freezer」「King's Dead」を披露。U2のボノやジ・エッジ、コメディアンのデイヴ・シャペルとも共演して、圧巻のパフォーマンスとなった。

Watch Kendrick Lamar, U2 & Dave Chappelle Open The 2018 GRAMMYs | GRAMMY Rewind

ハービー・ハンコック(1984年、1985年)

 1984年のグラミー賞にて「Rockit」を披露したハービー・ハンコック。1980年代の雰囲気を詰め込んだ奇妙な演出、ブレイクダンス、そしてターンテーブルをフィーチャーしたパフォーマンスはヒップホップカルチャーが生み出したテクニックをお茶の間に披露した瞬間であった。また、翌年1985年のグラミー賞では、トーマス・ドルビー、スティーヴィー・ワンダー、ハワード・ジョーンズと共にシンセサイザーメドレーを披露し、1980年代に広まったシンセサイザーという近未来の楽器の魅力を世界に紹介した。

スティーヴィー・ワンダー(1975年)

 通算で74度のノミネート、25個のグラミー受賞を果たしているスティーヴィー・ワンダー。1973〜1976年には3作連続で年間最優秀アルバムを受賞し、グラミー賞に大きなインパクトを残してきた伝説的なアーティストであるが、彼の1975年のグラミーパフォーマンスは特に評価されている。そこで披露した「You Haven’t Done Nothin’」は、ニクソン政権を批判したものであり、リリース当時「(政治家は)みんな約束をするけど、最終的には何も起こらない。私は実際に何か行動を起こした人にしか投票しない。大統領も他の政治家も『できるだけのことをやっている』と言って、何年も何年も期待だけさせる。彼らの嘘にはもう、うんざりだ」(※2)とコメントしていた。

Metallica(1989年)

 グラミー賞は1989年に初めてメタルというジャンルを認識し、最優秀ハードロック/メタル・パフォーマンス賞を創設した。メタルバンド史上初のグラミー賞パフォーマーとなったMetallicaは、アルバム『...And Justice for All』(1988年)からシングル曲「One」を披露。ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)は、歌い出しは少し緊張しているように見えるものの、曲の後半でスラッシュメタル特有のギターリフとシャウトのパートに入った瞬間に本領を発揮していることがわかる。メインストリームにメタルというジャンルが認められた瞬間であり、メタルカテゴリが創設されて以来、Metallicaは8度受賞している。

 1989年のグラミー賞では、リスナーの期待を裏切り、ジェスロ・タルの『Crest Of A Knave』が最優秀ハードロック/メタル・パフォーマンス賞を受賞。メディアやファンから多くの批判を受け、翌年からハードロックとメタルのカテゴリが分かれるようになった。

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