ASPが見据える、メジャーデビューのその先 “伝説”の日比谷野音で再会を誓う
ASPがavexからのメジャーデビューを発表したのは、今年5月23日にSpotify O-WESTで開催した『ACOUSTiC SAD ORCHESTRA TOUR』アンコールでのこと。そして、同時にアナウンスされたのが、メジャーデビュー直前の8月27日に日比谷公園大音楽堂で行うワンマンライブ『ACOUSTiC SAD ORCHESTRA TOUR FiNAL – 一触即発 – CRiTiCAL SiTUATiONS』だった。
この約3カ月の期間の中で、ASPはSpotify O-WEST公演から残り17公演の『ACOUSTiC SAD ORCHESTRA TOUR』、さらに並行して「全国“ご縁“結び」と題したメンバーの訪店イベントを実施。双子の姉妹であるマチルダー・ツインズ、ウォンカー・ツインズの足の怪我によりメンバーが欠けたツアー公演が一部ありながらも、ASPはツアーファイナルとなる野音へと辿り着いた。
まず、前説として登場した音楽事務所WACK代表の渡辺淳之介から、ならず者(ASPファンの呼称)に収容人数3000人の会場に1500人が集まったことが告げられる。ASPとしてはライブ最大動員ではあるが、キャパシティの半分。だが渡辺はこうも続ける。「僕、思ったんですよ。ならず者って、天使なのかなと思って。チャンスをくれてるんですよね。もう一回やる」と。開演前に宣言された野音でのリベンジ。メンバーたちには酷な話かもしれないが、この時点で筆者は“伝説“を目撃できるかもしれないという胸の高鳴りを抑えられずにいた。
2023年7月に開設100周年を迎える野音は、“音楽の聖地“と呼ばれている。ASPの公式YouTubeチャンネルに公開されているメジャーデビューと野音に向けたカウントダウンインタビューの中で、渡辺やメンバーから口々に出てくるのは「伝説」という言葉。渡辺にとってはかつて、甲本ヒロトがTHE BLUE HEARTSとしてステージで叫んだMCが伝説であり、メンバーたちにとっては2016年のBiSH、2019年のGANG PARADEの野音がそれに当たる。特にBiSHの「オーケストラ」は今でも語り草となっている伝説だ。
2021年3月のグループ結成から実に1年半という短期間で、先人たちと同じステージに立つメンバーのプレッシャーや不安は容易に想像できる。しかし、アンコールを含め全26曲、約2時間に及ぶライブで目の当たりにしたのは、そんな弱気な自分を微塵も感じさせない、気迫溢れるメンバー7人の姿だった。もちろんライブの幕を開けた「BE MY FRiEND」から彼女たちは全力だったが、ギアがかかってきたのは4曲目の「A Song of Punk」。本楽曲についてマチルダーの「ならず者と私たちの始まりの歌」という言葉があったように、メジャーデビューシングル『Hyper Cracker』にも「A Song of Punk 2022」として現体制で再新録されているほど、グループにとって大切な楽曲となっており、野音の会場にならず者の人差し指が一斉に上がる。「DiVE」「BOLLOCKS」とアナーキーな2曲を経て、会場に一体感を生んだのが「ITSUMO KOKOKARA」だ。獲物を仕留めるような鋭い眼力を放つユメカ・ナウカナ?を筆頭にして、チッチチチーチーチーのデスボイスと、ならず者をガンガン扇動していく同曲。会場に響き渡る力強いクラップに加えて、ちょうどこの時間帯に日没を迎えたことにより、照明がドラマチックに演出していたことも印象的だった。野外のライブでしか作り出すことのできない夜のマジックだ。
ASPは8月6日に出演した『TOKYO IDOL FESTIVAL 2022』のステージで、持ち時間いっぱいにMCなしでパフォーマンスを見せつけるというストイックなライブを展開した。それは『ACOUSTiC SAD ORCHESTRA TOUR』を7月31日の福岡公演まで回りきり、残すは野音のみといったタイミング。『TIF2022』はマチルダー、ウォンカーを除く5名での出演だったが、それでも感じたのはツアーを巡り、メンバー一人ひとりが頼もしく成長しているということ。野音全体に得も言われぬ熱気が渦巻くライブ終盤は特に顕著だった。