wacci、松下洸平とのコラボ映像やTikTokでも話題の「恋だろ」がロングヒット リスナーの心を刺すありのままのラブソング
今年6月にリリースされたwacciの「恋だろ」が、7月度のLINE MUSIC 10代トレンドランキングで1位を獲得し、現在もストリーミングでヒットを続けている。この曲は木曜劇場『やんごとなき一族』(フジテレビ系)の挿入歌として書き下ろされたラブソング。ドラマは土屋太鳳が演じる平凡な一般家庭で育ったヒロイン・佐都と、松下洸平が演じる江戸時代から400年以上続く名家の次男・健太が結婚し、「やんごとなき一族」の中で醜い諍いや男尊女卑的な慣習に翻弄されながらも、立ち向かっていく物語だ。この挿入歌「恋だろ」は、豪華絢爛な世界観の中で、どんな状況にあっても相手のことを大切に思う二人のピュアな恋愛感情を飾らずストレートに表現しており、そのコントラストが際立った。
「恋だろ」はドラマが回を重ねるにつれ、ストリーミングでの再生回数が平均2〜3万ずつ右肩上がりに増加していった。ドラマは6月30日に最終回を迎えたが、その後もロングヒットを続けているのはなぜなのか。ひとつはwacciのワンマンライブで松下洸平がゲスト出演して「恋だろ」をコラボした映像が、ドラマ終了後に公開されたことが大きな話題を呼んだ。シンガーソングライターとしても活動する松下の深みのあるボーカルと、wacciの橋口洋平(Vo/Gt)との極上ハーモニーも、この曲の良さをさらに多くの人に知ってもらうきっかけになった。それに加えて、ドラマ放送中から土屋太鳳をはじめとする出演者たちが「恋だろ」に手振りをつけてTikTokに投稿した動画も人気となり、多くの一般ユーザーもそれを真似て投稿するなど楽しい波紋が広がっている。こうした動きが10代のリスナーを中心に幅広く「恋だろ」の曲の良さを知ってもらう機会になった。
男性ボーカリストにおけるラブソングのヒット曲の歴史を振り返ると、小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」やCHAGE and ASKAの「SAY YES」(共に1991年)、そして藤井フミヤ「TRUE LOVE」(1993年)、福山雅治「HELLO」(1995年)など、当時流行ったドラマ主題歌としての大ヒット曲がまず思い浮かぶ。さらに、幸福感に満ちたポップさで時代を包み込んだ小沢健二「強い気持ち、強い愛」(1995年)、プロポーズソングとしても長く時代に愛されたのがSMAP「らいおんハート」(2000年)、今もなお多くのアーティストにカバーされるMONGOL800「小さな恋のうた」(2001年)、ストレートで真摯な歌詞と甘いメロディが特徴的なMr.Children「君が好き」(2002年)やスキマスイッチ「奏(かなで)」(2004年)など。こうして並べてみると平成時代にヒットしたラブソングはエモーショナルな熱量を帯びているものが多かったとも言える。
一方、ここ最近の男性ボーカリストのラブソングは、エモーショナルな熱量を帯びた曲調よりも、ストレートで素朴で少し引き算が効いている曲がヒットする傾向にあるように思う。例えば2020年にリリースされた瑛人「香水」は〈別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す〉という、好きだった人への揺れる気持ちが描かれていた。優里「ドライフラワー」(2021年)では〈声も顔も不器用なとこも/全部全部 嫌いじゃないの〉と、まだ心に残るその気持ちを表現した。「好き」とか「愛してる」といった気持ちを押しつけすぎず、世界観も壮大なものではなくミニマムな曲で表現している。2020年頃からTikTokなどで広まりヒットした川崎鷹也「魔法の絨毯」では〈お金もないし、力もないし、地位も名誉もないけど/君のこと離したくないんだ〉と歌っていたことも、コロナ禍での不安な世の中で響く「持たざる者のラブソング」として象徴的だった。