栗山夕璃率いるVan de Shop、この3人でしか生まれないアイデアと音楽 全てが詰まった『鯨骨群衆』を語り尽くす

Van de Shopを形成する音楽ルーツ

ーー栗山さん、端倉さん、仁井さんは、それぞれ違う音楽的なルーツがありますよね。Van de Shopの曲を作っていく上で自分が持ち寄るアイデアのもとになっていると思えるようなものという意味で、受けてきた影響を挙げていただけますか?

栗山:僕としては、Caravan Palaceもありつつ、いろんなアーティストのいいとこどりをしているという感じです。

端倉:私は、学生時代は吹奏楽部に入っていたので。J-POPやポップスも聴いてきて、メロディラインの綺麗なものが好きになる基準として大きかったりします。楽器のフレーズの重なり方というか、一つひとつのパートが全然違うことをやっているけど、全体的に聴くとすごく綺麗な音楽になるようなものが好きですね。オーケストラとか吹奏楽は大きな要素です。

仁井:3人でこれまでにない音楽を作りたいというのが共通しているので、明確なルーツはないようにしたいとは思っています。たとえば、今日本で活躍しているバンドでいうと、CRCK/LCKSのように、ジャズの要素をポップスに昇華しているバンドは、自分なりに咀嚼しつつ聴いています。あとは、「レセプション」のイントロのピアノは(セルゲイ・)プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」からアイデアをもらったり、いろんなところから自分が咀嚼したものを持ち寄っています。

ーージャズ界隈だと顔を合わせて演奏してフィジカルな音楽的コミュニケーションをとるのが一般的なあり方ですよね。そうではなく、物理的な距離があった上でバンドをやるという前提でスタートしているところにVan de Shopの面白さがあると思うんですが、このあたりはどうでしょうか?

仁井:そこは自分自身も楽しんでるところです。僕はそういったジャズの現場で演奏をすることもあるんですけど、やっぱりそれぞれの界隈、ジャンルや文化によって、メロディやフレーズのアプローチの仕方が全然違う。このVan de Shopというバンドは、そこが柔軟すぎるくらいに何でもありなんですよね。僕はジャズ的な生演奏・セッションしているからこそのアイデアを出したりもしますし、逆に端倉くんは普段からパソコンで作曲作業をしているからDTM的な発想になる。栗山くんは作曲スキルもすごいので、また別の観点からアイデアが飛んできたりする。そこが上手く合わさったからできる音楽があるなと思ってます。

栗山:たしかに、自分の曲でもVan de Shopの曲でも「弾けなくてもいいからこうやらない?」みたいなこと、よく平気で言ってますね(笑)。

端倉:遠隔でやるからこそ新しい発想が出てくるというのはありますね。

仁井:考えてみると、メンバー同士で作曲をするという工程自体がすごくセッションに近いんです。Van de Shopはそれを作曲の場面で、しかもリモートでコミュニケーションしながらひとつの音楽にまとめあげていくことをやっているんだと思います。

ーー作曲のやり方は曲ごとに違ったりするんでしょうか?

栗山:違いますね。「レセプション」は仁井くんからピアノのイントロのフレーズをもらって、僕と端倉くんが一緒にライブを観に行ってホテルに泊まった日に、そのままのテンションで作った曲です。

端倉:メンバーの気分が合えば一晩でできたりするんですけど、逆に煮詰まっちゃったら1年、2年くらいかかっちゃう。

仁井:編曲は僕が進めて、全体の構成とかは3人でかなり話しました。

Van de Shop – レセプション(Official Video)

ーー「コメディなヒーローになれたなら」はどうでしょうか? この曲はビッグバンドのアレンジで、カラフルな曲になっていますが。

栗山:もともとこういうタイプのブラスが入った明るい曲をやりたくて。でも、僕自身が明るい曲を作るのが苦手で。なので2人にお願いして、端倉くんメインで作りました。スケジュールが地獄だったよね。

端倉:ドラマのタイアップ(『ダメな男じゃダメですか?』オープニングテーマ)をいただいた曲というのもあって、ギリギリで完成させました。もともと予定していなかったスケジュールだったから、嬉しい悲鳴なんですけど。

Van de Shop - コメディなヒーローになれたなら / If I Could Be a Comedic Hero(Official Video)

ーー「アグリースワン」には石若駿さんとマーティ・ホロベックさんが参加しています。

栗山:僕的には一番好きな楽曲で、Van de Shopの1曲目のつもりで作っていた曲ですね。何年前だっけ?

端倉:2018年の5月だったかな。かなり年季が入った曲です。仁井くんがピアノを弾いて持ってきて、そこから作り始めました。かなり気合を入れたぶん、めちゃくちゃ白熱しました。制作していくうちに、ラテンというか、ファストスウィングみたいな感じになっていって。気づいたら完成まで3、4年経っていた感じです。

仁井:この曲は生演奏の方が映える感覚がすごくあって。ドラムを生録りするならこういう人に頼めたらいいなって石若駿さんのことを話したら、2人が「頼んでみようよ」と。

栗山:その日のうちにメールしました。

仁井:その流れで、石若さんのドラムにウッドベースを入れるならということで、マーティさんに弾いていただいて。恐れ多い気持ちがあったんですけど、演奏していただけることになって本当に嬉しかったです。

ーー「Tiny」に関してはどうでしょうか? この曲もテンションの高さと発想の飛躍力を持った曲で、Van de Shopのユニークさが出ているように思います。

仁井:これもかなり歴史が長いですね。

栗山:「ONE OFF MIND」の次に作った曲なので。

端倉:もう6年くらいですね。作っているうちにどんどん形が変わっていった。

仁井:当時は満足いく形で完成しなくて、たまに取り上げては少しずつブラッシュアップして、今になってようやくまとまった感じです。演奏が激ムズなので、ものすごくテンションを上げてレコーディングした覚えがあります。

端倉:ピアノをどう格好良く見せるかというところは考えました。「Tiny」に関しては打ち込みのリリースカットピアノと生ピアノを混ぜていて。ピアノが格好良く活躍する曲にできたと思ってます。

栗山:なのでやっと完成できたって感じですね。納得いく形で発表できてよかったです。

関連記事