栗山夕璃率いるVan de Shop、この3人でしか生まれないアイデアと音楽 全てが詰まった『鯨骨群衆』を語り尽くす

 栗山夕璃率いるスリーピースバンド、Van de Shopが1stミニアルバム『鯨骨群衆』をリリースした。

 Van de Shopのメンバーは、ボカロP「蜂屋ななし」としての活動終了後にシンガーソングライターとして名義を変え復活、ソロや楽曲提供など目覚ましい活躍を見せる栗山夕璃(Vo/Gt)、蜂屋ななし時代から栗山の楽曲のアレンジや演奏に参加してきた端倉鑛(Manipulator/DJ)、仁井伯(Piano/Key)の3人。作詞を栗山、作曲および編曲をメンバー全員で手掛け、それぞれのアイデアを融合することで楽曲が仕上がっているという。

 ミニアルバムには、ジャズ、エレクトロスウィング、チルホップなど多彩な要素を織り成し独自のポップスを形作っている全8曲を収録。「アグリースワン」や「Tiny」にはmillennium paradeにも参加し数々のプロジェクトで活躍するドラマーの石若駿、オーストラリア出身で東京在住のマーティ・ホロベックなど、現代ジャズシーンを支える俊英のプレイヤーも参加している。

 そんな3人へのインタビューが実現。結成の経緯から楽曲制作の裏側、アルバムに込められたメッセージ性など、ユニークな成り立ちのバンドの実像に迫った。(柴那典)

Van de Shopと栗山夕璃、それぞれの音楽の違い

ーーまず、どんなきっかけでVan de Shopというバンドが生まれたんでしょうか。

端倉鑛(以下、端倉):経緯としては、栗山くんがインターネットで呼びかけて集まったメンバーです。もともと仁井くんは名古屋、私と栗山くんは北海道に住んでいて、3人とも距離が離れているし、それぞれ全く全然違う音楽性を持っていて。

栗山夕璃(以下、栗山):「バンドやろうぜ」みたいなノリで集まったメンバーではないですね。最初はゲームをやる友達みたいな感じだったんですけど、僕が作った曲を聴いてもらったり音楽の相談をするようになって、その流れで「この3人で音楽を作ったら面白いね」という話になって。2016年ぐらいに1曲遊びで作ったんですよね。

ーーそれが「ONE OFF MIND (feat. 初音ミク&GUMI)」という曲だった。

栗山:そうです。それがネットでの反応が良かったので「また次の曲をやりたいね」とずっと言っていて、そこから今に至る感じですね。Van de Shopという名前も「ONE OFF MIND」を投稿する2日前くらいに決めたんですけれど。

端倉:あの曲を作りながらVan de Shopというスタンスを決めていったみたいなところはありますね。

仁井:3人がそれぞれアイデアを持ち寄って、それを組み合わせていくというやり方です。

【手書きMV】ONE OFF MIND【初音ミク・GUMI】

ーー栗山さんとしては「ONE OFF MIND」ができた時の手応えは?

栗山:すごくありました。その当時、エレクトロスウィングがやりたかったんですけど、どうあがいてもそのときの僕の実力じゃ手が届かないと思って。頭の中にはイメージがあったんですけど、それをパソコンの中で音楽として立体化させる作業ができなかった。それで2人に「どうすればいいかな」って話したところからスタートしていて。つたない言葉で2人に「こうしたい」というのを何回も言って、それを「こう?」って返してもらって、そのやり取りの繰り返しで出来上がった曲なので。理想が形になった感じでした。

ーー栗山さんがエレクトロスウィングをやりたいと思うようになったきっかけや影響は?

栗山:Caravan Palace(パリを拠点するバンド)を聴いたのがきっかけですね。そこからエレクトロスウィングというジャンルにどハマりしてしまって。当時はボカロでやってる人もいなかったし、自分もこの音楽のジャンルをやってみたいと思って。刺さった、っていう感じですね。

栗山夕璃(Vo/Gt)

ーーCaravan Palaceやエレクトロスウィングの音楽性に関してはお2人も共有していたものだったんでしょうか?

端倉:Caravan Palaceに関しては、栗山くんから「こんな感じの音楽をやりたい」って教えてもらってハマった感じです。僕もジャズを聴いていて、仁井くんもジャジーで綺麗な演奏をするピアニストなので。3人がスウィングやジャズっていうところでひとつ繋がったところがあったんですよね。

端倉鑛(Manipulator/DJ)

ーーエレクトロスウィングはVan de Shopの根幹の大事なところだと思うので掘り下げると、いろんなジャズの中でもジプシージャズやマヌーシュスウィングにルーツがあるタイプの音楽ですよね。端倉さん、仁井さんとしては、ジャズの捉え方や好きなところってどういうところにありますか。

端倉:私はVan de Shopを始めてから、色々なジャズの種類を初めて知って。その中で、ジプシージャズやニューオーリンズジャズのような味を持ったものが個人的にはとても好きです。

仁井:僕はその時によって聴くものが変わるんですけど、やっぱりハーモニーやリズムの捉え方の柔軟な感覚がすごく素敵だなと思っています。自分でもそれを取り入れながらアウトプットしようと思っているんですけど、そういう時にエレクトロスウィングはすごくポップにまとまる接合点になるんですね。ジャズは理解するのが難しい分、2人と合わせることでポップにアウトプットすることができると感じてました。

仁井伯(Piano/Key)

ーー2016年に「ONE OFF MIND」を作ってから2021年にバンドとして本格始動するまでの5年間はどんな感じだったんでしょうか。

端倉:たくさん曲を作りながら、ちょっとずつ完成に向けて動かしていった感じです。

仁井:3人で作るってことはずっとコツコツやっていたんです。その間、栗山くんの曲を手伝ったりとかもしてきたし。

ーー栗山さんとしては、去年に蜂屋ななしとしての活動を終了するなどいろいろな転機があったと思うんですが、その中でVan de Shopを本格的に始動するというのは、どういう決断だったんでしょうか?

栗山:僕的には「やっとだな」って思ってます。本当は2016年からずっとバンドで曲を出したいと思っていたんですけど、みんな完璧を目指すので、なかなか曲が完成しなくて。やっと環境が整ってきた感じですね。

ーー今はシンガーソングライターの栗山夕璃としての活動もありますし、作曲家として楽曲提供もしていますよね。それとバンドの活動で位置づけの違いはありますか?

栗山:大きくあります。まず、バンドは3人で作曲と編曲をしていて、ミックスやマスタリングに関しても3人がそれぞれ意見を持っている。それを混ぜ合わせて一番いい点を探す活動なんです。ソロは全部自分の意思で決められるし、曲調にしてもEDMもバラードもあったり、自由にやっている。それに音の違いも大きいですね。Van de Shopは端倉くんが考えてくれたブラスが入ったり、仁井くんがストリングスを録ってくれたり、自分1人では絶対表現できない編成の楽器が入っている。あと歌詞も違います。ソロの曲はメロディを書いた時に歌詞が浮かんでいることが多くて、その瞬間の感情を表現した言葉だから、整ってないことも多いんですね。でも、Van de Shopは完璧を目指した楽曲制作なので、言葉もできるだけ粗を削って、整えて、考え抜いてメッセージを入れている。そういう違いがあります。

端倉:栗山夕璃として彼が個人で発信する曲って、「俺の言いたいことを聞いてくれ」っていう感じで、彼の心の中の思いがダイレクトに出ていて。Van de Shopは、3人がやりたいことのアイデアを出し合って、それぞれがやりたい音楽を三者三様で融合するような感じです。

仁井:Van de Shopでやる時はまず自分がスタートのアイデアを出すこともあるし、それぞれ3人とも1人で作曲を完結させることができる。3人で作るのは難しい部分もあるんですけど、それができた時の感動を味わってしまったので、そこに価値を持って続けている感じです。

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