冨田ラボ×早見沙織、坂本真綾作詞「DEEPER」で起きた化学反応 互いのラブコールで実現したコラボ曲誕生まで

 冨田ラボがニューアルバム『7+』をリリースした。

 20周年のアニバーサリーを記念した本作には、「煙たがられて feat. 細野晴臣」「HOPE for US feat. 磯野くん (YONA YONA WEEKENDERS), AAAMYYY (Tempalay), TENDRE, 吉田沙良 (モノンクル) & Ryohu (KANDYTOWN)」「DEEPER feat. 早見沙織」「ディストピア feat. AAAMYYY (Tempalay)」「須臾の島 feat. ぷにぷに電機」などを収録。日本のポップマエストロ・冨田ラボの音楽世界を更新する作品に仕上がっている。

 リアルサウンドでは、冨田と早見沙織の対談をセッティング。両者の交流や音楽的なルーツのほか、坂本真綾が作詞、早見が歌唱を担当した「DEEPER feat. 早見沙織」の制作などについて語ってもらった。(森朋之)

冨田ラボ&早見沙織、これまでの二人の交流

——まずはお二人の交流からお聞きしたいと思います。2020年9月リリースの早見さんのミニアルバム『GARDEN』に収められた「garden」を冨田さんがアレンジ。これが最初の接点ですか?

冨田ラボ(以下、冨田):いえ、じつはその前にもご一緒したことがあるんです。

早見沙織(以下、早見):ゲームの音楽を冨田さんが担当されていて、そのレコーディングに参加させていただきました。

冨田:10人近い声優さんが1曲をリレーして歌う曲で。劇中のキャラクターとして歌うという感じだったのかな。

早見:そうですね。女の子がいっぱい登場するゲームで、そのときもキャラクターを意識して歌って。地の声とは違う歌い方をしていた方も多かったと思います。

冨田:そのときに早見さんと雑談した記憶があるんですよね。

早見:たぶん私が一方的に愛を語ったんだと思います(笑)。

冨田:いえいえ(笑)。僕が手がけてきた音楽を聴いてくださっていたみたいで。あと「Steely Danが好き」という話もしていて、音楽的な趣味や嗜好が自分と似てるのかなと。歌っているときの声も印象に残っています。早見さんは役に合わせていろいろな歌い方ができると思うんですが、アルトっぽいというか、アッパーな曲でも声が柔らかいんですよ。

冨田ラボ

——早見さんは以前から冨田さんのファンであることを公言していますが、きっかけは何だったんですか?

早見:よくよく考えてみると、冨田さんの存在を認識したのはMISIAさんの「Everything」だった気がします。

冨田:2000年の楽曲ですね。22年前。

早見:私が小学生のときですね。両親が音楽好きで、家や車でずっと音楽をかけてくれてたんですが、そのなかに「Everything」があって、子どもながらに「すごく素敵だな」と思って。今の事務所に入るときのオーディションでも、「Everything」を歌ったんですよ。

冨田:歌うのは難しいですよね(笑)。

早見:当時中学生だったので、向こう見ずだったんです(笑)。高校生くらいからはKIRINJIさん、冨田ラボさんのアルバムも聴くようになって。日常のなかにずっと存在している音楽ですね、私にとっては。

——Steely Danなどもご両親の影響ですか?

早見沙織

早見:そうですね。小さい頃は家で流れている音楽を聴いてるだけで、それが誰の曲なのかはわかってなくて。中学生のときだったと思うんですけど、ある曲を聴いてて「これ、誰の曲なの?」と聞いたんですよ。Con Funk Shunの「Chase Me」だったんですけど、その頃から自分でも好きな曲をMDに入れて聴くようになりました。Steely Danやドナルド・フェイゲンなどのAOR寄りの音楽は高校、大学の頃からですね。そんなに詳しくないんですが、「いいな」と思う曲をプレイリストにして楽しんでいます。

冨田:早見さんの世代で、そういう音楽を聴いている友達は少ないんじゃないですか?

早見:そうかもしれないです。まず洋楽を聴いている人が少ないんですよ。一緒に夏フェスに行く音楽好きの友達も邦楽を聴いてることが多くて。

冨田:なるほど。今の高校生くらいの世代もおそらく、洋楽はあまり聴いてないですよね。僕の世代は洋楽コンプレックスと言いますか、「洋楽のほうがカッコいい」と思ってしまったところがあるんです。テレビから聴こえてくる音楽はいわゆる歌謡曲が中心。もちろん素晴らしいものもあったんですが、洋楽的な箱に日本語のメロディを乗せているので、どうしても歪(いびつ)なところがあって。「邦楽にもカッコいいものがたくさんある」ということに気づくのがだいぶ遅くなってしまったんですが、今の若い世代は逆ですよね。

——それだけ日本のポップスが成熟したと言えるのかも。もちろん冨田さんの仕事も大きな役割を果たしていると思います。

冨田:そうだったらいいんですけどね。僕が「Everything」でやったこともそうですが、洋楽をベースにしながら、日本語の歌をマッチさせることに心を砕いてきて。「日本語であっても、洋楽的なカッコ良さを感じられる曲を作りたい」と思いながら仕事をしてきたし、少しでも結果を残せていたら嬉しいですね。

——早見さんの「garden」も素晴らしいポップチューンですよね。作詞・作曲は早見さんご自身が手がけています。

早見:冨田さんに魔法をかけていただきました。しっかり冨田さんのカラーが感じられるし、本当に素敵な曲になって。ありがとうございました。

早見沙織「garden」Music Video

冨田:いえいえ。デモが送られてきたとき、まず「いい曲だな」と。メロディだけでも多くを伝えられる、J-POP フォーマットの良曲だと感じましたアッパーな感じを出したいし、深みを感じられる曲にしたいと思ったときに、「ヴェイパーウェイヴっぽいテイストはどうだろう?」と思って。シティポップの源流と言える頃の曲に、2000年代以降に手を加えた感じがもっとも似合うだろうと思ったんですよね。

早見:そうだったんですね! ディレクターの方を通してデモ音源を送っていただいて、次に聴いたのはアレンジしてくださった音源だったので、その間のことを何も知らなくて。

冨田:そうですよね。メインストリームではあまりやってない手法だから、面白いかなと。

早見:すごく新鮮でした。「garden」は配信ライブで歌ったんですが、現場のスタッフのみなさんも「いい!」って喜んでくれて。曲の力がすごいんだなって改めて実感しました。バンドメンバーのみなさんは「すごい譜面だ」っておっしゃってましたね。

冨田:つまり演奏するのが難しいってことだよね。ときどき聞こえてきます(笑)。曲を送ってもらってから歌を録るまでの間に、ちょうどコロナが始まって。作詞にもかなり影響があったんじゃないですか?

早見:そうですね。2020年の春頃は、本当にやることがなかったんですよ。作詞などは家でできましたけど、スタジオでの作業やアフレコがほとんど止まってしまって。

冨田:レコ—ディングスタジオにも集まれなかったからね。

早見:外出すらできなくて。『GARDEN』というミニアルバム自体、当初のイメージよりもかなり内面的になりましたね。

——冨田ラボさんのニューアルバム『7+』も、まさにコロナ禍の2年間で制作された作品ですよね。

冨田:そうなりましたね。コロナが長引いて、制作の終盤に戦争が起きて。

——そういう社会情勢の変化は、音楽にも影響していますか?

冨田:あると思います。僕は作詞しないので、言葉で表現することはないんですが、社会の影響をまったく受けないことはないので。自宅の地下のスタジオでずっと作っているから、ライブ中心の音楽家のみなさんに比べたら影響はきわめて小さい。だけど世の中の雰囲気はずっと感じているし、SNSなどを通して、以前よりもみなさんの気持ちや状況が伝わってくるじゃないですか。特に2020年の初めは、何がどうなるかわからなかったし、まさか2年も続くなんて思ってなくて。

早見:そうですよね。

冨田:最初は「どうなるんだろう?」という不安が大きかったんですが、だんだんと怒りというか「ふざけんなよ」みたいな気持ちになったり。おそらく多くの人は「しょうがない」を前提にしていると思うんですが、それは良くない気がするんです。個々の目標、やりたいことに立ち返って日常を送るのが大事だし、僕としても先々の希望を感じられるようなものを作りたくて。今回のアルバムはそういう曲が多いと思いますね。

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