Mrs. GREEN APPLE、フェーズ2でどのような変化見せる? ミニアルバム『Unity』リリース前に先行3曲を紐解く
2020年7月8日、それまでの活動に対して「フェーズ1完結」と宣言し、活動休止期間へと突入したMrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)。あれから約2年、ついに彼らは「フェーズ2」の幕を開けようとしている。
7月8日にリリースされるミニアルバム『Unity』は、前作『Attitude』以来、約3年ぶりとなるオリジナル作品だ。活動休止前は年に一度は必ずアルバムをリリースしていたことを踏まえると、今回の3年という空白期間がバンドにとってどれほど異例なものかが分かるだろう。今作に収録された6つの新曲を隅々まで味わうことで、これから徐々に明らかになるだろう「フェーズ2」が一体どのようなものになるのか、想いを巡らせたいところだ。その準備として、本稿では本作に収録予定であり、先行配信中となっている3つの楽曲を紐解いていきたいと思う。
まず、記念すべき1曲目を飾るのは「ニュー・マイ・ノーマル」だ。3月18日、活動再開と共に突如としてリリースされた本楽曲は、まさに「フェーズ2」の幕開けを飾る象徴的な存在である。同曲のレビュー(※1)も合わせて読んでいただきたいところだが、筆者個人として強く興味を惹かれたのは、楽曲における主人公の描き方である。
疾走感とカラフルなサウンドに溢れた本楽曲は、物語の新たな門出を全力で盛り上げるのにこれ以上ないほどの祝祭的なアンセムだ。しかし、楽曲を通して描かれる主人公はあくまで控え目な存在であり続ける。あなたに感謝の想いを伝えたくても、それを言葉にすることができず、傷を抱え、迷う日々。さらに、たとえ大事に扱っていたものすら、やがて壊れる日が来ることへの恐怖をも感じている。それでも、理想を描き、これからの未来が期待できるものであることを願う。そんな主人公の〈いつもは痛い胸らへんが/今日はなんだか高鳴ってる/休みは何しようかな/映画でも観ようかな〉という、昨日よりもほんの少しだけポジティブな姿をミセスは全力で祝福しているのだ。これまで、一貫して命の持つ儚さと美しさに向き合い続けてきたミセスだが、本楽曲ではその視線がよりミクロな、解像度の高いものになっており、だからこそこれまで以上にエネルギーに満ち溢れた仕上がりとなっているのだろう。
続く2曲目の「ダンスホール」(5月24日配信)は直球のタイトルが示す通り、軽快なホーンの音色と華やかなシンセサイザーの音色、ファンキーなギターのカッティング、そしてファルセットも織り交ぜながらどこまでも高揚していく大森のボーカルが彩るダンスナンバーだ。一見すると楽観的な作風であるように感じられる本楽曲だが、やはりこちらにおいてもどこか現実を生きる上での厳しさが顔を覗かせる。〈いつだって大丈夫〉という安心感を与えるフレーズから始まるにも関わらず、Aメロでは成功した自らの状況に対して、〈知らぬ間に誰かいる/それに甘えすぎてる〉と冷静に自省し、さらに〈何処かできっと僕の事を/恨んでる人がいる〉とネガティブな思考が襲いかかる。他者に対しても〈誰かになんと言われようとも/君はそのままがいい〉と肯定しつつ、〈「無理をせず自分らしくいて」/それが出来たら悩んでないよ〉とリアルな共感を贈る。全体の歌詞を見渡してみると、実は半分くらいは現実的でネガティブな出来事を歌っているということに気づかされる。それでもなお、ミセスは〈結局は大丈夫/この世界はダンスホール〉と半ば開き直るような形で、やはり誰もが人生を謳歌することを願うのだ。
公開されたばかりの本楽曲のMVは、クールなジャケットを身に纏ったバンドメンバー自らダンスを披露し、ミラーボールの光を浴びながらサムズアップを決めるという、ポジティブなダンスナンバーとしての側面を全面に押し出した作りとなっている。舞台設定としては華やかなステージで演奏を披露した「Love me, Love you」(2018年)を彷彿とさせるが、眩しいほどに輝く衣装とカラフルな髪色で彩った大森(「ニュー・マイ・ノーマル」の頃からさらに鮮やかな髪色となっている)、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)自らが笑顔を絶やすことなく、ダンサーにも負けないほどにキレのある踊りで魅了する今回のMVは、これまでのミセスでは考えられないほどにゴージャスな仕上がりだ。
メンバー自らが踊るMVと言えば、大森ソロにおける「Midnight」(2021年)が挙げられるが、同作と比較するとその表現における違いを強く感じることができる。真夜中の闇に飲み込まれる様を描いた「Midnight」では徹底的にクールな表情を貫き続けていた大森だが、「ダンスホール」では終始リラックスしたムードで軽やかに笑顔を振りまき、相手への共感を示す言葉を歌う時には、表情や仕草でそこにある感情を強調する(髪色が「Midnight」の青に対して、正反対の赤色となっているのも印象的だ)。これは若井、藤澤のパフォーマンスにおいても同様で、ネガティブな内容を歌う時にはそっと寄り添うように、そして相手を肯定する時には自信に満ちた表情を浮かべ、鮮やかでポジティブなダンスがその感情をさらに増幅させるのだ。内省的な側面の色濃いソロ活動と、外側へとエネルギーを向けたバンド活動の違いを、改めて感じることができる。
そして、映像を見れば見るほどに、衣装・ステージセット・ダンス・表情すべてが本楽曲に込められた〈大丈夫〉というフレーズに説得力を与えるために完璧に機能しており、一切の無駄や迷いがないことに驚かされる。「ダンスホール」は音源の時点で極めて完成度の高い仕上がりだったが、映像によって、さらに今の彼らの表現力の高さを証明する作品になったと言えるだろう。