手練れのメンバーから成る魔法バンドとともに歌う意味

　優河の音楽を楽しむ上で、魔法バンドの存在も欠かせない。『魔法』から優河の作品のプロデュースを務める千葉広樹（Ba）。ソロアルバムではリズムのみならず、多彩なボーカリストとのセッションで歌の可能性も広げる神谷洵平（Dr）。いくつかの優河の楽曲で作曲にもクレジットされている岡田拓郎（Gt）、谷口雄（Key）。彼らはテクニックやスキルのみならず、理想の音像を具現化するためにさまざまなトライをしているミュージシャンたちである。独創的な歌声とメロディセンスを持つことが優河の1つの側面ならば、「R&Bやアンビエントなども取り込みながら、音響やリズムを刷新しているUSのインディフォーク文脈と共振している」という彼女のもう1つの側面を支えているのは、間違いなく魔法バンドの4人だ。なかでも、森は生きているとして、緻密なサウンドプロダクションを生楽器の中で突き詰め、2010年代のバンドサウンドを革新的なフィールドまで押し上げた岡田と谷口が、2020年代の新たな音像を優河とともに作り上げていくのは、必然の帰着なのかもしれない。そんな魔法バンドのサウンドはもちろん、ライブの場でも抜群の効力を発揮している。

　夜風のような歌声に誘われて、穏やかなサウンドが少しずつ広がる「やわらかな夜」、ゆったりしていながらも細やかなリズムが癖になる「WATER」や「空想夜歌」、ギターとベースがグルーヴを牽引していく「fifteen」、ミニマルな演奏からシンセに合わせて徐々に視界が開けていく「夜になる」、アンビエントな音像とタイトなドラミングの組み合わせが心地よい「loose」や「夜明けを呼ぶように」など、全編通して聴きどころ満載。そうした演奏との対比で、優河自ら編曲も務めた唯一のドラムレスナンバー「sumire」も効果的に響く。1つ1つのサウンドがたおやかに、時にダイナミックに空間を彩っていく感動を体験できた一方で、セットリストに合わせ、優河自身もアコースティックギターからエレキギターに持ち替えたり、時にはハンドマイクのみになって歌い上げるなど、自由自在に“弾き語りシンガー”としての姿から解放されていった。アンサンブルのこだわりも、全ては歌声を中心に展開しているのだということが、改めてライブを観るとよくわかる。話術も巧みな谷口と神谷のトークで和むMCも含めて、バンドとシンガーの理想的な関係を垣間見ることができた。

　この日の本編ラストを飾ったのは「28」、アンコールを締め括ったのは「魔法」であった。前者は28歳当時の優河の心境を歌った曲だというが（※2）、静かながらも力強く、地に足のついた決意を感じる1曲。後者はまさに優河 with 魔法バンドのセルフタイトルと言える1曲だ。WALL&WALLは300人ほどを収容し（現在はコロナ禍により収容人数は絞られている）、演者とオーディエンスの親密な距離感を楽しめる会場だが、この日ライブを観た誰もが、優河の音楽がさらに広い空間で鳴り響く光景を想像できたはず。アンコールで発表された、6月の東京キネマ倶楽部2デイズという追加公演は、優河 with 魔法バンドとしての新たな可能性を追求する場になるだろう。ぜひこの機会に、芳醇な歌とサウンドを生で体感してみて欲しい。

※1：『MUSICA』2019年6月号
※2：https://natalie.mu/music/pp/yuga/page/4

■ライブ情報
優河 with 魔法バンド『「言葉のない夜に」リリースツアー 追加公演 第一夜＆第二夜』
◎『第一夜』6月28日（火）@東京キネマ倶楽部
開場 18:30 / 開演 19:30
1階全自由 4,500円 / 2階指定 5,000円
◎『第二夜』6月29日（水）@東京キネマ倶楽部
開場 18:30 / 開演 19:30
1階全自由 4,500円 / 2階指定 5,000円
※チケット情報はこちら

■商品概要
優河『言葉のない夜に』
CD発売中：¥2,750（税込）
ダウンロード／ストリーミングはこちら

アナログ盤は6月中旬発売予定：¥3,300（税込）
予約URL：https://www.jetsetrecords.net/i/814006031239/

■優河 関連リンク
オフィシャルサイト：https://www.yugamusic.com
公式ツイッター：https://mobile.twitter.com/yugabb
公式インスタグラム：https://www.instagram.com/__y_u_g_a__/
YouTubeチャンネル：https://youtube.com/channel/UCwBnbi7tm6wCqz7lvVZwGsQ