ずっと真夜中でいいのに。が示したポップミュージックの大きな可能性 さいたまスーパーアリーナ2days開催の意味
「ずっと真夜中でいいのに。にとって過去最大規模のライブ」というだけでなく、ステージの意匠もセットリストも変更しての2日連続開催という異例の公演となった、さいたまスーパーアリーナ単独公演『ZUTOMAYO FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」』。4月16日の公演「[day1 "memory_limit = -1"]」と翌17日の公演「[day2 "ob_start"]」(いずれもサブタイトルはコンピュータのプログラミング言語に由来する)、両日の公演に足を運んだ。
ずとまよのライブでは、ステージの中心にいるACAねにスポットライトが当たることはない。メディアからのインタビューもほとんど受けたことがないACAねは、だからといってステージの上では雄弁というわけではなく、曲間のMCも正直たどたどしい。工事中の現場を模したday1のステージセットも、それがそのまま100年間放置されて雑草や蔦が絡まった(という設定もday1終演後に映し出された「day100years "ob_start"」から推察するしかない)day2のステージセットも、工事現場の作業服がモチーフとなっている鮮やかな緑色のバンドメンバーの衣装も、強固にコンセプチュアルなものでありながら(過去のツアーでもそうであったように)特にその背景やテーマの説明が丁寧になされるわけでもない。単独公演なのでオーディエンスはずとまよのファンであることが前提とはなっているわけだが、もし友達や家族に誘われてそこまでずとまよに詳しくない人が今回のライブを体験(2日合わせて約3万5000人も集客しているのだから中にはそういう人もいるはず)したとしたら、「なんだこれは?」とライブのスケール感とマニアックな内容のギャップに面食らったのではないだろうか。
ツインドラムにホーン隊にストリングス隊に様々な飛び道具的特殊インストゥルメントを操る総勢17人(day2はフリースタイルピアニストのけいちゃんもゲスト参加して総勢18人)の大所帯という、あらゆる楽曲に対応できる完全体ずとまよライブバンドで編成されていたこともあって、アンコールを含め20曲が演奏されたセットリストはday1とday2で6曲も入れ替わっていた。特にday2は、「JK BOMBER」や「またね幻」と、これまでも足繁くライブに通ってきた自分にとっても初めてライブで体験するレア曲も組み込まれた、痒いところにすべて手が届くセットリストだった。
さて、先ほど「マニアックな内容」と書いたが、それはあくまでも凝りに凝った演出面のこと。さいたまスーパーアリーナの広大な空間で改めて深く感じ入ったのは、ずとまよの楽曲の「強さ」と「大きさ」についてだった。特に象徴的だったのは、両日とも本編のクライマックスで演奏された新曲の「ミラーチューン」だ。今回の『ZUTOMAYO FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」』の前週にリリースという、タイミング的にも今回のステージを想定して制作されたに違いないこのファンキーなディスコポップチューンを最初に聴いた時、自分は「まるで一番勢いがあった頃のSMAPみたいな曲だな」と思った。そして、ステージ上のACAねはそんな「一番勢いがあった頃のSMAPみたいな曲」を、ダンスをして飛び跳ねて大観衆を煽りながら完璧に歌い上げていく。演者の表情は見せないまま、超メジャーな表情を湛えたポップミュージックの力で、国内屈指の巨大アリーナを揺らす。そんな奇跡のような光景を現出することができるのは、この国でずとまよだけだ。