40mP×蓮兎、MECREを通じて実現したコラボ 「新人類」ができるまで、シーンの変化についても語る
昨年5月末にβ版としてスタートしたMECRE(メクル)は、“昨日初めて作品を発表した人も、1,000万回再生動画の主も、フラットに出逢い新しい創作活動ができる場所”をテーマとしたクリエイターのための創作プラットフォーム。MECREを利用するための会員登録は誰でも可能で、募集されている案件に立候補することができる。MECREサイト内に制作したポートフォリオページを使えば、新しい創作にあたって必要なパートナーを簡単に見つけられる。現在はMECRE事務局によって権限を付与されたクリエイターをロイヤリティユーザーと呼び、MECREで創作パートナーの募集を行っている。パートナーを募集後、コラボが成立したときに初めて作品の制作がスタートする。「ONI」「紅い呪い」「星月夜」の3曲が同時に公開された第1弾に続いて、2月23日に配信された「hubble 歩く人 feat. edda」を皮切りに第2弾として5週で連続リリースされた。
リアルサウンドでは、3月23日にリリースされた「新人類」のコンポーザーであり、「からくりピエロ」「恋愛裁判」などキャッチーなボカロ曲を生み出してきた40mPと、マッチングした歌い手・蓮兎の対談を行なった。蓮兎は2017年に歌い手としての活動を開始、昨年活動を再開した‟ショタボ”(幼い少年のような声)で注目の新進気鋭の歌い手だ。特筆すべきは、40mPは募集をかける段階で楽曲を未定としていたこと。今回新たな挑戦に踏み切ったきっかけから、40mPのこれまでの作風とは一変した攻撃的な印象の「新人類」が生まれた経緯、MECREを実際に使ってみた感想などを二人に聞いた。(小町碧音)
自分で選んだクリエイターと一緒に作品を作ってみたい気持ちがずっとあった
ーーお二人が今回MECREを使ってみようと思ったきっかけは何だったんですか?
蓮兎:僕はTwitterのタイムラインで40mPさんの今回の募集を拝見したときに、初めてMECREを知って。そこからすぐに登録しました。もともと、40mPさんの楽曲がとても好きでよく聴いていたので、こういう機会を逃したくないなと思ったんですよね。
40mP:自分はYouTubeとかニコニコ動画での活動がメインになるんですけど、歌い手さんをはじめとしたクリエイターさんと自発的にコラボして動画を作ることって実は今まであまりできていなくて。例えば、企業と一緒にやる場合は、基本的には「このボーカリストで、こういう曲を」みたいに枠組みが決まっています。なので、自分で選んだクリエイターさんと一緒に作品を作ってみたいという気持ちがずっとあった中で、『The VOCALOID Collection ~2021 Spring~』を通してMECREというサービスができたことを知って、自然とここで何か作品を作りたいなと思ったんです。
ーーMECREは、40mPさんがまさに求めているサービスだったと。最近は、自らの楽曲に歌い手をフィーチャーするボカロPが増えましたよね。
40mP:一口にボカロPと言っても、それぞれの考えで楽曲を作っていると思いますけど、ボカロでしか音楽をやりたくないと思っている人はあまりいないと思っていて。表現する手段の一つとしてボカロを選んでいる人が大半だと思います。その中でほかのボーカリストの方とコラボするという選択ができる時代になってきたのかなと。でも実際には、自分から歌い手さんに「一緒にやりましょう」と声を掛けるのって結構ハードルがあるんですよね。その人の音楽性とか、実際にボーカリストとして積極的にやっていきたいかどうかを汲み取るのはなかなか難しいですし。まず一緒にやりたいという気持ちが明確にわかった上でコラボを後押ししてくれるのが、MECREのいいところだと思いました。
ーー今回、募集の時点ではどんな楽曲を制作するかは未定でしたが、そこからどのような基準で歌い手、映像クリエイター、イラストレーターを選んでいったんでしょうか?
40mP:当然自分が募集したところに応募してくれた方々なので、一緒にやりたいという気持ちとかやる気が大前提にあるのはわかっている中で、例えば、歌い手さんであれば、声が好きかどうかが重要でした。とにかくその人が作っているものが、自分が視聴者の気持ちになったときに好きか、あとは自分が一緒にやりたいと思える何かがあるかという観点から選ばせていただきました。
ーーその中で選ばれたのが、蓮兎さんだった。
40mP:みなさん歌唱力が高くて魅力的だったんですけど、蓮兎さんは声がまず魅力的だったのと、自分が今までやったことのない作品を一緒に作れるなと期待を持てたので。自分が今まで一緒にコラボしてきた方はどちらかというと素朴に歌い上げる感じの方が多かった中、蓮兎さんにはかわいらしさの中にあるかっこよさというか、自分が今まで表現できなかった部分があったので、一緒に作ってみたいと感じることができました。
ーー蓮兎さんは実際に応募してから、マッチングが成立することへの自信はありましたか?
蓮兎:40mPさんにお声掛けさせていただいたときは、正直成立することへの自信はありませんでした(笑)。ただ駄目元でも夢を叶えるチャンスが数%でも高まるならと思って応募しました。
ーーそうなんですね。40mPさんが活動を始めたころと比べると歌い手の方向性や全体のイメージがどんどん変わってきていると思うんですが、40mPさんから見た最近の歌い手界隈はいかがでしょう。
40mP:曲を書いている中での感想としては、みなさん自分の世界観をより強く押し出すようになってきたのかなと。自分がボカロ曲を月1ぐらいで発表していた10年くらい前の歌い手さんは、どちらかというとボカロ曲がありきで、そこに自分を合わせていくイメージがあったんです。でも、最近の歌い手さんはオリジナル曲を作るにあたっても、自分が歌いたいイメージをよりしっかり持ちながら、歌いたい曲に向き合っているなと感じます。蓮兎さんも、自分に合うボカロ曲を選んでいて、ご自身の世界観もしっかり持っている印象がありました。
ーー今回コラボする相手を選んでから、どのように曲を制作していったのでしょう。
40mP:まず蓮兎さんと曲調や歌詞のテーマについて話し合う中で、どういう音楽が好きなのかを聞きました。そこで挙がってくる曲が僕が今まで通ってきていないものばかりで、最初に予感していた通り、今までやったことのない作品にチャレンジできるなと思いましたね。そのあと、蓮兎さんからメールでいただいた、歌詞で表現したい想いを自分なりに咀嚼して最終的にできあがりました。
蓮兎:打ち合わせの時、DUSTCELLさんとか、ONE OK ROCKさんとか、INIさんとか、結構いろんなジャンルから引っ張ってきて。僕は、もともとEDMとかダブステップ系が好きなんですよ。
40mP:今までの僕のコラボでは見つからないタイプですね。挙げてもらったアーティストの方向性がそれぞれバラバラなので、自分の作風をちゃんと活かせるようにというところを含めても、音作りについてはかなり悩みました。でも蓮兎さんのエッセンスを取り入れていきたい気持ちがあったので、そのときに挙げてくれたアーティストの曲をめちゃめちゃ聴きました。せっかくコラボして作るので、自分が「これです!」と曲を渡して歌ってもらうよりは、むしろ積極的にアイデアをもらいながら、今までやったことのないことに挑戦してみたいなって。
ーー具体的に悩まれたところというと?
40mP:打ち込みでバンドのアレンジをするときも基本的には生音系の音色を使っているんですけど、まずそこのやり方を一回置いて、普段は自分が選ばなかった尖った音や派手目な音から、音色を探していきました。ベースも歪みが効いているシンセっぽい音を試してみたりして。そうやって音を探していく作業に今回はかなりの時間を割いたなと思います。自分には合わないという先入観で遠ざけていたものをあえて選ぶ作業が個人的には楽しかったです。
ーーここにきて、新たな発見があったんですね。自己主張していくような歌詞も新鮮な印象を受けました。
40mP:歌詞は思うままに書いていきました。蓮兎さんからもらった表現したい想いをそのまま書くよりかは、自分の中でもう一人の主人公を立ててその子の想いとして書くやり方のほうが良いのかなと感じて。いつも自分が歌詞を書くときは主人公を立てて、その子の目線から書くので、今回も蓮兎さんが送ってくれた想いからもう一人の架空の人物を作ってみました。その子がしゃべりだすと勢いでどんどん書けたので、作詞にはあまり悩まなかったかな。
ーー蓮兎さんが40mPさんに共有した想いとはどのようなものだったんですか。
蓮兎:今って数が力となる時代じゃないですか。だから結局は個人個人が本質だと思うという話を共有させてもらったんですけど、40mPさんがそれをかなり汲み取ってくださったなと感じました。
40mP:その想いをもらったときに、蓮兎さんのことを僕が理解しきれていない自覚もあったので、楽曲の主人公を別で作ったというのもあるかもしれないです。