SUGIZO×INORANが語る『BEST BOUT 2021』 表現を通した未来への希望と感謝の思い

 SUGIZOとINORANが、ソロアーティストとして対バンするライブ企画『BEST BOUT』。同企画は2016年6月9日に第1回が行われ、3回目の開催となった『SUGIZO vs INORAN PRESENTS BEST BOUT 2021~L2/5~』のBlu-ray作品が、3月9日にリリースされた。

 同ライブは、コロナ禍での開催となり、初の無観客の配信ライブとして開催。SUGIZO、INORANそれぞれのライブパフォーマンスに加え、画家の荻野綱久氏をゲストに迎え、音楽とアートが融合したライブが作品として収められている。

 今回のインタビューでは、そのライブについてSUGIZOとINORANに聞くと共に、知り合って35年という両者に音楽家としての成長だけでなくひとりの人間としてそれぞれに感じる魅力について語ってもらった。(編集部)

2人が融合したことによって広がる世界

ーー3月9日に発売されたBlu-ray『SUGIZO vs INORAN PRESENTS BEST BOUT 2021~L2/5~』、拝見しました。ひとつの作品として完成度の高い内容で、素晴らしかったです。

INORAN:ありがとうございます。

SUGIZO:僕もそう思います。

ーー改めて『BEST BOUT』について、おさらいさせてください。この対バン企画は2016年6月9日に第1回が行われ、翌2017年には海外公演を含むツアー形式で開催されています。

SUGIZO:最初は「“ロックの日(=6月9日)”に小屋が空いてるよ」ってところから、「さあ、何か面白いことやらないと!」という話をINORANとした記憶があります。

INORAN:今回もそうなんですけど、2人が融合したことによって広がる世界というのはひとりで見る世界とはまったく違うし、SUGIちゃんとやるからできることというところで、求めるものも違ってくる。こうやって続いているのは、そこが大きいですよね。

SUGIZO:あとは結果的にですが、LUNA SEAがとても稀有な存在なのも大きい。バンドとしても存続し続け、おこがましいけど進化を続けている自信もある。と同時に、各メンバーがソロアーティストとしても活動をずっと続けていて、今年で25年になる。その音楽性も見事にみんなバラバラで、それは別に狙ったわけじゃなくて、本当に一人ひとりが自然に自分の音楽を追求していたらこうなったわけで、それを俯瞰で見られる対バン形式のライブは武器にもなるし、実は世界的にも稀なんじゃないかな。同じバンドで30年以上活動しているギタリスト2人の、それぞれのソロ活動をこういうところで一緒に体験できることはとても興味深いし、毎回とてもドキドキします。

ーーそして、2021年6月9日に4年ぶりの開催となった『BEST BOUT 2021』。今回はINORANさんから声をかけたそうですね?

INORAN:そうみたいです(笑)。なぜかと言われれば、やるタイミングが来たらそうなる、という感覚的なことでしか言えないですけど。

SUGIZO:配信ライブにしようということが決まったとき、いわゆるリアルのライブだったら絶対にできないことをやりたいと話しました。それでこういう形でやり合うスタイルというか、普通に生のライブで対バンしたらありえないことも、無観客ならステージを2つ用意することができる。しかも、その殴り合うようなステージの間には画家がいて、ライブペインティングをするというアイデア。それはすべて無観客の配信ライブというフォーマットを逆手に取って、その状況を活かしたら面白いだろうなと思うところから生まれたアイデアでした。

ーー面白かったのは、やっぱりライブペインティングですよね。おふたりのステージの間に画家さんがいらっしゃって、ライブの間に絵がどんどん完成していく。このアイデアはどういったところから?

SUGIZO:それも配信ライブというフォーマットを最大限に活かしたいなと思って、いろんなアイデアが上がった中での結果ですね。

ーー荻野綱久さんとはどういうつながりで、今回声をお掛けしたんですか?

SUGIZO:共通の知人がいまして。それまでは存じ上げなかったんですが、とてもロックを愛する画家の方で、ライブペインティングもずっと行なっていて、その姿勢が『BEST BOUT』のあり方に共振すると思ったので声をかけさせていただきました。

ーー当日描いていただく絵のテーマは、事前にお伝えしていたんですか?

SUGIZO:もともとINORANにはドラゴンで、僕にはフェニックスというイメージがあって、それをモチーフにしたのが『BEST BOUT』のアートワークなんですが、実は荻野さんもドラゴンとフェニックスは得意とするモチーフだったんです。それも本当にたまたまだったんですが、まさに『BEST BOUT』的だなと思い、「やってみてもらえませんか?」と打診をしましたら、すごく喜んでくれたんです。なので、彼の得意とするモチーフ、彼のそもそもの画風、そして彼自身もともとロックバンドをやっていた人だったので、元来持っている精神性など、あらゆるものがぴったりと合致して、本当に幸運が重なってこうなりました。

ーーなるほど。今回は初めて配信という形での開催でしたが、それぞれ当日はどういったステージを見せたいと考えましたか?

INORAN:やっぱりこの期間は自分の人生の中で「音楽を止めてはならない」と模索していただけに、『BEST BOUT』ではこのタイミングにしかできないものを自分のソロパートで提示しようと、強く考えていました。

ーーこのコロナ禍に制作、発表されたINORANさんのアルバム自体がひとりで作り上げていった作風でしたし、それをライブで披露する際もミニマムな形だった。それもこのタイミングならではだったと。

INORAN:そうですね。このタイミングでしか生まれ得なかったものというのは、やっぱり大切にしたいしね。

ーーこの『BEST BOUT 2021』と同日に、昨年9月に行われたINORANさんのバースデーライブの模様を収めた作品『INORAN -TOKYO 5 NIGHTS- BACK TO THE ROCK’N ROLL』も発売されました。そちらでは通常のバンド形態でロックチューン中心に披露していたので、特に今回はその対比が面白かったですし、今のINORANさんならではだと思いました。

INORAN:編成も違いますし、スタッフも違っていて、それだけ人とつながっているってことですよね。僕自身も面白いと思いますし、ワクワクしました。

ーーSUGIZOさんはこの『BEST BOUT 2021』に向けて、どういったものを表現しようと準備を進めていきましたか?

SUGIZO:僕の場合はその半年前、2020年の12月にオリジナルアルバム『愛と調和』をリリースしていて。そのアルバムもやはりパンデミックに強く影響を受けたもので、アンビエントとヒーリングに振り切ったものだったんですが、今回のライブも大自然と一体化するような荘厳な世界観や、この地球や世界が存在すること、恵みに対する感謝から始まりたかった。それと同時に、僕がもともとやっているアッパーでトランシーなサウンドも取り入れたんですが、それが近年INORANが表現しているものとマッチしていたと思います。

ーーサウンドとライブパフォーマンスと映像が三位一体となり、唯一無二の世界が展開されていると感じました。個人的に印象的だったのが、「ENOLA GAY RELOADED」でスクリーンに表示されたメッセージ。2021年6月当時のメッセージが、Blu-rayとして発売された2022年3月現在のウクライナ情勢とリンクし、いろいろ考えさせられるものがありました。

SUGIZO:本当に残念な状況ですよね。僕は核に対してーー核兵器や原発に対してですがーー常にアンチテーゼを叫んできたので、まさにチェルノブイリ原発の状況もそのメッセージのど真ん中に位置するもの。自分としては残念でならないですし、こんな表現をしなくていい世界に一刻も早くなってほしいと、ただただ強く思うばかりです。

ーーLUNA SEAで活動を共にしているとはいえ、ソロアーティストとしては4年ぶりの対バン。久しぶりに相手のライブに触れてみて、ソロアーティストとしてお互いがどう映っているのかが気になります。

SUGIZO:パンデミック以降のINORANの音楽性が、それ以前と比べて良い意味で振り幅が広がったよね。ロックンロールを奏でているINORANと、今回のようにエレクトロニクス重視なんだけど基本的には歌モノでありポップであるINORAN、どちらも芯の部分では共通していて、僕はとても好きなんですよね。特に今回の音の在り方は僕の音楽ともすごく共振しやすく、それもあってライブをトータルとして捉えても素晴らしい表現ができたんじゃないかな。彼の表現に引っ張られて、僕の音楽もいろいろインスパイアされていましたし、そういう点でもすごくリスペクトしています。

INORAN:音楽性が進化しているのはもちろんなんだけど、SUGIちゃんはその核となる部分がやっぱり太いんですよ。その中で時代や時を重ねていくと、さっきのウクライナの話じゃないけど、先に歌っていたことがあとあとリンクしていくこともあり、フェイズが変わったふうにも見える、そういう音になっているんです。自分とは対極な歩みかもしれないけど、だからこそすごく刺激になりますね。

ーーSUGIZOさんがおっしゃるように、今回の『BEST BOUT 2021』はタイミング的なものも大きくて、音の在り方がお互いの音楽と共振しやすかった。もちろんそれぞれの個性はまったく異なるものなんですが、その違いの中からリンクするポイントもたくさん見つけられ、心地よく楽しむことができました。

INORAN:自分で言うのもなんですけど、確かに完成度が高いライブだったなと思うし、そういう作品にもなったと思う。それはなぜかというと、ジャンル感云々よりも調和が取れていたからかな。

SUGIZO:それは大きいね。やっぱり、基本は同じバンドのメンバーですからね。表面的な質感とかカテゴリーが違っているようでも、必ず共通項があるはずなんですよ。

INORAN:そうだね。

SUGIZO:特に今回はそれがとてもいい形で、ライブや作品に落とし込めたんじゃないかなと思います。別にお互い狙っているわけでもないし、あえて違うことやろうとも思っていなくて、ごく自然に表現していることがこういう形になっている。大きな視点で見ると、やっぱり同じバンドの仲間なんだなっていうことが、ライブを通して垣間見れるんじゃないでしょうか。

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