UA、マヒトゥ・ザ・ピーポー提供曲で目指した“普遍的でポップなラブソング” 25周年を転機に現在のモードを語る

 「ポップに恋をしちゃった」ーー2020年に活動25周年を迎えたUAは、現在の自分についてそう話す。GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーが作詞作曲を担当した新曲「微熱」は、彼女の代表曲の中に間違いなく仲間入りを果たすであろう普遍的な輝きを持った名曲だ。90年代から先鋭的な個性で異彩を放ってきたUAが、今なぜポップに恋い焦がれるのか。じっくりと話を聞いた。(永嶋創太)

マヒトゥ・ザ・ピーポーとの邂逅

ーー早速ですが、「微熱」本当に素敵な曲でした。

UA:嬉しいです。2020年の段階でもうレコーディングを済ませていたので、随分と時が経っちゃって、自分たち的にはもう慣れ親しんだ曲という気分でもあるんですけど。

ーー制作の経緯としては、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーさんが、UAさんの活動25周年の記念として作詞作曲し、プレゼントされた曲なんですよね?

UA:そうなんです。5月にリリース予定のEP(『Are U Romantic?』)が、全曲フロントマンと言えるアーティストの方たちとコラボさせていただいているんですけど。企画自体はあっても進展はまだなかった時期に、「うーちゃん(UA)、25周年なんでしょ? お祝いに曲を書いてみようかな」なんて言ってくれて。そこからすぐ曲が届きました。突発的に機会に恵まれて、一番乗りででき上がったので、早くレコーディングしたくなって、2020年にはレコーディングも済ませてしまったという曲なんですよね。

UA - 微熱 (Official Video)

ーーそもそもお二人の出会いのきっかけは?

UA:2019年の『りんご音楽祭』です。その時に私もGEZANも出演していたのですが、ちょうど会場に着く頃にGEZANの演奏が鳴っていて。自分のバンドのドラマーだった山本達久くんが「UAは絶対GEZAN好きだよ」って教えてくれたんです。バンドのネーミングが面白いからすごく興味が湧いたのですが、残念ながらその時はライブを観られなくて。その後、自分のショーも終わった夜、小さなステージの客席にマヒトくんがいて。同行していたスタイリストの女性が知り合いだったので、紹介してくれたんです。

ーーそこからすぐに打ち解けられたんですか?

UA:音楽が大音量で鳴っている場所だったし、マヒトくんも酔っ払っていたので(笑)、そこで会話をした記憶はあまりないんですけど、初めて会った割には、なんか初めてな気がしない人だなと思ってました。それから2020年の2月に、そのスタイリストの方のパーティがあったんですね。私も懐かしい東京時代の知人たちと一挙に会うような日だったんですけど、そこでスタイリストからの依頼で、マヒトくんと踊ってばかりの国の下津(光史)くんと3人で、ちょっとしたアコースティックライブをやることになったんです。ぶっつけ本番に近い状態ですけど、最初に会議室のような場所で音を出した時のインスピレーションで、マヒトくんの中で曲が聴こえ始めたらしくて。それが今回の「微熱」だったんです。

ーーなるほど。実際に曲を聴いた時はどんな印象でしたか?

UA:衝撃的で、「えー、名曲じゃん!」って本当に思いました。最初にいただいた時は、彼の弾き語りによるスロウテンポのフォーキーな雰囲気のもので。斬新な曲とかではなかったのですが、一度聴いたら覚えてしまうメロに、「あなたは私の何を知ってるの?」とドキッとする感じもありました。ちょっとした恥ずかしさもありながら、言葉の響き方などが私のライティングする幅を大いに超えて、絶対に書けないエリアに行っている。これまで歌唱でコラボ依頼が来ることはありましたが、私の曲に歌詞も用意されるという形がとてもレアだったので、ほぼ初めての感覚に近かったです。「まさしくギフトだな、これは」っていう感じ。

ーーUAさんとマヒトさん、お二人の会話の中で生まれていったというよりは、本当に突発的に生まれた曲だったんですね。

UA:そうですね。でも、パーティの時は割と喋ったと思うんです。向こうはどうだかわからないですけど、緊張も全くしなくて、最初からすごく楽に話せました。印象に残っているのは、たまたまそのパーティの何カ月か前に、私が山口県の萩にちょっと旅行をしていて。古くから窯元さんがいっぱいいらっしゃるエリアで、日本語の古い言葉を勉強されてる方々だったんですけど。そこの一番大きな窯元さんを尋ねたときに、奥様が初対面に近い段階で「いよいよ人間が“人”になる時がやってきたのにね」みたいなことおっしゃったんですね。それにすごいドキッとして、ものすごく印象的な出来事だったんです。それで、人間と人の違いっていうのが気になっていたんですけど、ちょうどマヒトくんの名前も漢字で書くと「真人」で、「獣でなく真の人となるように」と父親がつけたみたいで。

ーーその時ちょうど考えていた「人」というキーワードを名前に持った人が現れたと。

UA:彼は覚えてないかもしれないけど、その会話をしたことが印象に残っています。シャーマニックなルックスそのままに、「うーちゃんの背後にいろいろ見える」とか言い出したから、お前はイタコかと思いましたけど(笑)、そういう意味でも彼はオープンだから、一緒にやるのも楽だなと思っていました。

ーー先ほど、曲を聴いてドキッとする感じもあったとお話されていましたけど、何か見透かされてるような気持ちになったということですか?

UA:やはり生きていますので、パッと思い出せないぐらいの出会いと別れを経験しているわけで。最近は沖縄やカナダに住んだりしていたので、さっき話したパーティで、長い間会えていなかったたくさんの人に再会したんですよね。そこで「ミルクティー」を歌ったりしたのですが、あの曲を歌い始めた当時の人たちがいたというか。息子の(村上)虹郎くんもいたし、今の自分の家族も全員いて。そんな話はマヒトくんに一切してないんですけど、それを見て、マヒトくんの中でいろいろ感じたことがあったのかもしれないですね。

最初は「微熱」というタイトルが恥ずかしかった

ーー「微熱」には、UAさんの代表曲である「情熱」のオマージュも入っていますよね。「情熱」から「微熱」という言葉に、時代の変遷も感じました。

UA:最初は「情熱」から「微熱」というタイトルが恥ずかし過ぎちゃって。もう大笑いして、ありえないと言ってたんだけど、マヒトくんとずっとLINEで話していて、二人ともやたら“微”という言葉が気に入っちゃっていたんです。微調整っていう言葉も今すごく気に入っていて、実はEPに入る他の曲で〈永遠の微調整〉と歌っている曲もあるんですけど、その“微”という感覚がたまらないなと。それから「微熱」に限らず、「微青」とか「微男」「微女」みたいにいろいろな言葉に“微”をつけていたんです(笑)。でも結局、元に戻って「微熱」になりました。最初は恥ずかしかったけど、だんだんその気になったので。

UA - 情熱 (Official Video)

ーー「微熱」の中で特に気に入っているフレーズはありますか?

UA:一番好きなのは〈水銀のピリオド 静脈のワルツを〉というところです。マヒトくんっぽいし、自分では絶対に書かないような詞だと思います。でも、毎回グッと自分の中で込み上げるものがあるのは、やっぱり大サビの〈かわらないであなたは 街や時代がかわっても〉のところ。メロディと歌詞のハマり具合がもう最高ですね。

ーー全体的にセンチメンタルな切ない歌詞のようにも思えるけど、すごく前向きなエネルギーも感じます。

UA:そうなんですよね。人って本当に弱くて強いというか、どっちかだけっていうことはないんですよね。

ーーサウンド面でも風通しの良い気持ちよさがありました。

UA:それはダンスチューンになっているからだと思います。マヒトくんがくれた最初のスロウなバージョンも大好きで、ストリングスだけ入れたアコースティックバージョンもレコーディングしているんですが、やっぱりここはダンスチューンだなと思ったんです。ダンスチューンで切ないというのが自分の中で最高にポップなんですよね。自分にとってのポップのラインは、そこにあって。仕上がりは違いますけど、ジョルジャ・スミスとかにも感じるような、今はないことを想って歌う普遍的でポップなラブソングを目指したくなったんです。アレンジャーの荒木正比呂くんと、次のEPを一緒に全部できたらいいなと思ってた時だったので、進めていきました。

ーーサビの後のラップ部分はどなたが担当されているのでしょうか?

UA:MIRRRORというユニットのTakumiくんです。彼のラップがめちゃくちゃ好きで、とてもセンスがいいなと思っていたので。荒木くんがたくさん作っているデモの中の1曲で、Takumiくんのラップがフィーチャーされている曲があって、それがすごく印象に残っていたんです。自分でやる案も考えたんですけど、男の人の声を入れた方がポップだなと思いましたし、自分にとってはすごく斬新ということを今回とにかくピックしてやっていたんです。

ーーマヒトさんもそうですが、Takumiさんをフィーチャーするというのも、熱心な音楽ファンや若いリスナーからしても嬉しいサプライズだと思います。先日、UAさんが最近日本の若いアーティストの音楽などを掘って聴いている時期があったと話している記事を読みました(※1)。

UA:息子が東京で暮らして仕事をバリバリやり始めた頃から、やっぱり東京を無視している方が不自然だったし、今は住んでないので東京がかえってフレッシュに映り出したんです。あとは、それまで音楽を配信で聴く習慣すらなかったんですけど、1回いろいろ手法を覚えるとどんどん止まらなくて、面白くなっちゃったんですよね。その中で聴いていた音楽が今の自分の活動に繋がっていると思います。エンジニアとか、ミュージシャンもそうですし、もちろん仕事上で聴こえてくるような入り方もあると思いますけど、リスナーとして本当に好きになっている状態でお仕事できるっていうのは最高ですね。

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