THE BACK HORN、不穏な空気を切り裂く快活なアンセム 4人の次なる歩みを牽引する強靭な歌とグルーヴ
THE BACK HORN、13枚目となるニューアルバム『アントロギア』からの先行配信シングル第2弾「ユートピア」が、3月23日にリリースされた。2月にリリースした 第1弾配信シングル「ヒガンバナ」に続き、アグレッシブで勢いのある曲だが、「ユートピア」はさらにTHE BACK HORNの音楽世界が濃く詰まった曲になっている。
2019年に『カルペ・ディエム』(=今を掴め)と名付けたアルバムを発表してから2年半が過ぎたが、そのリリースからほどなくして、世界は大きく変化した。コロナ禍で、日常と呼ばれていたものがかき乱されて、ほんの少し先の予定も立たない状況になんとか適応しながら、あるいはやり過ごすような時間が今も続いている。常に、孤独について、人の心や社会の闇について、命とその輝きについてリアルにエモーショナルに描き続けているTHE BACK HORNの音楽は、手応えのない、アンバランスな日が流れていくなかで時に杖となり、光となって響いたのではないかと思う。
言い知れない深い孤独と、もがくほど深くなりやけに魅力的にもなる闇に囚われながら、同時に青春期の無鉄砲な勢いでその黒々と口を開いた虚無感と対峙していた『心臓オーケストラ』(2002年)や『イキルサイノウ』(2003年)といった初期の作品たち。あるいは、大人になっていくなかで感受性をチューニングする術を掴み、他者との関わり合いから芽生える思いや孤独、また震災の体験を経た作品や、闇の濃さと相対する光を丹念に描き、力強く放った『カルペ・ディエム』のような作品など、THE BACK HORNの音楽にはその時々のリアルで、血の通った人間が描かれてきた。いつ聴いても、その脈打つ鼓動や体温を感じることができる音楽、泥臭くも美しい生命力がほとばしる音楽は、心強い存在になっただろう。
THE BACK HORNがこの2020年代をどう描いていくのか、今の景色にどんな色彩をつけていくのか。その最初の曲が、2020年6月に配信リリースされた「瑠璃色のキャンバス」。バンドとして初めて、リモートでの制作・レコーディングを行い、緊急事態宣言下での制作となったMVにも、メンバー4人が別々の場所でプレイする姿が捉えられた。どっしりとしたビートと祝祭的なクラシックを思わせるギターに乗せて、〈魂 重ね合わせよう 僕らの場所で〉〈魂の歌を歌おう 僕らの場所で〉と歌う「瑠璃色のキャンバス」は、“KYOMEI”をテーマにその音楽を通じて、人々の心とつながってきたバンドの声を素直に伝えるものになった。ライブに行ったり、誰かと会うこともままならない、心細さが募る時期だったが、音楽という場所は変わらずにそこにあることをいち早く歌にした。
続く2021年のシングル曲「希望を鳴らせ」では、〈想像も超える様な未来に今立ってる〉としながら、その未曾有のうねりに呑まれることなく〈希望を鳴らせ〉〈俺はまだ生きてる 終わらない希望を鳴らせ〉と叫ぶ。そして、来たるニューアルバム『アントロギア』からの先行配信第1弾としてリリースされた「ヒガンバナ」では、今を精一杯に生きる姿を、情熱や孤独といった花ことばを持つヒガンバナに喩える。夢をくじかれた悔しさ、悲しさと、それでも諦めずに立ち向かっていく凛とした美しさを、激しく生々しい4人のアンサンブルで響かせている。装飾的な音の贅肉を削いで、孤独を孤高へと昇華するようなストイックさやスピード感が重視されたサウンドがいい。もう一度立ち上がろうとする背中を鼓舞してくれる曲だ。