AA=、爆音の中に上田剛士が残した確かなメッセージ 『story of Suite #19』を経た2年ぶりの有観客ライブ
そんなさなか、上田が発した「俺たちだけでもしっかり繋がっていようぜ」という言葉に、僕は希望を見つけた気がした。そのメッセージに導かれて始まったのは「Such a beautiful plastic world!!!」。やはりこの曲は、現実に幻滅した時に希望を捨てずにいるための切り札なのだと思う。人懐こい感触の中にそうした力強さがある。そんな思いに浸っていると、今度は「POSER」にガツンと殴りつけられ、続く「TEKNOT」に激しく揺さぶられる。まるで必殺技の連続でいたぶられているかのような感覚、しかもそれが心地いいと思える時間の流れである。そしてセットの最後に据えられていたのは「SAW」。フロアの一体感は、ダイブもモッシュも合唱もないまま最高潮に達していた。
アンコールに応えて再びステージに現れた上田は、来場者ばかりではなく来ない判断をしたファンに向けても感謝の意を表し、同胞たちとともに「NEW HELLO」「FREEDOM」の2曲を披露。しかしそこでこの夜が終わることはなかった。最後の最後に繰り出されたのは、「PEACE!!!」である。上田は、本来この曲をやるつもりではなかったと語った。実際、関係者用に事前配布されていたセットリストにもこのタイトルは記されていなかった。ただ、この選曲が、単なるサプライズとして提供されたものではないことは疑いようもない。ライブというのはある種の現実逃避のための空間でもあるはずだが、そこに居合わせた誰もがロシアのウクライナ侵攻という信じがたい現実を思い出していたことだろう。
ステージを去る間際、上田は「みんなにとって、そして世界にとって、明日が良い日であることを願っています」と告げた。ごくシンプルなメッセージではあったが、それはフロアにいたオーディエンスばかりではなく、今現在の全世界に向けて発されたものだったに違いない。爆音の残響が耳に残る中、僕自身もライブを楽しめるという当然の日常に幸福を感じずにいられなかった。アーティストにとってライブステージは、何よりそれを想定しながらクリエイトしたものを提示する場である。ただ、同時に、その時ならではの感情や意思を示すことができる場でもある。この夜のライブにおいては、実際に閉塞感を味わい、現実の世界に山ほどの疑問を抱えているからこその葛藤も燃料の一部になっていたように思う。
『story of Suite #19』完成時の取材の際、上田は「今の時代をこのまま素通りするわけにもいかない」(※2)と語っていた。そこでの自分なりの答えの出し方、けじめのつけ方があるはずだ、とも。そしてこの夜、2022年2月26日という瞬間なりの答えが、きっぱりと力強く提示されたのだと僕は考えている。この局面を経たAA=が次にどこに向かうことになるのかを楽しみにしながら、本当の意味での春の到来を待ちたいものである。
※1、2:https://realsound.jp/2021/11/post-909740.html