SHIROSE(WHITE JAM)に聞く、攻めた表現を貫く理由 「たった一部分を10年後も覚えているような曲にしたい」
海外と比べて“セクシーさ”の表現に遅れがあるのは悔しい
ーーふだん楽曲制作はどのように行っているのですか?
SHIROSE:頭の中で一回、曲の全体像ができるんです。そこに音や言葉をダッシュでハメていって、でも頭の中にインスピレーションが浮かんでも時間がたてば忘れていってしまうので、頭でなってる言葉や素材をとにかく早く取り出すような作り方。子供の頃からそうだったのかもしれないです。コライトをするようになりいろいろな人と作ってみて、それが特殊なんだなって気づいたんですけど。一回、頭の中に0秒で一回バーンってできるんですよ。
ーー0秒?
SHIROSE:例えば5分の曲だったとしても、全体像が一回頭の中で1秒もかからなくできるんです。それを脳みそから時間をかけて取り出していく、思い出していく作業なんですね。だから、めっちゃ体力使います。なにかを思い出したり、なくしたものを見つけるのって体力使うじゃないですか。それと同じで。それでどうしても思い浮かばない時は論理的に作っていく感じなんですよね。なるべく一瞬でできる方がいいと思っているんですけど。
ーー一筆書きのような。
SHIROSE:そう、一筆書きが一番いいと思っていて。それが一番解像度が高いいいものができる時なんですけど。だから制作する時は体力作りから始めます(笑)。論理的に作るのもそれはそれで楽しいですけどね。人が感動する法則を使っていくというか。でも、「こういう順番で書けば人が笑う、人が泣く」といった法則ばかりになると、自分も楽しくないので。
ーー衝動的に生まれた表現のほうがもちろんエモーショナルな度合いも変わってきますよね。
SHIROSE:そうですね。日頃からそういう衝動と出会える工夫はしています。僕はフィクションを書きたくなくて。全部本当のこと、生のことだから作っていて楽しい。音楽を聴く時も、なるべくノンフィクションを曲にしている人の曲を聴いていますし。映画も小説もそうかもしれないです。
ーーSHIROSEさんの歌詞の特徴として、時間が出てきたり、室内で過ごしている描写が多いのは何か意識されているのですか?
SHIROSE:ほとんどがそうですよね(笑)。でも意識しているわけではないです。単語だけ並べるような、文章になっていない歌詞も多いかもしれません。例えば〈ポテチ食ってコーラ飲んで/YouTube見て〉(WHITE JAM「あいのデータ」)とか、それぐらいの言葉でもその風景を見たことがあれば想像できるじゃないですか。「なんかグダってんな」っていう(笑)。文章になっていなくても映像をイメージすることができるのは音楽の面白いところですよね。しかもそこに明るいコードが乗っているのか、暗いコードが乗っているのかでニュアンスを変えることができるのも面白いです。
ーーあとSHIROSEさんのソロ作や著書『バニラ』などに顕著に見られる、さらけだした表現はいつからあるものですか? ラブソングもより攻めたセクシーな表現が多いです。数年前に比べると今はリスナーも堂々と支持できたり、SHIROSEさん自身も堂々と表現できる時代になっているように思えるのですが、ご自身ではどのように感じていますか?
SHIROSE:作風で言うと一番初めから変わっていないです。でも「まだこれは世の中の人が受け取れないな」と思って出していないものもありましたね。そういう表現の自由さはまさにインターネットがもたらしたものだと思っていて。15年前くらいの子供の頃、おもしろ動画を撮影してアップしていた時期があったんですね。でもその頃ってまだYouTuberみたいな存在は知られていなくて、街中で動画を撮っていたらおかしい人だと思われて通報されるレベルだったんです。街中で撮影したものをネットにアップすることに対する抵抗感が昔はもっとあった。今は身の周りで起こっている物事がインターネットに上がることに対する恥じらいや怖さは以前よりなくなってきているし、自分がいいと思うものを共有することの楽しさが広がっていて。若い世代は特に生まれてすぐにSNSがあるので、10年前の感性とは全然違いますよね。だから変な固定観念がちょっとずつなくなっているんじゃないですかね。
ーーそれって「あざとい」という概念が一般的に受け入れられてきたこととも関係するかもしれません。あざとさのある人、あざとさを受け取る人、それぞれが素直に楽しめるような世の中になってきているんじゃないかなというのも最近感じていて。
SHIROSE:それもSNSとかYouTubeとかの影響で、「あざといものの取扱説明書」ができたからじゃないですかね。あざといものを受け取った時に、こういうリアクションをしていいんだっていうことが共有されたというか。だから世の中的にもOKになってきた。あざといものを求めるチームの結束が強くなってきたんですかね(笑)。
ーーちなみにすごく失礼かもしれないですけど、SHIROSEさんもあざとい人種の1人かなと思うのですが……。
SHIROSE:ああ、そうか。そうだったんや。
ーーSHIROSEさんが生み出す楽曲もそうですし、SHIROSEさん自身のあざとい魅力みたいなところに惹かれている方々もいるんじゃないかなと思ったのですが、ご本人的には無自覚ということでよろしいでしょうか……?
SHIROSE:無自覚。それ、おもろいですね(笑)。
ーー失礼しました(笑)。ちなみにSHIROSEさんは幼少期からUsherが好きだったということですが、セクシーな表現の部分で影響を受けていたりするのでしょうか。
SHIROSE:R&Bは好きですね。やっぱりファンの方でも、最近は特にR&Bが好きで僕の音楽にたどり着いた方も多くて、影響の一つなのかもなと思います。R&Bというジャンルで行われてきた表現は日本のR&Bでは薄まっている部分もあって。自分が好きなR&Bアーティストのコンサートを何十組かアメリカで見たこともありますが、やっぱり違うと思いましたね。実際自分が聴いてきたR&Bを作った人たちと北欧やアメリカで音楽を一緒に作ったこともありますが、そこでもいろいろな違いを感じました。作り方も違うし、そもそも扱うテーマが違うなって。もちろん日本には日本の良さがあると思うんですけど、包み隠さずいうと日本の音楽やダンスは海外の方には「チーズィー」と呼ばれることも少なくない。「子供っぽい」という意味なんですけど、コード感や言葉や歌のセクシーさが他のアジアの国と比べて遅れすぎているという風にみられていて、それはめっちゃくちゃ悔しいです。
でも今は少しだけ他の国の音楽が簡単に聴ける時代になったし、そういった表現の上での境目もちょっとずつなくなっていい意味でさらされていくことで、日本の音楽から世界ヒットするようなものが出ていくといいなと。自分もいつかそこに関わりたいと思って技を磨いています。