The Weeknd『Dawn FM』歌詞考察 「煉獄」のキーワードが意味するもの【Kaz Skellingtonのディグリントン第5回】

 アーティスト/音楽ライター/スケーターとして活動するKaz Skellingtonを迎えた洋楽を“digる”動画企画「Kaz Skellingtonのディグリントン」。第5回のテーマは「The Weeknd『Dawn FM』歌詞考察」。1月7日のリリース以降、日本国内でもサウンド面で多くの注目を集めてきたThe Weekndの最新作『Dawn FM』。本作で歌われているのはどのような内容なのか。前作『After Hours』に続き重要なキーワードである「罪」に加え、「煉獄」というワードや「ラジオ」というテーマ設定が意味するものについて解説していく。(編集部)

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The Weeknd『Dawn FM』歌詞考察 「煉獄」のキーワードが意味するもの【Kaz Skellingtonのディグリントン第5回】

 The Weekndは『Dawn FM』について、このように語っていた。

「リスナーが死んだような、そんなアルバムを想像してほしい。そして彼らは煉獄から抜け出せない。トンネルの中の渋滞から抜け出せず、出口を目指すような状態をいつもイメージしていた。そして渋滞の中で彼らは車のラジオを聞いている。ラジオの番組ホストはあなたを光へと導き、向こう側へ行けるように助けてくれる。だから祝っているようにも思えるし、希望がないと思うかもしれない。それが私にとっての“The Dawn”なんだ」(※1)

 今回はこう語られた『Dawn FM』というアルバムの内容や意味を考察していきたい。

 本作に登場するキーワードの一つである「煉獄(=Purgatory)」は、カトリック教会で天国に行けなかったが地獄にも落ちなかった人の行く中間的な所とされているところ。また、人は罰によって罪を清められた後、天国に行くとされている。Purgatoryというワードには「すごく苦しいこと」といった意味もある。

 The WeekndはTwitterで『Dawn FM』が新たなトリロジーの途中の作品であると語っている。そのため前作『After Hours』(営業時間終了後)が第1部、『Dawn FM』(夜明け)が第2部、さらにこの先に3作目があるのではないかとも言われている。

 基本的にThe Weekndの歌詞はすごく暗いものが多い。自身の悪癖、罪などによって孤立し、周囲の人との関係を悪化させてしまい、その結果、一人で苦しんでいるというような内容のものだ。例えば、前作『After Hours』では、The Weekndがキャリアのピークにいる中で周りの人が信用できなくなったり、セレブとしての悪癖、罪深い生活から抜け出せずに自分と周囲の人をすごく傷つけてしまっている、という内容の曲が多かった。The Weekndの音楽において「罪」というキーワードは重要だ。その上で『After Hours』が罪を告白する内容だとしたら、『Dawn FM』はその罪について考える時間。夜明け前は、自らの罪について考える時間なのではないかと個人的には感じた。

 収録曲のMVからもアルバムのコンセプトが伝わってくる。1stシングル「Take My Breath」は、クラブのようなところにいるThe Weekndが女性に促され、何かを吸引する。おそらくドラッグやその他誘惑などを表した描写だと思うが、最終的には死を迎えたような描写が登場する。その次に公開された「Sacrifice」のMVは死後の世界を描いているようだ。The Weekndは磔にされて儀式のようなことが行われている。映像の最後には急激に歳を取る描写があり、その姿こそが『Dawn FM』のアルバムジャケットにもなっている老人のThe Weekndの姿。3rdシングル「Gasoline」のMVでは老人のThe Weekndと若いThe Weekndが対面し、若いThe Weekndが老人のThe Weekndを攻撃する。この描写から老人のThe Weekndは後悔の念が清められたThe Weekndを表しているのではないかと想像した。若いThe Weekndが悪癖や誘惑に勝てずに清められた後の自身の姿を攻撃し、元の自分に戻ってしまうというストーリーとなっているのではないだろうか。

The Weeknd - Take My Breath (Official Music Video)
The Weeknd - Sacrifice (Official Music Video)
The Weeknd - Gasoline (Official Music Video)

 ここからは楽曲の内容について解説していきたい。『Dawn FM』には、ジム・キャリーがラジオのホスト的な立ち位置でナレーションとして登場する。1曲目にも彼のナレーションが登場するが、このアルバムが「死後の煉獄で流れているラジオ」の設定だということを思わせる内容だ。ちなみに、その中に出てくる「103.5」には、The Weekndの地元・トロントのラジオステーションへのリスペクトが込められていると思われる。

(あなたは103.5、Dawn FMを聴いています。あなたは暗いところにとても長くいすぎた。光に向かって歩いていく時間です。手を広げてあなたの運命を受け入れる時間です。恐ろしいですか? 心配しないでください。痛みのないトランジションをガイドしてあげましょう。なんでそんなに急いでいるんですか? リラックスしてこのコマーシャルフリーのあなたの音楽を103.5、Dawn FMで聴いてください)

 「Gasoline」ではThe Weekndの悪癖について語られている。「朝5時でまたドラッグでハイになっている。痛みを感じているということがわかるだろう。空虚に堕ちている」「やっと安らかに死ねたらこのシーツに自分をくるんでくれ。そしてガソリンを撒いてくれ。もう自分にとっては意味がないから」。トリロジーの1作目とされる『After Hours』の最後に亡くなっているという設定の可能性もあるが、The Weekndは『Dawn FM』序盤から死を意識しているということがわかる。

 4曲目「Take My Breath」ではMVの描写同様、誘惑などについて語っている。「誘惑は変装した悪魔。生きている実感を感じるためにすべてのリスクをとろうとしている。生贄のように自分を差し出そうとしている」。“誘惑は変装をした悪魔”だとわかっていても生きている実感を得たいがためにリスクをとってでもその誘惑に乗ってしまうという、The Weekndの懺悔のような部分が表されている。

 続く「Sacrifice」はThe Weekndの恋人に対する懺悔なのかもしれない。「あなたが何度私を治そうとしてもその失ってしまった欠片がもうないことに気がつくでしょう。あなたには嘘をついて“あなたのもとを去らない”と言うけれど」「でも結局私はあなたのためにいろいろ犠牲にできない」。大切にしたいはずの人に対して自分は犠牲を払うことができないと懺悔している。

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