『日本映画音楽の巨匠たち』インタビュー

映画の新たな楽しみ方を発見 竹本泰蔵×CHIAKi×松下久昭が語る『日本映画音楽の巨匠たち』の魅力

アナログだからこその味、価値観を失わず収録

ーー『八甲田山』は、青森県の八甲田山で199名の死者を出した「八甲田山雪中行軍遭難事件」を題材にした映画で、当時は社会現象にもなりました。

竹本:作曲の芥川也寸志さんは本当にアカデミックな方で、大河ドラマの音楽もたくさん書かれています。独特のメロディ感があって、それが魅力になっていると思います。メロディの美しさは、他の作曲家とは違うものがありますね。ただ物語の印象として、八甲田山で演習を行った全員が死んでしまうと思われている方が多いのですが、死んでしまうのは北から行軍した連隊で、南から行軍した徳島隊は生き残るんです。そこをしっかり理解して演奏する必要がありました。「徳島隊銀山に向う」という曲は、生き残った隊の曲なので、決して悲しそうに演奏してはいけない。そういうところは気をつけてやったつもりです。

ーー最後に「妖怪大戦争」を収録。最近またリメイクされた作品ですが、1968年の最初の『妖怪大戦争』の音楽を収録しています。これは断片的だったものを1曲に繋いで作った曲とのこと。

松下:劇伴としてシーンに合わせた短い曲がいっぱいあって、それを1つの曲として凝縮しています。

竹本:この曲には、クラシックの似たような曲がたくさん出てくるのが面白い。そこから、作曲の池野成さんは「映画からこういうことを感じてこういうイメージで曲を書いたんだな」ということが、何となく伝わってきました。何と何を結びつけてこの曲を作曲したのか、作曲者の意図を感じました。

松下:昔の映画監督にはクラシック音楽が好きな方が多く、黒澤映画の予告編には必ずクラシック音楽が使われていたことも知られています。『影武者』では、スッペの「軽騎兵」が使われていました。おそらく雰囲気を伝える道具として、「こういうクラシックの曲みたいにしてほしい」というリクエストがあったのだと思います。元ネタがバレバレなものも多いので、そういう意味ではクラシック音楽のファンが聴いてもすごく面白いかもしれない。

ーークラシック音楽がオマージュされている点も含めて、古い映画音楽を今音源として新たに収録することには、どんなところに意義や魅力を感じていますか?

松下:昔の映画音楽は、演奏のクオリティがよくなかったり音が悪かったりということがあるので、今録音し直すということには、すごく価値があることじゃないかと思っています。例えば『スター・ウォーズ』の楽曲は、当時のロンドン交響楽団の録音を細かく聴くと結構間違えていたり音をはずしたりしていて、それが味になっていいと言う人もいっぱいいらっしゃいますけど、それこそクラシック音楽と同じように、何度も再演して新しい解釈を楽しむことができます。何度聴いても飽きないし、演奏によっていかようにも変われる。そうした魅力が、映画音楽にもあるということです。

竹本:映画音楽も誕生のきっかけが違うだけで、オーケストラで表現されるという中身の部分は大きな意味でクラシックの流れに沿っています。聴く側もクラシックの延長として聴いていただければ、何度も繰り返し聴いて楽しんで、いいところをどんどん発見していってもらえるんじゃないかと思います。

ーー今の時代の映画にはない昔の映画音楽の良さは、どんなところにあると思いますか?

竹本:録音の仕方です。とにかく昔の映画は、1秒24コマのフィルムを見ながらそれに合わせて演奏して、合わなかったらもう一度やり直していた。今は、完全に音楽ができあがっている上で、そこからスコアを起こして演奏して、デジタルで統一して編集するし、上からかぶせもする。録音技術が発達したことで、そこに対する価値観が全く違います。昭和の映画だけでなく、世界的にも昔の映画に残る味は、そういうところから生まれるものなんじゃないでしょうか。我々が今回楽曲を再現する上で心がけたのは、その味を失わずにレベルを上げるということでした。

CHIAKi:温度感が伝わってくるのは、そういう部分かもしれませんね。最近の音楽はどうしてもデジタル化されているので、何となく温度感を感じづらい部分があって。今回収録されているような作品は、いい意味での波があったりとか、景色が思い浮かぶような曲だなって思います。私も今回演奏する上では、そういう熱が伝わるような演奏を心がけましたけど、映像と音が一緒になった時のインパクトは昔の映画にはすごくあるなと思います。きちんと心に染みるというか、そういう感覚はありますね。

ーー映画ファン、クラシックファン、全音楽ファンに聴いてほしい一枚ですね。

竹本:オリジナルのスコアを表現するということはどういうことか、やっていくうちに分かっていった部分も多く、これまで培ってきた部分も含めてシリーズの集大成的な作品だと思います。ぜひ聴いてほしい。

CHIAKi:普段あまり日本の映画で、それも古いものをわざわざ取り上げて聴く機会はないので、貴重な機会を与えていただけたと思っています。映画好きの父にこのCDを渡したら、すごく喜んでいました。娘がこういう作品に携わっているということと、映画を見た当時のことをすごく思い出したみたいです。改めてこの映画を、父と一緒に見てみようかなと思います。

松下:映画音楽を独立して聴く機会はなかなかないと思いますが、こういう形で機会があれば、一度じっくり聴いていただいて。その魅力を発見することができたら、映画を見る楽しさも増えるんじゃないかと思います。あと、早くコンサートをやりたいですね。ぜひ生でも聴いてもらいたいと思う曲ばかりです。

■リリース情報
発売:2021年9月29日(月)
価格:¥3,300(税込)
【収録曲目】
01.黛敏郎:「東京オリンピック」エンディング(市川崑)1965
Toshiro Mayuzumi : “Tokyo Olympiad” – Ending theme
斎藤高順:「東京物語」 (小津安二郎)1953
Takanobu Saito : “Tokyo Story”

02.テーマ(主題曲)
Theme

03.ノクターン(夜想曲)
Nocturne

04.佐藤勝:「赤ひげ」(黒澤 明)1965
Masaru Sato: “Red Beard”

05.池辺晋一郎:「影武者」メインタイトル(黒澤明)1980
Shin-ichiro Ikebe : “Kagemusha” - Main title
武満徹:「乱」組曲 (黒澤明) 1985
Toru Takemitsu : “RAN” suite [ⅠⅡ Ⅲ Ⅳ]

06.[Ⅰ]

07.[Ⅱ]

08.[Ⅲ]

09.[Ⅳ]

10.山本直純:「男はつらいよ」メインタイトル(山田洋次)1969
Naozumi Yamamoto : “Tora-san” - Main title
伊福部昭:
Akira Ifukube :

11.「銀嶺の果て」メインタイトル(谷口千吉)1947
Snow Trail” - Main title

12.「ゴジラ」メインタイトル(本多猪四郎/円谷英二)1954
“Godzilla” - Main title

13.「空の大怪獣ラドン」ラドン追撃せよ(本多猪四郎/円谷英二)1956
“Rodan! The Flying Monster” - Get Rodan

14.「キングコング対ゴジラ」メインタイトル(本多猪四郎/円谷英二)1962
“King Kong vs. Godzilla” - Main title

15.「怪獣大戦争」マーチ(本多猪四郎/円谷英二)1965
“Invasion of Astro-Monster” - March
「怪獣総進撃」(本多猪四郎/有川貞昌)1968
“Destroy All Monsters”

16.メインタイトル
Main title

17.マーチ
March

18.東京大襲撃
Great Tokyo Attack
芥川也寸志:「八甲田山」(森谷司郎)1977
Yasushi Akutagawa : “Mt. Hakkoda”

19.八甲田山テーマ
Main theme

20.徳島隊銀山に向う
Tokushima Team

21.終焉
Ending theme

22.池野成:「妖怪大戦争」(黒田義之)1968
Sei Ikeno : “Yokai Monsters: Spook Warfare”

竹本泰蔵 指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:田野倉雅秋、アコーディオン:大田智美、ギター:松尾俊介、
ピアノ:CHIAKi、藤田崇文、合唱:不気味社、エレクトーン:山崎燿

Conducted by Taizo Takemoto, Japan Philharmonic Orchestra 
Concert master : Masaaki Tanokura, Accordion : Tomomi Ota, Guitar:Shunsuke Matsuo,
Piano: CHIAKi, Takafumi Fujita, Chorus:Bukimisha, Electone: Yo Yamazaki

録音:2021年3月30日、31日 東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパスC301
Recorded in Tokyo College of Music, March 30 and 31, 2021

キングレコード オフィシャルサイト
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICC-1581/

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