安田レイ、コロナ禍を経て生まれた“誰か”に向けた曲 JQ from NulbarichらとのコラボEP『It's you』制作秘話

 安田レイから、コラボレーションEP『It's you』が届けられた。今作には、JQ from Nulbarichがプロデュースを手掛けた表題曲「It’s you」のほか、TENDREがプロデュースした「blank sky」、tofubeatsと共に制作したBONNIE PINK「A Perfect Sky」カバー、『THE FIRST TAKE』にてH ZETTRIOと披露した自身の楽曲のセルフカバー「Brand New Day feat. H ZETTRIO - From THE FIRST TAKE」を収録。音楽シーンの第一線を担うアーティストとのコラボにより、安田の新たな歌声の魅力が引き出された一作となっている。セッションによって作り上げる楽しさが分かったという今作の制作について、そしてコロナ禍によって聴く時間が増えたという彼女が、制作の上でインスピレーションを受けた音楽なども聞いた。(編集部)【記事最後にプレゼント情報あり】

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“自己肯定ソング”から誰かへ向けた曲に

ーーまずお聞きしたいのは、コロナ禍で大変な中、音楽への向き合い方に変化があったかということです。

安田レイ(以下、安田):コロナ禍で、自分の時間がたくさんできて、音楽を聴く時間もいつも以上に増えました。インプットをする時間が増えたことが、コロナ禍で唯一、良いことだと言えます。この間の社会の状況は知らず知らずのうちに、自分が書く歌詞などにも表れています。人との繋がりに、作詞の方向性が向くようになりましたね。過去を振り返ることが、私はあまりないのですが、この1年はこれまでに行ったライブをよく思い返しました。ファンの皆さんにこれまで、どれだけパワーをもらっていたのか、そのことに気づけていなかったのかなとも。ファンの皆さんとの関係性を確認するような期間でもありました。

ーーいつも以上に音楽を聴いていたとのことですが、どれほどですか?

安田:ずっとです。サブスク(音楽配信サービス)が大好きなので、いろいろなプレイリストを聴いたり、友達に教えてもらった曲を聴いたり。永遠に聴いていられますね。音楽を聴くのは趣味でもあるし、仕事に繋がる時間でもある。映画、ドラマ、アニメを観るのもそうですが、全部が自分のアウトプットに繋がっているので。これからは、インプットしたものをアウトプットしていく番かなと思います。その第1弾がこの『It's you』です。

ーー具体的には、どういったジャンル、アーティストをよく聴いていましたか?

安田:聴くのはR&Bが中心で、今ハマっているのはオリヴィア・ディーン。彼女には共感できるポイントがたくさんあって、「It's you」という曲も、彼女の曲からインスパイアされたところがあります。最初、“自己肯定ソング”をつくりたいと思ったんです。今は自己肯定しないとやっていられないというところがありますよね。多くの人が同じ思いのようで、世界中で自己肯定ソングが一気に増えた感もある。そうして自己肯定させてくれる曲を多く聴いていた時に、オリヴィア・ディーンの「Be My Own Boyfriend」という曲を見つけて。自分の彼氏に自分がなる、彼とは別れたけど、「大丈夫、私は自分で自分を満たすことができる」といった歌詞で。ひとりでいる時間が長くなって、人と会って話ができないのなら、自分で自分を喜ばせられないといけないなと思ったんです。それで「It's you」を共作したJQ(Nulbarich)さんに、「自分にエールを贈りたい」と言って歌詞を書き始めたんですが、気づいたら自己肯定ソングではなくて、タイトルも「It's you」と、誰かに向けた曲になったんです。

ーー意図せず、曲のテーマが変わっていったのですね。

安田:ひとりでつくっていたらシンプルに自己肯定ソングができていたと思います。でも「It's you」は、ゼロからJQさんとつくっていく中で、自然と誰かに向けた曲にしたくなったんです。初めに意図していたのとかなり違う曲になってしまったと言ったら、JQさんが「それがレイちゃんが今一番、自然に、言いたかったことなんだよ。自分じゃなくて誰かに向けて言いたかったんだと思う」と言ってくれて。誰も想像していなかったエンディングというか、自然に「It's you」という曲ができた。私も、これが今一番、伝えたかったことなんだろうと思います。

ーー「It's you」は、コロナ禍で感じていたことが、最も自然に表れた曲だということですね。

安田:「繋がり」をすごく欲しているというか。28歳の私が今、こうしているのは、仕事や友情、恋愛といった過去のいろいろな、いい経験も悪い経験も全てが自分に絡みついちゃっているからだなと。たまに、この経験はなかったことにしたいな、と思ったりもしますけど、全てが絶対に捨てられないもの。辛い経験もあったけれど、相手に対して「あの時、私を傷つけてくれてありがとう」と、今なら思えるのは、少し私が大人になった証拠なのかなと。「It's you」は、さまざまな過去の経験にありがとうとも言っているし、「今もあなたの存在が私の中に残っているよ。ありがとう」という、そんな感謝の思いも込めた曲です。

ーーなるほど。それは結果的に、自己肯定も含んだ曲になっていますね。今とても伝えたいことを、日本語と英語をかつてなく混ぜた歌詞にまとめたのは、冒険だとも思いますが。

安田:そうですね、ここまで英語詞が多いのは、私の曲にはなかった。でも、二十歳で安田レイとしてデビューしてからずっと同じでは、私もおもしろくないし、ファンの皆さんもおもしろくないだろうと。ファンの皆さんは、安田レイから出てくる新しいものを待っていると、信じているので。今回なら、音数が少なかったり、英語が多かったりという新しい挑戦は、不安というよりも、楽しみの方が大きいですね。皆さんのリアクションが待ち遠しいです。

ーー1年半前の、アルバム『Re:I』リリース時のインタビューでお聞きしたように、やはり英語の方が歌う時の感情のコントロールはしやすいですか?

安田:安田レイとしてのデビュー以前は全て英語詞で、小さい頃から聴いてきたのも英語詞の音楽なので、英語詞はルーツではあります。ただ、日本語も大事にしていきたいという気持ちも、とても強いんです。音楽で日本の皆さんにメッセージを伝えるのに、一番いいのは日本語詞で、英語詞は入れない方がいいのかな、と思ってきたところもあります。でも、今は英語詞の入った曲が多くなって、状況も変わってきた。音楽だから、パッと聴いて意味がわからなくても、耳に心地よければいいのかなという思いも強くなりました。もちろん意味も届けたいですが、それ以上に大事なものがあるんじゃないかと。聴いていて楽しくなるとか、気持ちよくなるとか、そういったことです。なので今回、言葉についての考え方も変わりましたね。

ーー「It's you」の作詞は、とても大きな経験になったようですね。

安田:1曲の中で日本語と英語のバランスをとるのはすごく難しくて、本当に悩みました。ただ共作者のJQさんが、日本語と英語のチャンポン・トークのような歌詞の書き方をしていて。日本語と英語を混ぜるのが上手で、ひとつの新しい言語に聴こえてくるほどですね。そんなJQさんの曲を聴いていると、言葉の響きが心地いいなと。それで、このコラボならではの言語ミックスはやりたいなと、あらためて思いました。JQさんが、ここは英語にした方がいい、ここは日本語に戻して、などと歌詞についてもアドバイスをくれて。少し言葉を変えるだけで、こんなにも意味を伝えやすくなるんだとか、耳に心地よく聞こえるんだとか、すごく勉強になりましたね。自分ひとりでは絶対に書けなかった歌詞です。

ーーボーカルのディレクションをJQさんに委ねることで、どういった発見がありましたか?

安田:一番印象的だったのは、「レイちゃん、歌わないで!」って言われたんです。いつもは、喉も温めて、体もストレッチして万全な状態にしてから、「よし、歌うぞ!」って気合を入れてマイクと向き合うんですけど。JQさんは、「マイクを誰かの耳だと思って。耳に向かって大声で叫んだら、その人が嫌がるでしょ」と言うんです。大勢に向けてというより、その人ひとりに、耳元で思いを伝えるようなイメージで歌ってと。ただ「声を弱めて」と言うのではなくて、具体的な言葉で伝えてくれたので、どう歌えばいいのか、イメージしやすかったですね。

ーー次の「blank sky」も、特にヘッドフォンで聴くと、歌声をとても近くに感じられますね。

安田:歌声を近くに感じられるつくりの曲が最近は好きで、オリヴィア・ディーンもそうですし、ティークス(Teeks)もそうです。歌声が近いと、自分のために歌ってくれてるって思えますよね。もちろん迫力のあるサウンドも大好きですけど、歌い手との距離を近く感じられる曲が、今はより好きです。新曲2曲はそのようにつくれたので、嬉しいですね。

ーーEPのタイトルも、1曲目の曲名と同じく『It's you』としたのはどういった思いからですか?

安田:「It's you」という曲が、今回のEPのカギになるというのもありますし、“It's you”という言葉が、収録曲4曲全てに繋がっているということもあります。どの曲も、コラボをさせてもらって、自分ひとりではできないことをやり、私の世界を広げてもらった。そしてコロナ禍にあって、「あなたが必要です」というメッセージを前面に出していきたいという思いもある。いろいろ意味が、“It's you”というシンプルな言葉に詰まっているんです。

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