『Enjoy Music! New Wave Generations Vol.2 Chapter #2』レビュー

山田あさひ、中野大地、BUGGG……新人発掘プロジェクト『Enjoy Music!』から生まれた歌声に個性を持つアーティスト

 Official髭男dism、ゆず、SEKAI NO OWARI、SKY-HIなど名だたるアーティストのプロデュースを手掛けた保本真吾による、コロナ禍ならではの新人発掘プロジェクト『Enjoy Music!』。保本がTwitterに投稿した「誰か僕と一緒に音楽を作りたい人はいますか?」というひと言を発端に、「#EnjoyMusic!」「#ジョイミュー」などのハッシュタグを通して、プロ/アマチュア、性別、年齢等を一切問わず多くの音源が寄せられた。保本はそれぞれに対してアドバイスを送りながら、ときには一緒にレコーディングを行ったりと、プロジェクト参加者の楽曲制作をサポート。新型コロナウイルス感染拡大の影響でライブや音楽フェスの開催だけでなく、スタジオでのレコーディングといった制作も制限されたりと、音楽業界の将来に暗雲が立ち込めるなか、それは未来につながる一筋の光のようであった。

 保本との共同作業により生み出され、磨き上げられた楽曲群は、昨年リリースされたコンピレーションアルバム『Enjoy Music! New Wave Generations Vol.1』に続き、Vol.2として10月20日より3週連続で配信リリースされる。その第2弾となる『Enjoy Music! New Wave Generations Vol.2 Chapter #2』(10月27日リリース)には、プロジェクト参加者のうち3アーティストによる楽曲、山田あさひ「少女」、中野大地「枯れてしまえば」、BUGGG「ナンセンス」が収録されている。それぞれ聴きどころを紹介していこう。

山田あさひ「少女」

 まず、名古屋を拠点に活動するシンガーソングライター 山田あさひについて紹介する(以下、発言は山田あさひへのインタビューによるもの)。

 「曲作りにおいては椎名林檎に強く影響を受けながらも、J-POP全般に触れてきた」という彼女が作り出す音楽は、曲ごとに様々なバリエーションを持つ。瑞々しさと凛とした質感を兼ね備えたその歌声は唯一無二であり、今回コンピレーションに収録された「少女」は温かな情感を引き連れたしとやかな1曲に仕上がっている。

 「少女」は歌い出しから〈殴れるものなら〉や〈魚の餌にすらならない〉といった強い言い回しで内省を綴っていく。そしてファンタジックな描写や写実的なシーンを交えながら徐々に決意へと視点が移り変わっていき、2番では自分自身とバレリーナの少女の姿を重ね合わせるなど、多彩な表現が交差した歌詞へと広がっていくのだ。

 「少女」に込めた想いについて、「電車でバレエのお稽古帰りの女の子を見た時に、まとまった髪や、電車の中でもシャンと伸びた背筋が素敵だな、尊いな、と思ったのをきっかけに作りました。そこに今の自分を照らし合わせ、もがきながらも自分を信じていこうという気持ちを込めました」と山田は語る。日常で目にした場面から自身のリアルな想いを引き出したからこそ、素直な感情吐露と物語が渾然一体となった歌詞が生まれたのだろう。

 さらに山田は、「少女」の楽曲制作で大切にしたことは「曲の表情」だと語る。「感情を込めて歌いましたが、あまり大袈裟にせず、聴き手に寄り添った曲になるよう努めました」という答えからも分かるように、この歌は自然に胸に染み入ってくる。過剰にドラマチックではないにも関わらず、確実に心を揺さぶってくる歌声とそのコントロール力を感じ取ることができるはずだ。

 プロデューサー・保本真吾と制作したことによる驚きや発見については、「プリプロの時にリズムの変更があったことです。今まで私が作った曲を誰かに直してもらうことがなかったのでとても勉強になりましたし、新鮮でした」と振り返る。穏やかなメロディを際立たせるテンポ感と最適なバンドアレンジを味方につけたこの1曲は、彼女の可能性を限りなく広げていくことだろう。

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