the engy、クールながらも人懐っこい温かみ 生のグルーヴが躍動した2年ぶりの東京ワンマンライブ
東京でのワンマンライブは2019年11月以来、実に1年10カ月ぶり。7月にリリースしたアルバム『On weekdays』を引っ提げてのVeats Shibuyaでのライブは、今のthe engyのバンドとしての成熟ぶり、そして洗練された音楽性と人懐っこい体温が同居する魅力を存分に伝えるものとなった。ライブの終盤、山路洸至(Vo/Gt/Prog)は、「愛してます、エブリバディ」という言葉に続けて「この素晴らしい時間が続いていくことを」と願いを口にしていたが、その言葉通り、「平日」と名付けられたアルバムに込められた日常と生活、それを営む人間への眼差しが、音楽を通して会場に集まった人々にも温かく降り注ぐようなライブだった。
ライブのオープニングを飾ったのはアルバムの1曲目でもある「Love is Gravity」。山路がギターを爪弾きながら歌い始め、やがてバンドメンバーが入ってくると、太いグルーヴとゆったりとしたリズムが気持ちよく空気を揺らしていく。歌う山路の表情も心地よさそうだ。「the engyです、よろしく」。そんな短い挨拶に続けて「Driver」へ。青白い光がステージを眩く照らすなか、さらにスケールの大きなサウンドが広がっていく。濱田周作(Ba)と藤田恭輔(Gt/Cho/Key)も体を揺らしながら、それぞれの楽器を気持ちよさそうに鳴らしている。
ミニマルなリフレインからドープなリズムへと展開する「Words on the paper」には、フロアからも手拍子が起きる。歌い終えた山路が大きく息を吐くと、その手拍子は大きな拍手へと変わった。今日集まってくれた観客に感謝の意を伝えつつ「気持ちよくやって、気持ちよく帰りましょう」と笑顔で語る山路。この日、徹頭徹尾、彼は楽しそうだった。ライブをできる喜び、こうして直接ファンに向けて音楽を届けられる喜びが、温かなバイブスとなってVeatsのステージを包んでいくようだ。
一転、真っ赤な照明のなか、妖しげなムードを醸し出した「In my head」、そして力強い低音が鳴り響き、バンドの生のグルーヴをこれでもかと見せつける「When your’re with me」という過去曲の連打を経て、一気に視界が開けるサウンドスケープの「朝になれば」へ。現実と夢の狭間のような不思議な雰囲気が、それまでの2曲のヘヴィな世界観とのコントラストによって一層際立つ。これまでとは違う制作スタイルで作り上げた『On weekdays』で獲得した新たな一面と、バンドの肉体性の両方をくっきり浮かび上がらせる展開が見事だ。続く「Never know」では、音によるコミュニケーションを楽しむようなセッションが繰り広げられ、メンバー4人も楽しそうな表情を見せる。
そんなバンドの濃密な関係性がはっきりと示されたのが、次の「Say it」だった。彼らのルーツでもあるRed Hot Chili Peppers(この日の開演前のBGMでも流れていた)直系のミクスチャーロック。境井祐人(Dr)によるタイトなリズムが空気を震わせ、スポットライトが当たるなか藤田のギターソロも披露される。一気に爆発するロックバンドらしいエキサイトメント。そのままトラックを繋いで次の曲へーーというところで、山路が音を止める。「本当はこのまま歌い出すはずだったんですけど、無理……」。ここまでノンストップで突き進んできて相当疲れたのだろう、「水飲んでいいですか?」とインターバルを取る。