Panorama Panama Town、ライブでつなげたバンドの軌跡と現在地 メンバーソロ企画も披露したボリューム満点な一夜に

 8月8日を“パノパナの日”と称して、毎年企画ライブやトーク配信を開催してきたPanorama Panama Town(以下、パノパナ)。今年はファンから募った楽曲投票に加え、メンバー3人のソロコーナーも含めて、トータル3時間半以上に及んだ『“0808” REQUEST ONE-MAN LIVE & ???』が開催された。ここのところMCは少なめに、潔く演奏でバンドの現在地を知らせるライブを行ってきただけに、この過積載気味な企画ライブで、やりたいことが常に溢れているパノパナ(特にフロントマンの岩渕想太/Vo/Gt)のニュートラルさを再確認できた。

岩渕想太

 キャパシティが250人前後の下北沢 Flowers Loft。コロナ禍のため人数制限をしているとはいえ、ソールドアウトした会場内は開演前から親密なムードだ。前半はメンバー3人が個々にパフォーマンス。まず、岩渕の弾き語りでスタートしたのだが、後半のリクエストライブで表現しきれないパノパナの軌跡と今を補完していたと思う。1曲目はバンドのリスタートとなった昨年末リリースの「Sad Good Night」。寂しさを自覚することで欲望のトリガーは引かれる、そんな印象だ。アコギ1本で歌われると、バンドバージョンとは違って、例えばルー・リードのように静かでストリートワイズなしたたかさが加わる。岩渕の個人史や心象が映し出された「パン屋の帰り」、彼の父親が最も好きだという井上陽水の「人生が二度あれば」のカバー、そしてこの日のために作ったという「新宿」が素晴らしかった。退屈を持て余すカップル、疲れたサラリーマン、様々な人の事情が交差する新宿という街は、彼曰く、「多くの人にとってのディズニーシーや大阪の海遊館」に匹敵するらしい。作りものじゃないファンタジーはどれもとても愛おしい。弾き語りのラストはバンドの現在を示唆する「On the Road」で締め括り、アコギでも渾身のストロークで披露した。リクエストライブからの選外だったこともあるのだろうが、パノパナが時代に対してセルアウトしない理由が色濃く現れていた。

 続いては、“タノアキヒコ(Ba)の友人”だというDJ Sick Boyがスピン。宇多田ヒカルの「One Last Kiss」からMura Masa「1Night feat. Charli XCX」へのつなぎや、パノパナ「月の裏側」とCSS「Move」のマッシュアップなど、彼自身のセンスが窺えるナイス選曲。ライブハウスの音響も良く、できれば存分に踊りたかったが、物理的に手狭でもあり、また同様の企画が行われる際は広い場所で楽しめることを希望したい。

タノアキヒコ

 浪越康平(Gt)はサポートメンバー・大見勇人(Dr)と共にステージに上がり、エリック・クラプトンのカバーでブルースギターのセンスを見せたり、岩渕とは対照的に井上陽水でもポピュラーな「少年時代」をチョイスしたり、岩渕と2人でThe Strokes「I Can’t Win」をカバーしたり。岩渕のボーカルがジュリアン・カサブランカスを意識したものになるのもご愛敬である。他にも「俺ism」のバースを「MOROHAっぽく歌います」と前置きして日本語ラップを聴かせたり、サポートを務めているpeanut butters「波乗りnammy」をカバーするなど、幅広い選曲で楽しませてくれた。3人それぞれの個性を解体して見せることで、特に岩渕の詩人としての哀愁や、90年代ビッグビート的な折衷センス、あるいはブルースへのリスペクトなど、パノパナが他の同世代バンドと一線を画す要素が数多く浮かび上がった。

浪越康平

 換気休憩を挟んで、お待ちかねのバンドセットによるリクエストライブは10位から1位までをカウントダウン方式で披露していく。まずは「ラプチャー」。ライブ定番曲として納得のランクインなのだが、イントロに湧くファンのビビッドな反応を見ると、やはり自分たちが投票して作るセットリストならではの楽しみに満ち溢れている。哀感に満ちたメロディにドライなニュアンスを加えていく、大見のデッドなドラムアレンジも、すっかりバンドに馴染んでいる。続く「SHINKAICHI」はグッとタイトなガレージロックにアップデートされ、各楽器の分離のバランスが良く、バンドが発したい意図が隅々まで伝わってきた。

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