『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』サントラが総括するシリーズ20年史 JP THE WAVY参加で「Tokyo Drift」とも接続

 世代交代のバトンタッチは、この日本人枠に限ったことではない。例えば、不幸により亡くなってしまったポール・ウォーカーへ捧げる曲として大ヒットをした「See You Again feat.Charlie Puth」のウィズ・カリファは、6作目も8作目もサントラに登場していたが今作には登場しない。テズ役のリュダクリスや、映画のテイストとマッチしているピットブルもサントラの常連だったが、今作は不在だ。それだけではなく、全体的にラップの比重をさらに増している。リードシングルを並べてみてもそれは明らかで、先程挙げた「See You Again」と、8作目のG-Eazy「Good Life feat.Kehlani」はどちらもキャッチーで、歌詞にスラングやメタファーもなく、サントラの中でもラジオ・フレンドリー枠と言える。今作のリードシングルの中でこれらに最も近いのがTy Dolla $ign, ジャック・ハーロウ & 24kGoldnによる「I Won」だろう。しかし上2曲と比べれば低音とハイハットが強調された、かなりラップ寄りのビートだ。決定的な違いはジャック・ハーロウのヴァースに見つけられる。〈She need me like oxygen/Felt the same ‘til I got finished(彼女は酸素のように俺を求めてるし俺もそうだったよ、イクまではね)〉と、リリックが大人向け。続いて彼はルーフトップの車を自分の股間の暗喩に使い、伝説のギタリストの生涯も彼の開放的な性事情のメタファーとも読めるリリックを続けている。裏の意味を推測することもラップの楽しみ方なのだが、その隙を多くとった曲をリードシングルに切ったのは、世界的にラップのリテラシーが上がった故のことなのか。それとも、冒頭に書いたように今作は20年前の1作目の内容までも踏襲しているようなので、長年のファンの年齢層をターゲットとしているのか。いずれにせよ、近年の“ワイスピ”シリーズのサントラと比べ、内容がラップリスナー向けの仕様になっていることは確かだ。

Ty Dolla $ign, Jack Harlow & 24kGoldn - I Won (Official Music Video) [from F9 - The Fast Saga]

 世代交代を感じさせる点がもう一つ。8作目のサントラではトラップの重要ラッパーが勢揃いしていたが、今作はポスト・トラップとして注目されているドリルの人気を反映したラッパー達が並んでいる。ドリルとはシカゴのラッパー、チーフ・キーフらが成立させたサブジャンルであり、トラップよりも冷酷で暴力的なサウンドを特徴とする。そのドリル・ミュージックがイギリスでグライムと融合して生まれたのがUKドリルであり、うねるようなベースが特徴的だ。そしてUKドリルに影響を受けたブルックリン出身の若いラッパーによるドリルは、ブルックリン・ドリルとして久しぶりにラップ誕生の地であるNYに注目を集めている。かくしてアメリカ南部で生まれたトラップは、北部の街・シカゴでドリルへと進化し、UKを経由してNYブルックリンの地にて萌芽した。この進化系統における重要人物を並べた曲が「Lane Switcha」だ。UKドリルを代表するSkeptaと、死してなおブルックリンドリルを象徴しているポップ・スモーク。そのポップ・スモークと地元を同じくしてトラップ世代のスターであるA$AP Rockyに、Rockyに多大なる影響を与えたJuicy Jと、その弟Project Patが並ぶ。ビートのプロデューサーはInternet Moneyからリル・テッカ「Ransom」などを手掛けたタズ・テイラー。ドリルっぽさもトラップらしさもないビートだが、だからこそ一つの線で結ぶことができる彼らのスタイルの違いを比較しながら楽しめる。

Skepta & Pop Smoke - Lane Switcha (feat. A$AP Rocky, Juicy J & Project Pat) (Official Audio)

 「Lane Switcha」はまだ観ぬ劇中のシーンをイメージさせるようなスピード感のある曲に仕上がっているのだが、サントラの中で筆者が最もスピード感を感じたのは正直「Breathe」だ。Remix表記はないが、同曲は1996年にThe Prodigy自身がリリースした曲。原曲よりBPMを少しだけ速め、クリスピーになるまで歪めたドラムへと差し替えられている。最大の驚きは、いわゆる本人登場である。原曲ではWu-Tang Clanの「Da Mystery Of Chessboxin」がサンプリングされていたが、24年越しにアップデートされたこの曲ではWu-Tang Clanの総帥・RZAが降臨している。しかもRZAといえばカンフー映画から録った音や、不穏でスロウなブーンバップに乗せる図太いラップが特徴なのだが、ドラムンベースばりに速いビートでも野太さをそのままにラップをしていて非常に新鮮。そして彼のヴァースが止む時、大胆に割り込んでくるギターに鳥肌すら立つ。90代後半から00年前半までブームとなったThe Chemical BrothersやFatboy Slimといったビッグビートの持つラップとの相性の良さや、ドラムンベースの疾走感、1作目にも参加していたLimp Bizkitを代表とするミクスチャーのエネルギーを彷彿させる。国内でもプロデューサーであるKMと(sic)boyや、Creative Drug StoreのJUBEEによりミクスチャー色の強いラップに人気が集まりつつある。若い世代にとって00年代はフレッシュな遺産のように映るかもしれないが、この「Breathe」のアップデートは自らを再生産して自身をアップデートしていくベテランの矜持すら感じる。当時であればRZAも、メイクをしてキワモノ扱いすらされたエレクトロパンクなThe Prodigyとは手を組まなかったのではないだろうか。RZAもカンフー映画をサンプリングするにとどまらず、近年はそのカンフー映画を制作する側であり、自己の再生産をしていると言えよう。

The Prodigy - Breathe (feat. RZA) [Liam H and Rene LaVice Re-Amp] (Official Audio)

 最後に、“ワイスピ”シリーズを単なる派手なカーアクション映画と甘く見ていた節があった筆者だが、今までのストーリーを回収し始めた『ジェットブレイク』には強い興味を持つと共に、考えを改めるようになった。たしかに隙も多いストーリーかもしれないが、20年も前からヒップホップを積極的に取り入れ、当時のハリウッド映画としては人種的多様性に富んでおり、1作目から見返すことで音楽のトレンドの変遷や、アフリカンアメリカンだけでなくラテン系・アジア系の描かれ方の変化も観て取れる。そして観終わる頃には、“ファミリー”達に強い愛着を感じ、東京のメンバーが戻ってくる展開を心待ちにしている自分がいた。シリーズは残り2作。20年以上付き合ってきてくれたファン達を満足させるサプライズがさらに待ち構えていることだろう。居酒屋でビールも飲めない8月、このシリーズをより深く観てから映画館に行く夏休みはどうだろうか。

『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』|本予告 <2021年8月6日(金)公開>
『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』

■商品情報
オリジナル・サウンドトラック 『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』
2021年7月21日(水)国内盤発売
¥2,200(税込)
ダウンロード/ストリーミングはこちら
【収録楽曲】
1. Fast Lane by Don Toliver, Lil Durk & Latto
2. Lane Switcha (feat. A$AP Rocky, Juicy J & Project Pat) by Skepta & Pop Smoke
3. Hit Em Hard by Offset, Trippie Redd, Kevin Gates, Lil Durk & King Von
4. I Won by Ty Dolla $ign, Jack Harlow & 24kGoldn
5. Rapido by Amenazzy, Farruko, Myke Towers & Rochy RD
6. Breathe (Liam H and Rene LaVice Re-Amp) [feat. RZA] by The Prodigy
7. Real by Justin Quiles, Dalex & Konshens
8. Bussin Bussin by Lil Tecca
9. Furiosa by Anitta
10. Ride Da Night (feat. Polo G & Teejay3k) by Kevin Gates
11. Bushido by Good Gas & JP THE WAVY
12. Speed It Up (feat. Rico Nasty)” by NLE Choppa
13. Mala by Jarina De Marco
14. Exotic Race (feat. Sean Paul & Dixson Waz) by Murc
15. One Shot (feat. Lil Baby) by YoungBoy Never Broke Again*
16. Convertible Burt by Tory Lanez & Kevin Gates*
17. Phantom by Allen Mock & Chow Chow*
* 国内盤ボーナストラック

<店舗別のオリジナル特典>
タワーレコード:バンパーステッカー タワーレコード Ver.
TSUTAYA:バンパーステッカー TSUTAYA Ver.(一部店舗除く)
HMV :バンパーステッカー HMV Ver.
ワンダーグー / 新星堂:バンパーステッカー ワンダーグー / 新星堂 Ver.
楽天 BOOKS:バンパーステッカー 楽天 BOOKS Ver.
劇場特典:バンパーステッカー 劇場 Ver.

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