『D.LEAGUE』特別対談 第3回

BOBBY×神田勘太朗『D.LEAGUE』対談 世界へ向けたプロリーグとして、ダンスを広げる面白さと課題

エンタメとダンスのバランスをどう取るか

ーーまた、レギュラーシーズン中、たびたび指摘されたのが「演出とダンスのバランス」だったと思います。演出に凝って肝心のダンスが疎かになるということでしたが、これについてはいかがですか。

BOBBY:『D.LEAGUE』は普通のコンテストではないので、ただ踊るだけではありません。アンダーグラウンドな大会と同じように審査する方もいますが、僕はもっとエンタメ寄りな場で、演出が薄いとダメだと思っているんです。でも濃すぎると踊りが薄くなるのも確かなので、その帳尻をうまく合わせないといけない。テレビを観ている人は、ダンサーより一般の方が多くて、僕も母親に「あんた、アイドルと同じくらい踊れるの?」とよく言われました(笑)。確かにダンサーから見れば、テレビの中よりも大会などで観るダンスの方がすごいと感じるのですが、『D.LEAGUE』はエンタメとダンスの両方ともプロフェッショナルを目指さなければいけない。

ーー他にコンセプトの立て方で心がけていることはありますか。

BOBBY:どれだけ具体化しているかが大事だと思います。シーズン中、選手から「今回はやらせてくれませんか?」と提案を受けて、3回ほど内容を任せました。例えばROUND.11も選手にやらせたのですが、結果は最下位。でも僕が念入りにやっているショウケースは必ず良い点数が出ているんですよ。僕が「こういうコンセプトで、こういう音で、こういう振り付けで......」と細かく決めるのに対し、メンバーに振ると全員で考えながら決めるんです。結局ひとりの人間、ひとつの頭で決めるとクオリティが高くなるんですよ。舵取りなしに話し合いで作っても、良いものに仕上げるのは難しい。これは自分のダンス人生からも明らかです。ひとりが総合プロデュースしたものに、それぞれが意見を言い合うべきなんですよ。

神田:「ディレクター」というポジションが登場するのはダンス業界で初めてのことだと思うんです。振付師ではなく、総合プロデューサー的な立ち位置ですが、その決定権はチームによって違います。チームの予算管理まで含めてやる人もいれば、そうでない人もいる。BOBBYさんの場合は自分の範囲の定められた部分を受け持ち、それ以外の部分は他のスタッフがやるスタンス。一方でavex ROYALBRATSならRIEHATAが曲から何から自分でやるし、はたまた全てをメンバーに任せるチームもいます。

 1年を終えて「自分が全部を決めた方がいい」という人もいれば「自分は裏に回った方がいい」となる人もいると思うので、2年目で各ディレクターの立ち位置がどうなるのかも楽しみですね。ジャンルや性別も含め、個性的なメンバーを束ねる時に強烈な個性でまとめるのか、協調を選ぶのかはそれぞれですから。

BOBBY:そういうところは観客の皆さんにも知ってほしいですね。

ーーROUND.11の時は、ルールのなかで出来るマジックなどの演出に挑戦されていましたが、規定などについて思うことがあれば教えてください。

BOBBY:「電装を光らせたらいけない」とか、観ているだけでは分からない厳しいルールがたくさんありますよ。他の大会よりも照明設備がしっかりしているのですが、チームから照明に何かを要求することも基本はできません。

神田:オフシーズンのタイミングで、ルールの狙いなどを開示をしていくことは必要だと思っています。『D.LEAGUE』がスポーツなのか、アートなのか、カルチャーなのかという答えを定めるのは時期尚早。ブレイキンは2024年のパリ五輪で正式種目になりますが、ダンスはスポーツ以外の要素もたくさんあるので。それに『D.LEAGUE』にはエンタテインメントも必要になってくる。でも、そのためにテクノロジーを使ったところで「飽き」は必ず来ます。だからサッカーみたいにずっと続いていくためには、光る電飾はない方が良いと判断しました。

ーーなるほど。

神田:また、照明を運営サイドが請け負ってミスを犯してしまった時、企業のブランドやチームの勝敗に対する責任を取ることは難しい。ミスが絶対に起こらないということを100%補償ができないためです。なので基本的に全チームが同じ照明です。ただ「1週間前に音と映像が来れば、ある程度は合わせられますよ」とは説明していました。でも2週間の準備期間では無理だと。では「3日前までなら」と伝えたのですが、それでも間に合わない(笑)。ギリギリ前日か当日でやっと出来るという現状なので、それを踏まえて来年は照明チームを考えないといけませんね。

 カメラワークも公平にするために「ある程度の融通は利く」としています。仮に全部の要望を聞くとなると、当日15分のリハーサルでは不可能。しかも来年は2チーム増えて、余計にリハはタイトになります。でも例えばF1のように自分たちの照明チームを持ち込んでリハーサルを行うというようなレギュレーションが可能となるならば、いずれはそれぞれで照明プランを考えられるかもしれません。ただ、現時点では照明ひとつで勝負が決まるので公平にするしかない。

ーーそうすると、チームの部門がさらに拡大して行く可能性もありますね。

神田:先ほど例に出しましたが、F1も決められたルールの穴を見つけて、マシンをいかに速くするかを追求していて、そこには別の戦いがあるわけですよ。『D.LEAGUE』も各チームがしれっとあの手この手をやってくる(笑)。それがあるごとに他チームの関係者から「神田さん、こういうことが起きています」と言われて、穴を塞いでも塞いでも、そういう事態が止まないから「これは終わらんな」と。

BOBBY:僕らも抜け穴を突いたことがありました。ルールで「小道具を連結してはいけない」というものがあるのですが、ROUND.10の時にスーパーの陳列棚の写真を左右に配置したら「それは同じスーパーだからNG」ということで。そこで「左がスーパーAの陳列棚、右がスーパーBなら別物なので大丈夫」と説明したらOKになった(笑)。

神田:連結できると、小道具ではなく大道具になってしまいますからね。そうなるとネタ勝負になってしまい、本質であるダンスの勝負が薄れてしまう。小道具は「あのチームは大きすぎる」という意見を受けてサイズを決めたのですが、次は高さを出すところが出てきたので「180㎤まで」と規定すると、さらに質量が重いものを持ってくる......と話し出したらキリがないのですが(笑)。

BOBBY:このままだと規制がどんどん増えますよね。

神田:もちろん面白くなってもらいたいので、規制によってショーの幅を狭めたくはありません。ルールは全チームと全ディレクター、運営が理解した上でアップデートしていく余地は常にあります。

BOBBY:ただ、面白いことに、チームのディレクター同士が揉めることは一切ないんですね。文句は運営に言うので。

神田:あれはズルい(笑)。SNSなどでの指摘も読みながら「そういう議論を何十周もしてこれなんです!」と、場を作ってる側としてはやるせない時もあります。これをどうしたらいいのかって常に考えて作っていますね。当然、ダンサーが人気になることが一番の目的ですから。

BOBBY:これから『D.LEAGUE』は世界に向かって行くわけで、世界のダンサー相手に「それはNGだよ」と言っていくのは大変ですよね。

神田:気に病んで仕方ないです(笑)。これまでも基本的にSNSはネガティブな意見が多いのですが、その10倍以上は良いと思っている人がいると信じています。

ーー来年の2ndシーズンに向けて、ますます全世代的に盛り上がっていくでしょうね。

神田:オフシーズンで4カ月近くも空くので、そこでどうなるかも楽しみですね。さらにお客さんも入れられるようになったら、レベルも一気に変わるだろうなと。

BOBBY:それは演る側にとっても重要。こちらは2分15秒の演目のなかで10秒に1回「イェー!」となるポイントを考えて作っているのに、観客の盛り上がりがない。だから感動も、合っているのか間違っているのかも分からない。審査員に評価されるよりも、演者にとってはそれが一番ですから。歓声を聞くと、いくら疲れていてもモチベーションが上がるんですよ。それもないなかで彼らは頑張っていたんですよね。お客さんが入ればもっと楽しくなっていくと思います。

神田:とにかく最初の1年は実験でした。『D.LEAGUE』ってどんなもんだろう? と思ったら、とんでもなかった(笑)。でも1年目を経験したので、2年目はまた幅が広がっていくはずですよ。

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