草なぎ剛が経験によって得た渋み ビンテージへの愛着などを通して考える、憧れの生き方
リアルサウンドでは、これまで様々な角度から“草なぎ剛”という人間について考えてきた。役者として、YouTuberとして、香取慎吾や稲垣吾郎と肩を並べた新しい地図の一人としてーーその時々で見せる“草なぎ剛”は、グループ時代からの延長線上にあるとともに、ネットという好奇心に身を委ねてはいつも新鮮な姿を私たちに見せてきた。そんな真剣と無邪気を同じレールに乗せて走ることができる草なぎは、同性である筆者から見ても憧れを抱くほど、素敵な年の重ね方をしていると感じる。そう、今の草なぎには経験と体験の蓄積による渋さが漂い、それが彼の表現のいたるところに反映されているのだ。
例えば、放送中の大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)で見せる好演。江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜を演じる草なぎだが、その風格と威厳は現在46歳の彼だからこそ持ち合わせることができたものだ。実際の慶喜公が幕府将軍となったのが29歳の頃、草なぎの今の年齢と同じぐらいの時には大政奉還後の謹慎が解け、正二位に叙し、自身の新たな役割を全うするための第一歩を歩み始めた時期である。そこへいたる過程を演じ続ける意味でも、平成〜令和と時代の移り変わりに身を投じてきた経験が、草なぎ演じる今の徳川慶喜には息づいているように見える。
ちなみに、年を重ねた渋みを熟成と言い例えられるとしたら、それはそのまま年代物=“ビンテージ”という言葉に繋げられる。草なぎも若い頃からジーンズや古着などを好み、一朝一夕では得られない時間経過の尊さに魅了されてきた。また、愛用のアコースティックギターにもビンテージにおける強いこだわりを持つ。自身もCM出演しているメルカリのインタビューにてビンテージの魅力のついて聞かれると、「傷がついて、他にはない佇まいになっているところにどうしようもなく惹かれます。新品のギターも魅力的なんですけど、昔のギターのぬくもりとか独特の気配は、他にはない特別な魅力だなと」と答える草なぎ(※1)。独特の気配とは言い得て妙で、そんなビンテージのギターを愛用する彼もまた、年を重ねるごとに独特の気配を身に纏ってきた人だ。きっとその気配は、草なぎがギターを始めるきっかけにもなった大杉漣のように、唯一無二の表現者たる自信へと繋がっていくのではないだろうか。
大杉漣を始め、現在に続く草なぎ剛を形成する上で人との出会いもまた、重要な要素である。公私ともに独自の関係を築いているタモリ、役者としての草なぎに魅了されたつかこうへい、今も『なぎスケ』(Amazon Prime Video)にて互いの少年性を茶化し合っているユースケ・サンタマリア、そして香取、稲垣ら苦楽を共にしてたNAKAMAたち。その誰か一人が欠けたとして、現在の草なぎ剛は存在しえない。あの時あの瞬間、その出会い全てが46年の草なぎの歩みを物語っている。