じん×白神真志朗×ゆーまお、『カゲロウプロジェクト』とそれぞれが捉える10年の変化 ボカロシーンの渦中から見てきたもの

カゲプロに対する評価を受け取るのはまだ先

――2013年にじんさんとTHE BACK HORNの菅波栄純さんの対談をやったことがあったんですけど、その時にじんさんは「自分は小学生や中学生に爆弾を渡している」と言っていたんです。ライブはいわばその起爆装置なんだ、と。

じん:そうですね。

――カゲプロに関しては、その「爆弾を渡した」というのが、すごく大きい気がするんです。白神さんが言った「市民権を得た」もその通りなんですけど、カゲプロの場合は、リブートへの反響を見ていても、一つ一つのコメントがとても熱い。

ゆーまお:最近、カゲプロだったり、ヒトリエに関してもそうですけど、そもそも聴いている、聴いていたという声を伝えられることが、ここ1年半くらい、本当に多くなって。なんだかんだルーツになっている人が多いっていうのは、肌で感じています。

――じんさんもそれは感じていますか?

じん:いや、感じていないですね。こういう言い方をするとひねくれていますけど、それを受け取るのは先だと思っていて。終わっていない感じがあるんです。身一つで始めて、子どもの自分から未来に進もうとなった時に、年上の人や先輩方から認められなかった。まだそれが終わっていないと自分の中では感じています。渦中にいるつもりなんです。それが本当にまがい物だったかどうかを、まだ証明できていない。影響を受けてくれた人がいるのはとても嬉しいことですけど、その意見に感化されてはいけないなって。

――じんさんとしては、カゲロウプロジェクトのこの先についてはどんなふうに考えているでしょうか。

じん:今後に目を向けると、単純に完結させたいというのはあります。時間をかけてものを作っていくことになるんですが、まずはプロジェクトの完遂に徹する。投げっぱなしには絶対にしない。それは今強く思っていることです。内容としては、大きく二つですね。今回まずは「チルドレンレコード」からリブートと掲げたものが始まりましたけど、もちろんこのプロジェクトには物語のほうのリブートもある。さらに言えば、次の新しい展開もある。新曲もありますし、物語としても新しいものがあります。で、お二方が許していただく限りはこのメンバーでやりたい気持ちはあります。もしかしたら50代になってBPM200台のドラムを叩いてもらう可能性もあります。ゆっくりとした発表になっていくとは思いますけど、少なからず僕は前向きですし、自分自身も楽しみにしています。あとは、逆に僕からお二方に、このプロジェクトの音楽をやっていく上でのアイデアというか、こういうことに取り組んでみたいっていうご意見を、ぜひ聞いてみたくて。

――というと?

じん:やっぱり「チルドレンレコード」が非常にいい出来だったと僕は思っていて。新たに挑戦していくものに関しては、今までのやり方を壊していきたいっていうのはあるんですけど。そういうのってどうですか?

白神:やり方っていう意味で言うなら、いろんな可能性が見えてきたなと思ってますね。それこそ、この10年でスタジオにみんなで入ってやることもあれば、今回みたいにオンラインでやることもあったし。あ、合宿はまだしてないか。

じん:合宿したいですね。

ゆーまお:たしかに。

白神:それも一個、面白いかもしれないね。あとは、ベースに限った話で言うなら、今、どこまでやれるのかを改めて確認するような制作になりそうだなって、話を聞いていて思った。いくつになっても限界に挑戦するみたいなスタンスは、もちろんミュージシャンとしてはそうあるべきだと思うし、普通に自分自身としても挑戦していく道だろうなって思うことはあるけど、その中で、音楽家、演奏家っていうものにも、ジャンルや趣向や美学があって。個人的には、今までじんくんの制作で一緒にやらせてもらっている中では、目の前にある課題をいかにその時点で自分が発揮できる最大限で形にできるかばかり考えていたんだけど、でも、フレージングだったりニュアンスだったり音色だったり、全部に選択肢が出てきた気がする。ある意味、ゆーまおや俺は、じんくんと一緒に制作することによって、演奏家としてブランディングされてきた側面があるから。そこで築き上げられてきたものの延長線上に、当然今もいるわけで。その自分が10年たって、この先の新曲でも一緒にやることができるんだとしたら、そこでどういうふうに自分のスタイルとして消化させていくのかを改めて考えてもいいのかもしれないなっていうのは、しみじみと思う。熟成というか。自分自身の意思で選んでいく作業っていうのが、これから先、音楽として磨きをかけていく上で重要になっていくような気が、なんとなくしております。

じん:ありがとうございます。まさにそうなんですよね。今回の「チルドレンレコード」でも、リズム隊の二人のマインドから曲が成り立っていくところがあるなあと思っていて。真志朗さんもゆーまおさんも、毎回新しい提案をしてくれているんですよ。決して過去をなぞろうとしていない。音に関しての考え方はめちゃくちゃ真面目だなって。

ゆーまお:ここから先、もっと外していく音作りを頑張ってしようとするんだと思う。外していくっていうのをわかりやすく言うと、サウンドのディティールを作る上で、今の楽器に感化されること、僕たちがそこに影響を受けることが、結構重要だと自分は思っていて。それを受け入れて立ち向かっていかないとまずいんじゃないかなとは思っています。特にドラムとベースは一番音が変わっていくパートだと思っているので。カゲプロは変わらない、でも変わったっていうのは、そういうところで出していければいいなと僕は思っています。

――たしかに今回のリブートは、発想として以前と全く別の方向性のアレンジをしようというものではないですもんね。たとえばバラードにしたり、打ち込みにしたり、そういうものでは全くない。リメイクというか、リビルドというか、とにかくビルドアップされている感じがしました。

じん:ありがとうございます。自分たちも、結局、もう一回演奏しただけって思われてしまってはいけないというのがあって。だから再戦って感じでしたね。みんな自宅ではあったんですけど、8年ぐらい前の自分たちを倒す覚悟でやるようなレコーディングだった。「チルドレンレコード」という大事な曲を、オリジナルのメンバーで、もう一回「あれより格好いい」と言わせるにはどうすればいいのか。それに対する、ひとつの答えが出せたのかなと思います。

白神:それはある種、ボーカロイドでやっていることの強みがあったかもしれない。たとえば、10年前の曲をバンドがリメイクした時って、たいてい「ボーカルにあの頃のみずみずしさはない」「あの頃のがむしゃらな感じがよかった」とか感じることがあって。でも、ボーカロイドだからそこは変わらなくて。いいところだけプラスの変化を与えることができたというのはあったのかもしれない。

じん:なるほどなあ。あると思いますよ。ギターにしても、今回は指から血が出るぐらい弾こうというマインドではあったので。これからももっと挑戦していきたいですね。

じん『チルドレンレコード(Re:boot)』MV (4/2先行配信開始) / JIN『Children Record(Re:boot)』MV(4/2Digital Release)

■リリース情報
Digital Single「チルドレンレコード(Re:boot)」
配信価格: 255円 ※iTunes Store価格

<収録曲>
M1. チルドレンレコード(Re:boot)
商品詳細:https://jin-jin-suruyo.com/

■じん
1990年10月20日生まれ北海道出身。
作詞家、作曲家、小説家として活動。
2011年より動画サイトへ投稿を開始。 歌詞の世界観がストーリーとリンクした楽曲群「カゲロウプロジェクト」を スタートさせた。 自身が執筆した小説「カゲロウデイズ」シリーズの刊行や、 別視点からの物語を描いた同作のコミックス版を連載。シリーズの関連 書籍 は累計1,500万部、音楽パッケージの累計は70万枚に上る。 アニメ版となる「メカクシティアクターズ」は世界同時配信される等、様々 なメディアを巻き込みながら絶大な支持を集めている。 2018年11月7日に、 カゲロウプロジェクト3rd ALBUM「メカクシティリロード」を発売。 2021年2月17日に自身の活動とカゲロウプロジェクト10周年イヤーに突入。

じん オフィシャルサイト
https://jin-jin-suruyo.com/

じん Twitter
https://twitter.com/jin_jin_suruyo

■白神真志朗
シンガー、ベーシスト、コンポーザー、アレンジャー、レコーディングエンジニア。
美術にも造詣があり、彫刻や絵画、写真などのアートワークも手がける。

自身のバンドを軸に様々な活動を経て、2017年2月初のソロアルバムをリリース。東京に暮らす人々と、その人間関係を描いた作品が好評を博した。
以降活動の軸足をソロへと移し、現在までにミニアルバム2枚、フルアルバム1枚をリリース。

ベーシストとして様々なアーティストのレコーディング、ライブサポートを務めるほか、シンガーやアニメーション作品への楽曲提供や編曲、劇伴制作など、活動は多岐に渡る。

Official web site
http://www.thestellathinkers.com

Twitter
https://twitter.com/TST_Mashiro

Instagram
https://www.instagram.com/mashiro_shirakami/

■ゆーまお(ヒトリエ)
2011年wowaka(vo,g)を中心にイガラシ(b)、ゆーまおにて「ひとりアトリエ」を結成。翌年シノダ(g)が加入し「ヒトリエ」として本格活動を開始。2014年に「センスレス・ワンダー」でメジャーデビュー。
これまでにミニアルバムを含め8作品のオリジナルアルバムを発表。
2021年2月17日にニューアルバム「REAMP」をリリース。
ヒトリエでの活動の他、LiSA、阿部真央、じん、そらる、堀江晶太、三月のパンタシアなどにもドラマーとして参加している。

ヒトリエ オフィシャルサイト
https://www.hitorie.jp/

ゆーまお Twitter
https://twitter.com/_Yumao_

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