『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』リリース記念対談

ピノキオピー特別対談③:ARuFaとの会話から探るアイデアを生み出すモチベーション

 初のベストアルバム『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』をリリースしたピノキオピーが、同作の発売記念として行ってきた対談企画。第1弾は戦友とも言えるDECO*27氏、第2弾には初音ミクの開発者であるクリプトン・フューチャー・メディアの佐々木渉氏をそれぞれ迎え、様々な視点からピノキオピーの音楽、ひいてはボカロシーンについて深く語り合ってもらった。

 そんな対談企画の締め括りを飾るのは、人気ブロガーでありライター、さらには音楽家としての顔も持つARuFa氏が登場。友達同士の何気ない会話のように進んでいったやり取りは、互いが持つ創作する上でのポリシーや、信頼し合える理由にも触れた深い対談となった。(編集部)

ピノキオピー「(ARuFaさんは)瞬時にして『おもしろ』を見つける天才」

ーーピノキオピーさんもARuFaさんも、お互いのことはいつ頃から認識していたのですか?

ピノキオピー:僕がARuFaさんを認識したのは、ライターとしてのARuFaさんではなくニコニコ動画でボカロPとして活動している時のARuFaさんだったんです。声のみでリズムを作って曲にしたり、キッチン用品や身の回りの音だけでブレイクビーツを作るなど、ボカロファンじゃない人が見ても楽しめるようなアイデアで作っているところが印象的で。「この人、何なんだろう?」と思って追いかけていました。

ARuFa:あ! 音楽の方がきっかけで知ってくださったんですね! 僕のことを知ってくれている人って、大体が中学生の頃からやっていたブログ『ARuFaの日記』がきっかけなので驚きました。

ピノキオピー:そのブログももちろん知ってはいたんです。でも、どんな人が書いているのかまではチェックしていなかったんですけど、ボカロ曲を聴いて「あれ? この人って……」と思い改めてチェックしたら同一人物だったのでびっくりしました。

ARuFa:嬉しいですね……。僕もピノキオピーさんの楽曲は、以前からずっと知っていたんですよ。僕が当時所属していた<GINGA>というレーベルのコンピ『0003:a galaxy odyssey』にピノキオピーさんが、「スケベニンゲン」という曲で参加されていて。それがめちゃめちゃカッコよくて「この人誰だ?」となり調べたら、「あれ? ちょっと待って。この人『サイケデリックスマイル』や『ありふれたせかいせいふく』の人だ」と、点と点がつながっていったんです。

ピノキオピー:なので、気がついたら交流が始まってたんですよね。<GINGA>の主宰者・曽根原(僚介)さんの家で会ったり、<GINGA>が主催したARuFaさんのイベントに僕がゲストDJという形で参加したり。僕と鬱Pでコラボした「ゴージャスビッグ対談 feat. 初音ミク」のミュージックビデオも、ARuFaさんに作ってもらいましたよね?

ARuFa:MVとか作ったことなかったんですけど、急に「やってほしい」と言われてビビりました。

ピノキオピー:そうそう、無茶ぶりをしちゃったんだけど……あれ、楽しかったですね。

ARuFa:はい。歌詞に合わせて火を吹いてみたり、母親のピンクのレオタードを着て森で暴れたり。中でも粘液にまみれてダイオウグソクムシのモノマネをしたのは初めての経験だったので良い思い出になりました。そしてその時のやり取りで、この人はすごく自分の感覚に近い人だな、信頼できる! と思ったのを覚えています。

pinocchioP x Utsu-P - Gorgeous Big Conversation feat.Hatsune Miku / ゴージャスビッグ対談 feat. 初音ミク

ピノキオピー:ARuFaさんは、人が「面白い」と思うところに辿り着くスピードが速すぎてびっくりしますね。あと、常に情報収集をしているイメージ。そのMV撮影の時も、途中で立ち寄った中華料理屋の前にあった虎の置物を、パパッと写真に収めていて。「何かに使えるかもしれないから」と言っていたのがすごく印象的でした。人が見逃してしまいそうなモノの中に、瞬時にして「おもしろ」を見つける天才なんでしょうね。

ARuFa:いいですよ。その調子でどんどん僕を褒めてください。そういえばその後にもオーディオコメンタリーを録りましたよね?

ピノキオピー:はい。その「ゴージャスビッグ対談」が収録された、『しぼう』というアルバムの特典DVDを付けたんですけど、そこに参加していただいたんですよね。ずっとベースラインのことだけ語ってもらったりしていました。

ARuFa:とりあえずベースのことを話せば通っぽく聞こえるのでそうしていました。

ーーじゃあ、2018年にリリースしたARuFaさんのキャラソン「こんにちは、ARuFaです。」をピノキオピーさんが作った時は、すでにお互い交流はあったのですね。当時の『ARuFaの日記』(※1)では、そこが初対面のように展開していましたが。

ARuFa:鋭い質問ですね。まるでインタビューみたい(笑)。

ピノキオピー:インタビューですよ。

ARuFa:おっしゃるように、あのブログでピノキオピーさんに登場してもらった時は、すでに何度もお会いしていて仲も良かったんです。でも、そこでいきなり仲良しな感じを出してしまっても読者の方には伝わらないし、身内ノリみたいになるのも嫌だなと。それに、仲良しとはいえ「お仕事」として正式に楽曲提供の依頼をしたのは初めてのことだったんですよね。なので初仕事(≠初対面)のような空気感を出しつつも、実はブログの中で「初めまして」とは一言も言ってないんですよ。

ピノキオピー:「面識がある」とは言ってないけど、ウソもついてないっていう温度感に驚きました。あの記事の撮影も楽しかったですね。ブログでも披露していましたけど、「バケツを被って練習すると、歌が上手くなる」というのをARuFaさんが実践していて。そのバケツをレコーディングスタジオにも持ってきて、実際に被りはじめたときには「この人ヤバいな」と思いました。やっていることに嘘がないというか、真剣にやっていることが結果ヤバくなっているのが素晴らしいですよね。

ARuFa:すみません、今メチャクチャお茶こぼしちゃって聞いてなかったので、もう一回言ってもらっていいですか?

ピノキオピー:二回言うのはしんどいですね。

ARuFa:そうですか。 

ARuFaキャラクターソング「こんにちは、ARuFaです。」

ーー今回ARuFaさんは、ピノキオピーさんのベストアルバムの中で「アップルドットコム」のリミックスを手掛けています。もともとピノキオピーさんは、この曲をどんな気持ちで作ったのですか?

ピノキオピー:「アップルドットコム」は、割と肩の力を抜いて作れた楽曲だったんです。当時、自分が作っていた曲はどれも情報量をモリモリにしていたので、それとは真逆のアプローチをしようと思い、情報量を少なくして、あまり頑張らずに作ってみました。気の赴くまま自由に作ったシャーマニックな歌詞という点で、これはARuFaさんの作風と合うんじゃないかなと。ARuFaさんは、コンポーザーとしてもアヴァンギャルドで本当に面白い人なので、それをそのままリミックスという手法でアプローチしたら、絶対に良くなると思ったのでお願いしました。

ARuFa:光栄ですね。ここ最近は全く曲を書いていなかったんですけど、そんな時に大好きな曲「アップルドットコム」のリミックスをして欲しいというオファーが来て。しかも、ピノキオピーさんの記念すべきベストアルバムに収録されるというので、「プレッシャーがヤバいな」となったのを覚えています。最初は仮病とかで逃げ切れないかなと考えていました。

ピノキオピー:だから返事が遅かったんですね。

ARuFa:はい。でも締め切りが結構先だったので、そこまでずっと仮病を使うと入院してることになっちゃうので無理だなと気付きました。そこでいつもお世話になっているピノキオピーさんだし、自分にとっても「挑戦」じゃないですけど、「頑張ってやってみて、それで無理だったら本当に謝ろう」と意を決してお引き受けした次第です。

ーー実際の作業はどんなふうに行ったのですか?

ARuFa:「アップルドットコム」の歌詞を改めて読んだとき、〈元気はないけど 生きています〉の部分から風邪をひいて寝込んでる人のイメージを感じたんですよね。それを踏まえると、冒頭の〈りんごは赤い 赤くてうまい〉の部分も風邪をひいているゆえの投げやりな思考の歌詞に聞こえました。

 なのでリミックスする時には、ネット構文でいうところの「風邪ひいた時に見る夢」っぽくしたいなと。最初はちょっと暗い感じで始まって、風邪のピークをサビで何度か迎えて、メチャクチャになりながらもだんだん治っていくみたいなイメージで制作しました。

ピノキオピー:風邪を引いて治っていくということで言えば、それこそ僕の「すろぉもぉしょん」という曲の歌詞はまさにそうで。そこともクロスオーバーしているんですよ。始まったことが変化していく、物事が移り変わっていくというのは、自分の中の重要なテーマでもあるし、そういう意味でも「すろぉもぉしょん」は僕にとってすごく重要な楽曲なんです。だけど、まさかARuFaさんが「アップルドットコム」のリミックスでそれを表現してくれるとは思わなかったのでびっくりしました。「つながったな」と。

ARuFa:最初の構想では、風邪を引いた時に見る夢のカオスな雰囲気をもっと出したくて、歌詞を全部入れ替えてみようとも思っていたんですけどね。歌詞を全部ぐちゃぐちゃに入れ替えて、メロディはそのままボーカロイドに歌わせてみたら面白いんじゃないかと。

ピノキオピー:それ、言ってましたね。歌詞メチャクチャのバージョンも聴いてみたかったです(笑)。

ARuFa:実際にやってみたらあまりにも大変すぎて、そこでふと「歌詞って入れ替えちゃダメなのでは?」と思い挫折しました。

ピノキオピー


ーー先ほどピノキオピーさんは、「アップルドットコム」で表現を削ぎ落としていく作業をしたとおっしゃっていましたが、そのことについてもう少し詳しく教えてもらえますか?

ピノキオピー:前回のインタビューで話したことと少し被ってしまうのですが、この曲は時間がない中で作った曲なんですよ。その時に、なるべく自分の負担がかからない方法で、今までやったことがないチャレンジをしようと思った結果、「情報量を削ぎ落とし、歌詞も頑張らずに書く」というテーマに行き着いたんです。結果的に、自分からちょっと離れた楽曲になったというか。無意識下で生まれたような歌詞になって、「これすごくいいな!」と当時思えたんです。

ARuFa:なるほど。

ピノキオピー:ウケようとし過ぎると、自分も相手も冷めちゃうことってあるんですよ。特に長いこと曲作りをしていると、「こうしたらウケるな」というのが分かってきて、それに囚われ過ぎている自分が嫌になるときもある。「アップルドットコム」を作ったことで、そこから脱却したような気がしたというか。「情報量を削ぐ」という選択肢を持つことができたから、僕にとってものすごく重要な曲なんです。

ピノキオピー - アップルドットコム feat. 初音ミク / Apple dot com

(※1)http://arufa.hatenablog.jp/entry/2018/05/21/190000

関連記事