スティング、クラプトンらとの濃密なコラボレートまとめた『デュエッツ』を聴き解く

 スティングーーソウル、ジャズ、レゲエはもちろん、シャンソン、クラシック、アフリカ、中近東各地、各種のアーティストたちとこれほど濃密なコラボレートをし、高い成果を上げてきた人はいない。

 自身がジャズミュージシャンを志し、ロックバンドのメンバーへと転身、そのバンド、ポリス(The Police)がレゲエを重要なキーワードとするなど、原点から多彩な要素を飲み込むアーティスト人生を歩んだ人物だけに、その他流試合のヒストリーをまとめた『デュエッツ』(3月19日リリース)は、スティングのファンだけでなく、良質で多彩な音楽を求める人にとって最高のプレゼントとなっている。

 エリック・クラプトンやハービー・ハンコックのようなロック、ジャズ界を代表する人もいれば、ラッパーやワールドミュージックの大スターまで、アルバム全体で大きなグルーヴを作ってくれるのが気持ちいい。

Melody Gardot & Sting - Little Something (The One Show)

 そんなアルバムはアメリカの女性ジャズシンガー、メロディ・ガルドーとの「リトル・サムシング」から始まる。彼女の5年ぶりのアルバム『サンセット・イン・ザ・ブルー』のCDに収められたラテンタッチの明るいナンバーが、アルバムの最高の導入となっている。続いて飛び出すのが映画『リーサル・ウェポン3』のサントラに使われたクラプトンとの懐かしい「イッツ・プロバブリー・ミー」。次にカナダの女性シンガー、ミレーヌ・ファルメールとのデュエット「ストーレン・カー」を挟みアルジェリアのライ・ミュージックの大スター、シェブ・マミとの「デザート・ローズ」へと続く。「デザート・ローズ」は約20年前のナンバーだが、マミ独特のこぶしとスティングの落ち着いた歌声の混ざり具合が素晴らしい名曲だ。

 クイーンオブヒップホップソウルと称されるメアリー・J.ブライジを始め、イギリスのクレイグ・デイヴィッドや、コンゴ生まれでフランスにて活躍するGIMS、さらにニューヨークを拠点に活動するGASHIといったラッパーたちとの共演など、新しい動きにも目配りの効いた、スティングらしい興味深いトラックが続く。

Sting - Whenever I Say Your Name (Official Music Video) ft. Mary J. Blige

 珍しいところではシャンソン界の大物シャルル・アズナヴールと、彼の60年代のヒットナンバー「恋は一日のように」(原題「(L’Amour C’est Comme Un Jour」)をデュエットしたのが、まずおすすめ。しっとりとしたアズナヴールの歌声に被せるよう丁寧に歌い継ぐスティングのボーカルが自然に混ざり合い、翼を広げるようとしていく後半まで、何度聴いても味わい深い。

 そうした名人芸的なものではフリオ・イグレシアスとの「フラジャイル」もそう。1994年のフリオのアルバム『クレイジー~心の炎』に収められていたもので、作者スティングが自身のアルバム『ナッシング・ライク・ザ・サン』で聴かせたバージョンとは違った曲への光の当て方が妙に新鮮で、それはハービー・ハンコックとの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」にも言える。この誰もが知ってるスタンダード曲に名手二人が新しい魅力を盛り込もうとする姿勢がスリリングだ。

Sting - My Funny Valentine (feat. Herbie Hancock) (Official Audio)

 布袋寅泰とのコラボなどでも知られるイタリアを代表するシンガー、ズッケロと共作した「セプテンバー」は、昨年11月に先行配信された楽曲。同楽曲について「これはパンデミックへの応えとして生まれた曲だ。毎日同じ状態が続いていた時、9月(セプテンバー)には終息し、雨がすべてを洗い流すだろうと思われた」とスティングは語り、イタリアっぽいメロディがあると思い、30年来の友人であるズッケロに共作を申し入れたのだという。コロナ禍の最悪な状況から逃れることへの祈りにも似た二人の歌声は感動的でもある。

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