ヒゲダンにも影響与えたメロデスバンド Children Of Bodom ジャンルの壁を越えて挑んだ、アレキシ・ライホの音楽的功績
名盤『Hate Crew Deathroll』誕生&カバーも積極的に着手
その名も『Hate Crew Deathroll』。2003年リリースの4thアルバムである。これまでジャケットに描かれてきたのは直立した死神だったが、今作では大きく釜をふるって荒ぶる死神の姿が描かれており、アルバムへの堂々とした自信が漲っているようだ。まず、1曲目「Needled 24/7」が大名曲。音速のエレベーターで一気に天まで連れていかれるようなブルータルなイントロ、サビ前にクールダウンする作曲のひと工夫、クリアな音響、目を見張るキーボード&ギターソロの応酬、アレキシにしか書けない美しくて豊かなメロディ天国。暴虐性と芸術美の融合。ここはまさにメロディック・デスメタルが行き着く理想郷のように思えた。ミドルテンポで聴かせる「Angels Don’t Kill」、無敵のライブアンセム「Triple Corpse Hammerblow」「Hate Crew Deathroll」などバリエーションも文句なし。一家に1枚は置いておきたい最強盤の完成となった。フィンランドのアルバムチャートではついに1位を獲得し、日本でも29位にチャートインしている。なお、「Needled 24/7」はアレキシの訃報を受け、2021年1月7日付の日本のバイラルチャートで5位に急浮上している。
この『Hate Crew Deathroll』が偉大なるメロデスの教科書となったのは、チャートの数字が示す通り、それまでメタルを聴いていなかった人にもリーチした作品だからだ。教科書というのはマニアのために存在するものではなく、その教科に入門するために必要なもの。だからこそ、メロディの美しさが極点に達した『Hate Crew Deathroll』は、メタル初心者にとっての「キャッチーな入門盤」として広く受け入れられた作品となった。前作『Follow The Reaper』がメタラーに衝撃を与えたアルバムだとしたら、『Hate Crew Deathroll』は音楽ファン全体に衝撃を与えたアルバムだ。誰が聴いてもデスメタルとしか言えないアグレッシブさに満ちていながらも、「メタルってここまでキャッチーでいいんだ」という新発見。その驚きと感動は、リリースから20年近く経った今でも色褪せないものである。
稀代の名盤を作り上げた後、チルボドは持ち前のメロディを活かしながら、よりヘヴィネスを追求した作品を作り上げていく。5thアルバム『Are You Dead Yet?』(2005年)はジャケットの傾向を変えて、新たな方向性を示した作品となった。テンポを落とし、ビートやリフの一音一音で聴かせるズッシリした「Living Dead Beat」や「Are You Dead Yet」は、2010年代に向けたチルボドの次なる布石となっていく。何より今作が素晴らしかったのは、『Hate Crew Deathroll』でリスナーの間口を広げた後に、コアなメタルファンをも納得させる作品をちゃんと作り上げたことだ。今作を以って、チルボドは一般層からもメタラーからも支持を集める、この世代で無二のメタルバンドになった。そして6thアルバム『Blooddrunk』(2008年)が、フィンランドのチャートで2週連続1位を獲得。カナダやドイツのチャートでもトップ10入り、全英・全米でも悲願のチャートインを果たすなど、ついに商業的成功を手にするのであった。
チルボドがデスメタルの幅を押し広げたもう一つの要因は、積極的なカバーにある。それまでボーナストラックとして収録していた様々なカバー曲をまとめたカバーアルバム『Skeletons In The Closet』が2009年に発売された。SlayerやIron Maidenなどメタル系の選曲も多いが、RamonesやCreedence Clearwater Revivalなどパンクやロックンロール、ケニー・ロジャースのカントリー調なナンバー、そして思わぬハマりぶりを見せたブリトニー・スピアーズに至るまで、ジャンルを超えた楽曲をメタル風にアレンジしてカバー。チルボドの懐の深さとアレンジ力、何よりアレキシ・ライホの純粋な音楽愛がたっぷり詰まった胸打たれる作品である。それ以降も、ケニー・ロギンス、Bananarama、エディ・マーフィなど、幅広くカバーしてメタルとポップスの境界を切り崩していったチルボドは、ポップスフィールドに対してメタルの良さをプレゼンし、その逆の役割も果たすことができた稀有な存在だったのだ。それが中途半端で終わらなかったのは、何よりもメタルバンドとして絶対的な信頼を得られていたから。音楽に境界なんてないからこそメロディック・デスメタルという斬新な音楽は生まれてきたし、その中心に立つチルボドが新しい刺激を求めて絶え間なく作風を刷新していくのは必然のことであった。「メタルバンドだからこれをやったらダメ」なんてことは考えない。やりたいことをやりたいように突き詰め、世界中の音楽ファンを熱狂させることこそ、メタルバンドの真なる姿なのだから。