V系シーンから“ウィズコロナ”の新たなライブは現れるか アルルカンら所属、GOEMON RECORDS密着ドキュメンタリーを見て

 番組内でマキタスポーツが話していたように、V系バンドはまさに旅芸人一座のごとく日本全国をツアーで回り、数多くのライブを行なっている。そのため、ファンもツアーが始まれば日本各地を飛び回り、たくさんのライブに通いつめることで共に思い出を積み重ね、さらにバンドへの思い入れを強める。V系シーンにはそういった狭く深く楽しむコア層のファンが多く、逆に広く浅くのライト層は少ないのが現状だ。そのことが、チケット代の高騰をはじめとする客単価を上げようとする流れや少ないパイの奪い合いなど、シーンが抱える苦しさに繋がっているのだろう。しかし突如配信ライブ黎明期に突入し、世界中から気軽にアクセスが可能になった今は、ライト層のファンを増やすチャンスでもある。

 また、生ライブにおけるノリの制限も前向きに考えるなら、新たな改革のきっかけになりうるのかもしれない。V系のライブ特有のノリは、時代を追うごとに少しずつ変化していくことが面白い文化の一つである。たとえば、同じ手扇子(曲に合わせて両手をひらひらと動かす振り付け)でも10年前と今では全く違う動作になっているし、V系のサブジャンルであるキラキラ系バンドではキラキラリング(光る指輪)が、暴れ系バンドでは拳ヘドバンが生まれたりと、バンドの傾向によっても新しいノリがどんどん生まれている。最近では型にはまったV系特有のノリそのものに異議を唱え、根本を揺るがすようなバンドも現れてきた。もともとV系には型破りなことや新しいことをやったもの勝ちの風潮があり、他ジャンルの音楽をミックスさせることでのイノベーションやカウンターカルチャーを繰り返すことでファンを楽しませてきた。数えきれないほど存在するV系のサブジャンルがその証拠である。危機的状況ではあることには変わりないものの、試行錯誤を繰り返してきたこのシーンでは、“ウィズコロナ”での新たなライブの形を生み出せる可能性は十分あるのではないだろうか。

 個人的にV系はこれからも“メインストリーム”ではなくて良いと思っている。学校や社会に上手く馴染めない不器用な人が、いつでも手を伸ばせる存在であってほしい。そんな愛おしい文化が、どうかこれからもずっと続きますように。そう願ってやまない。

■南 明歩
ヴィジュアル系を聴いて育った平成生まれのライター。埼玉県出身。

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