メジャー1st RP『愛を知らずに魔法は使えない』インタビュー

マカロニえんぴつ はっとりが語る、様々な愛を歌にする意味 「“誰かに何かを伝えたい”というのは愛あっての発想」

はっとりが考える“バンドの強み”と“ロックの定義”

ーーたしかにこの6曲もバラエティに富んでいますね。サウンド面ですごく貪欲だと感じます。

はっとり:はい、1曲の中に2~3曲(分のアイデアが)入ってるような曲もあるので。僕らは作りながらアレンジがどんどん変わっていくんですけど、そのへんは貪欲にいきましたね。妥協なしで。今回はミックスもかなり時間をかけたし。

ーーそしてこの6曲の最初と最後の曲がTVアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の主題歌になっていますね。1曲目の「生きるをする」がそのオープニング曲で、ラストの「mother」はエンディング曲と、アニメと同じような配置になっていますけれども。

はっとり:やっぱりそのために作っているので、オープニング曲で始まってエンディングで終わるというのは、アルバムでも一番しっくり来るんです。で、このEPにテーマがあるとすれば「生きる」とか「自分を探すこと」で……はたまた「死」ということに触れたような瞬間もありました。とくに生きていくことは自分を愛することだという「生きるをする」と人生を旅になぞらえてる「mother」の2曲が、このEPをちゃんと説明してくれている気がしていて。最後にこのメッセージソングがあれば、その間ではサウンド面でも遊べるし。しっかり芯の通った2曲があるという安心感がありましたね。

アニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」オープニング主題歌バージョンPV

ーーそれで全体の背骨ができている気がします。で、ちょっと話がそれるんですが、マカロニえんぴつはこれまでもタイアップの曲をわりと作っていますよね。ただ、とくにロックバンドはタイアップ曲について積極的ではないことも多いじゃないですか。

はっとり:はい、タイアップは今までも何曲かやらせてもらっています。そうですね、それによってイメージがつきますからね。良くも悪くも。

ーータイアップする作品や商品と、自分たちの音楽とのすり合わせに苦慮することもあると思うんです。そこはこのバンドの場合、どうなんですか?

はっとり:そこは……「そつなく何でもこなす」というのがこのバンドのひとつの強みだと思うので。「このジャンルに特化している」というバンドであれば、たしかにタイアップによって自分たちのスタイルが見えなくなってしまう可能性もあるかもしれないですけど。僕は、根本的に……音楽じゃないにしても、人って、自分が思っている自分よりも、他人から見られた姿が本当の自分というか、その人の「らしさ」につながると思うんです。たとえば「マカロニえんぴつらしさ」みたいなものも自分で決めるものじゃないな、と思っていて。だから(タイアップの)お話が来たら、それはありがたいことですよ。期待されたり、お願いされたりしているわけですから、それに応えたいという思いで作っています。そこで「こういう曲調で」「こういう歌詞を入れて」「テンポはこれで」って細かく言われたら、それは作れないし、作りたくないですけど。今までいただいたすべてのタイアップが、「マカロニえんぴつが自由に作ってくれれば」「スウィートポイントが一番発揮できる曲調であればいいです」ということを言ってもらえてるので、のびのびとやらせてもらえてるんですね。だから否定的な感覚はないですし……マクドナルドのタイアップ(「青春と一瞬」)をやった時も、それによって入口が広がって、聴いてくれる人がグッと増えたと考えると、良かったなと。そうやって依頼してくれた側も受けた僕たちも、お互いいい関係になれるタイアップが多かったし、楽しみながらやれていることが大きいんじゃないですか。どうせやるからには楽しんでやりたいし、CMとかであれば、それに絡めてうまくやってやろうと……マクドナルドだったら「ポテトが揚がる音を入れてみよう」とか、そういうことをスタジオでみんなで面白がってやれてるんですよ。

マカロニえんぴつ 「青春と一瞬」MV

ーーなるほど。そこも独特ですよね。

はっとり:ロックバンド然としていないのかもしれないですけどね(笑)。僕、個人としては楽曲提供も好きなので、作家的な視点もあるんです。笑っちゃうようなヘンなアレンジをしても、決めるところは決める。それで歌がエモーショナルだったり、ギターが歪んでれば、僕はロックだと思うし。ロックっていうのは自信を持ってやっていれば、全部ロックになる。ユニコーンみたいなユーモアがあれば、それもロックだと思うし……僕が思うロックは、こういうスタイルですね。

ーーはい。お話を聞いていると、はっとりさんは自分のロック観にかなりのこだわりがあるように思います。様式美とかスタイルではないということですよね。

はっとり:うーん、逆にこだわりがないのかもしれないですけどね。言ってみれば(笑)。こだわりがあれば「俺以外ロックだと認めねえから!」ってなってるから。何だろう……人数感が見えれば。

ーー人数感? どういうことですか。

はっとり:サウンドを聴いた時に、バンドメンバーで頑張って音数を増やそうとしてる、その人数で頑張って盛り上げようとしてる、その感じがロックでいいんですよね。で、僕はユニコ―ンに憧れているから鍵盤がいる5人編成が好きで。鍵盤がいろんな音色を切り替えながらやっているライブが好きなんです。うちの鍵盤も忙しそうにしてるんですけど、その頑張ってるさまはすごくロックだと思いますよ(笑)。強いて「ロックとは」と言えば、それかもしれない。僕らは基本、同期を使わないですしね。自分たちのイメージに到達しようと、みんなで頑張っている感じというか。

ーーすごくアナログ的だし、人間くさい話です。そしてバンドに対するロマンチシズムを感じますね。

はっとり:まあ僕の好きな海外のバンドがそういう音作りをしているんです。JellyfishとかQueenとか、組曲的な作り方をしているバンドってワクワクするじゃないですか。父親がプログレ好きだったのもあって、おもちゃ箱をひっくり返したような……次から次へと展開が増えてってまた戻って、みたいな音楽は好きですね。今回はそれをやっている曲が多いかもしれないです。

ーーそう、それは先ほどの「生きるをする」から、いきなりすごいですものね。歌いだしのところからどんどん新しい展開になっていく曲で。これはどんな発想から作られていったんですか?

マカロニえんぴつ「生きるをする」MV

はっとり:これも(元の展開に)よく戻れたなって思います。最近はスタジオワークで作るスタイルが定着してきてるんです。ワンコーラスはまっとうに作るんですけど、そこで転調する以外の盛り上がり方を探してる時期で。わかりやすく盛り上がるから転調ばかり作りがちなんですけど、そこでどうにかして転調以外で盛り上げたりできないかなと思って、1回(曲のテンションを)落としたり、違う曲に切り替わるとか……。

ーー違う曲になるんですか(笑)。

はっとり:で、また戻ってきた時の心の高揚感ってあるんですよ。「おおー戻ってきた!」みたいな。だから寄り道するのは戻るためです。すべて!(笑)。あとは飽きさせないため。「生きるをする」は、歌の内容とか、あとアニメと同じく、冒険をしてる感じに、結果的になったので。

ーー結果的に、なんですか?

はっとり:そう、結果的にです(笑)。でも感情の機微って一辺倒じゃないじゃないですか。心の不安とか、浮き沈み、青春時代の葛藤……そういうものも、展開がひとつガラッと変わることによって表現できている気がして。最近はその方法にはまってます。

ーーそのくらい1曲の中でダイナミックに変わっていますよね。「溶けない」も途中でプログレ的な展開が思いっきり入っていますが、これらははっとりさんがひとりで作ったデモが発展して作られていくものではないんですか?

はっとり:いや、スタジオでバンドと作っていきました。僕だけで作ったのは、言ってしまえば弾き語りで考えた歌いだしだけですね。僕、昔はデモをこだわって作っていたんですけど、それだとメンバーが介入してくる余地がなくて広がりがないので、この展開もバンドと作ったんです。サビはスタジオで、みんなにコードを弾いてもらいながら作りましたし。この「溶けない」の途中で展開が変わるのは、休憩がてら、スタジオでよくセッションをやるんですけど、ちょっとファンクっぽいカッティングをやっていたら楽しくなっちゃって。「これを放置するのはもったいないから『溶けない』にくっつけてみるのはどうだ?」って話になって。半ば無理やりですよ。でもちゃんと戻れたし、戻れるようにいろいろ変えました。

マカロニえんぴつ「溶けない」MV

ーーそれができるのは、おそらくバンドの状態がいいからですよね。

はっとり:そうですね、きっと。楽しんでやれてるし。僕もメンバーへの信頼感が以前に比べて増してるし。みんなスキルアップしてるし、曲も量産しているので、頼っているところはあると思います。

関連記事