2020.10.21 07:00

aiko、多くの人生と交差する楽曲の届け方　『ハニーメモリー』自身初の先行配信からCDリリースまでの流れを追う

文＝宗像明将

　メジャーデビューから22年、確固たる地位を確立しているaikoが、コロナ禍で新しい活動スタイルを提示しようとしている。それを浮き彫りにしたのが、2020年10月21日に発売されるニューシングル『ハニーメモリー』だ。2月26日に発売された『青空』以来のシングルであり、緊急事態宣言以降、初のリリース作品でもある。

　「ハニーメモリー」は、10月9日に各ダウンロードサービスやストリーミングサービスで先行配信が開始された。2月26日にはデビューからの全414曲を一挙サブスク解禁して話題を集めたaikoだが、「ハニーメモリー」でのサブスク先行配信は初の試みだ。執筆時点で、すでにSpotifyだけで18万回以上も「ハニーメモリー」は再生されている。また、サブスク先行配信と同じ10月9日にはYouTubeで「ハニーメモリー」のMVも公開された。

aiko-『ハニーメモリー』music video

　そして、10月17日にはaikoのオンラインライブ『Love Like Rock～別枠ちゃんvol.2～』も配信された。これは、3月8日に配信された初のオンラインライブに続くもの。アリーナ公演を彷彿とさせる豪華なセットと照明のもと、バンドメンバーが円状にaikoを囲むなか、aikoが自在に動きながら歌う。「玉響バージョン」と称された「夢見る隙間」では、ジャズシンガーとしてのaikoを見ているかのようだった。そして、このライブでも新曲「ハニーメモリー」が披露された。オンラインライブの最後は「約束」。〈いつかまた違える日が来るでしょう／その日まで必ず元気でいてね〉という歌詞は、現在のaikoメッセージそのものだろう。

　こうしたaikoのインターネット上での活動を紹介していくと、オンライン優先のように見えるかもしれないが、それは正しくない。10月9日には、『めざましテレビ』（フジテレビ系）と『ZIP!』（日本テレビ系）で「ハニーメモリー」のMVがいち早く公開され、10月16日の『ミュージックステーション』（テレビ朝日系）でも「ハニーメモリー」が歌われた。

　なにより、CDのフィジカルパッケージへのこだわりはaikoらしい。これまでも様々な色合いが用意されてきたCDケースだが、今回は初回限定仕様盤のケースの色味が黄色。CDの盤面も黄色なので、CD自体とケースがひとつのアートワークとして機能している。それに対して、通常仕様盤のケースは透明。CDを外すと、柔らかなほほえみを浮かべたaikoと対面する趣向になっている。

　また、初回限定仕様盤も通常仕様盤も、歌詞カードは写真集のような趣きだ。両方あわせてひとつの作品のようにも感じられる。

　付け加えるならば、CDの帯にまでこだわりがある。かたや透明のフィルム仕様、かたやコーティングされた紙仕様。こうした細部まで意識されている「作品」なのだ。

　自粛中に書かれたという「ハニーメモリー」で、aikoは〈今年の桜は誰と見たの／最近はおとなしく家に帰ってるよ／君がいないと味がしないんだ〉と歌う。ラブソングではあるが、同時にコロナ禍での失われた春や、日々の孤独をもイメージさせる。aikoが同じ時代、同じ日常を生きていることを感じさせるのだ。

　インターネットを介したYouTubeやサブスクでも、インターネットを介さないCDやテレビでも、私たちは「ハニーメモリー」に触れることができる。多くのファンの人生と交差するaikoだからこそ、『ハニーメモリー』というシングルにはさまざまなプラットフォームが用意されている。なにより、どんな形で聴いても胸を打つ強度を誇るのが「ハニーメモリー」という楽曲なのだ。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■配信情報
aiko「ハニーメモリー」
10月9日（金）配信
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