連載「EXILE MUSIC HISTORY」第1回:D.O.I.
EXILE MAKIDAI 新連載「EXILE MUSIC HISTORY」第1回:サウンドエンジニア D.O.I.と振り返る、EXILEサウンドの進化
オマージュにならないと楽しくない
MAKIDAI:ちなみに「今こんな感じの曲作ったら、ヒットするんじゃないか?」という予測はありますか?
D.O.I.:やっぱりトラップは避けられないな、という意識はあります。日本が世界のトレンドと乖離している印象があるのは、国内の音楽にトラップの要素が少ないからだと思うんですよ。ここ10年くらいは「トラップばかりで飽きた」と言われながらも、その影響下に全員いますから。80’sっぽいザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」もサブベースの使い方はトラップから来てます。あれが無かったら、ただの懐古主義に陥るはずです。80’sを聴いたことがある人が作ると、そのまんまになっちゃう恐れが非常に高い。オマージュにならないと、楽しくないですよね。
MAKIDAI:確かに。少し前の90’sっぽい曲でも、実際にはリアルタイムで通ってない20代の子が今の解釈で作っていたりして。懐かしいだけではなく、そこに新しい何かが入ることで、今の音として成立している。あとは機材も進化して作りやすくなった面もあるのかなと。
D.O.I.:90年代はダメな音を一生懸命、EQとかで作りこんで「やっとここまで来ました」という感じだったと思います。それが現在のサンプルのライブラリーになっている上で、今の子たちは「じゃあ何やろうか?」なんですよ。どんどん進化していきますよね。
MAKIDAI:機材の進化と作り手の進化がお互いに刺激し合って、ということですか。
D.O.I.:「音楽の進化の歴史は機材の進歩の歴史だ」とも言われます。50年代はエレキギター、80年代はシンセサイザー、90年代はサンプラー。新しいものが発明された時に、音楽の変革と言えるような大きな変化が訪れるんです。最近ではパソコンとDAWが安い値段で買えることが、EDMやダブステップなどの全く新しい音楽が生まれる要因になったのかもしれません。ものすごくお金をかけたものと似たことがPC1台でできるのは、革命的だったと思います。
仕事で嫌な思いは全然してない
MAKIDAI:今後オンラインでのライブが増えていく中で、家庭でも臨場感あるスピーカーの需要が増すなどの変化はあると思いますか。
D.O.I.:一般的な方の需要としては、イヤフォンの方が段違いに進化していると思います。ヘッドホンではなくイヤフォンですね。日進月歩っていうか、進化があからさまにわかりますから。
MAKIDAI:D.O.I.さんのオススメするイヤホンはありますか?
D.O.I.:ゼンハイザーの「MOMENTUM True Wireless」が普通に聴くには良いのですが、僕が一番使っているのはAppleのAir Pods Pro。あれの良さは外音の取り込みで、付けっぱなしでコンビニに行ってもちゃんと会話も聞こえるから、全く気になりませんよ。いつかは眼鏡をかけるみたいな感覚で、起きたらイヤフォンをつける生活が訪れるかもしれません。
MAKIDAI:色々な環境に対応できるイヤフォンは、需要が増えそうですね。D.O.I.さんが商品開発に関わったら、すごい製品ができそうです。
D.O.I.:今は名のあるメーカーはイヤフォンでも、ほぼほぼ中国製のOEMみたいですね。やっぱり中国の技術が進んでいて、展示会は争奪戦みたいです。それが取れないと超早いスパンで新しくなっちゃうので。もしかしたら今言った製品が、あと半年や1年したら全然ダメだねと言われる可能性すらあります。
MAKIDAI:ではD.O.I.さんが思う、最高の音楽を聴ける環境というのはどこになりますか?
D.O.I.:このスタジオですね。
MAKIDAI:やっぱり、そうなりますか。
D.O.I.:実は最初はスタジオを作りたいというよりも「ムジークエレクトロニク・ガイザイン」のスピーカーを置きたい、というところから始まったんです(笑)。買ったはいいけど、置いたり鳴らしたりするには、スタジオを作るしかないと。計画性が無くて、後で考えようみたいな。ぶっちゃけスタジオ作った後、中学生並みの銀行口座になりましたからね(笑)。
MAKIDAI:感覚で行けちゃってるからすごいですよね。
D.O.I.:行けてないところもありますよ(笑)。スタジオ作らなきゃと思って銀行に行った時は、事業計画書も持たず短パンとキャップで行って「すいません、2000万ぐらい借りることできますか?」って(笑)。何の材料もなく、いきなりお金貸せって。普通そんな人には貸さないですよ。
MAKIDAI:でも実際に形になって愛着もあるんじゃないですか?
D.O.I.:完成した時は嬉しかったです。ただスタジオは1回作ってしまうと、リカバーが本当に難しいんですよ。どこか直せばすぐ直るってものではなく、全部のバランスなんです。だから、「これが悪かったらどうしよう、何千万もかけちゃった」と、内心とても怖かったです。
MAKIDAI:うわ、怖い!
D.O.I.:恐る恐るドクター・ドレーを聴いたら、完璧な音が鳴っていて。「でもちょっと待てよ。ダメだと思ってる音源も聴こう」と。そうしたら、「ちゃんとダメな音が鳴っている!」みたいな感じでした(笑)。あまりに自分が思い描いていた通りの音だったので、夢中でずっと聴いてたら4時間ぐらい経っていて、その日あった雑誌の取材をすっ飛ばしてしまいました。あの時は申し訳なかったです(笑)。
MAKIDAI:すごく良いエピソードですね。世に出ている多くの作品が、この場所で生まれていると考えると感慨深いですし、僕らの作品も手がけていただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
D.O.I.:いえいえ、こちらこそです。この仕事は基本的には営業をしたり「やらせてください」と自分からお願いすることはありません。「あの人はこういうのが得意だよ」と、誰かからの紹介で来てくれます。だから、仕事で嫌な思いは全然してないんです。みなさん、自分の仕事を理解した上で依頼してくださいます。それが一番、生きていて幸せなことだと感じています。
MAKIDAI:改めてゆっくりお話する機会をいただけて勉強になりました。まるで聖地でお話ししているような気持ちです(笑)。D.O.I.さんの作る音はもちろん、ご自身の雰囲気は僕にとって大きな安心感があるんですよ。これからも「あの曲をD.O.I.さんにお願いした」という思い出を作っていきたいです。ありがとうございました。
D.O.I.:こちらこそ、ありがとうございました。