『SKY-HI’s THE BEST』インタビュー
SKY-HIが語る、アーティストとしての充実と渇望の日々 インディーズ~現在、新事務所&レーベル設立の舞台裏も
『TRICKSTER』〜『カタルシス』で湧き出た歌詞への葛藤
ーーそして2014年3月にメジャー第1弾アルバム『TRICKSTER』をリリース。1stシングル『愛ブルーム』を含め、J-POPユーザーに対するアプローチは意識していました?
SKY-HI:それは明確にありました。いろいろ迷いながら制作していたアルバムだし、そのぶん、散らかった印象になったのは反省点ですね(笑)。そうなった理由は、ポップスとしてのキャッチーな部分、音楽的な精度を高めることのバランスですね。それが上手くできてる曲、できてない曲があるっていう。あと、アルバム全体を構築できていない。ガムシャラに単曲を作っていく作業だったし、全体像を作り上げるところまでは届かなかったので。もう一つのポイントはJ-POPとの距離感なんですけど、『愛ブルーム』が出来るちょっと前の段階で、シングルの候補としてストイックなラップチューンを作っていたんです。(1stシングルの収録曲)「RULE」なんですが、その後、「Blanket」みたいなポップスとしての強度を孕んだ曲を作るなかで、「こっちのほうが楽曲としては面白いな」という感覚があって。「RULE」を最初のシングルとして出すことに微妙な危機感もあったし、もっとポップに寄った曲がいいと思って、急遽作ったのが「愛ブルーム」で。そうやって融通が効く状態でメジャー1stを制作できたのは、当時のスタッフといい関係を築けていたんだと思います。
ーー「愛ブルーム」に対する手ごたえもあった?
SKY-HI:ありましたね。「これは自分にしか作れないポップスだし、ちょっと面白いぞと思って」。しっかりとポップスを作ることに向き合うことが、いちばん豊かな気がしたんですよ、そのときは。それをやっておかないと、今後、その部分がずっと伸びなくなる恐れもあったし。あと、2010年代前半は曲を届けるルートが決まっていた時代ですからね。FMのパワープレイとか、雑誌に出させてもらうことで少しずつ注目度を高めて、テレビに扱ってもらうっていう。ルートが決まってるのはいいことばかりではないけど、「愛ブルーム」を出したことで、挑戦する切符が手に入ったのかなと。AKLOやSALUが自分と同じタイミングで1stアルバムを出したことも意識してましたね。二人と近いことをやりたくなかったし、比較されないことをやらないと幸せな未来がないだろうなって。
ーーいろいろなバランスの上で成り立っていたアルバムなんですね。楽曲のクオリティに関しては、どう感じてますか?
SKY-HI:初めてアレンジャーを入れて制作したんですけど、ぶっちゃけ、あれくらいのクオリティだったら自分で作らなくちゃダメですね(笑)。そのときのアレンジャーの方々は素晴らしかったんですけど、自分で作ったデモのクオリティの低さはわかってるし、もうちょっと高めないと。ただ、意外と今回のベストに入ってる曲も多いんですよ。「Diary」「Blanket」「愛ブルーム」「TOKYO SPOTLIGHT」「Tyrant Island」とか。なので、片鱗くらいはあったんだと思います(笑)。制作の決定権がこっちにあり過ぎたのかもしれないですね、もしかしたら。同じ感覚でディスカッションできる人がまわりにいなかったというか、「このシングルは届くかどうか」とか「ロックフェスに出るために、これをやろう」みたいなことを話せる人もいたし、導いてくれるメンターもいたんだけど、制作のクオリティに関して、きっちり話せる人が少なかったから。ビートメイクとかアレンジとか、ちょっとイジったら名盤になった気がしますね、『TRICKSTER』は。惜しいアルバムです(笑)。ただ、「トリックスター」という曲を聴いてラップをはじめた“さなり”が、いい感じに活動しているのを見てると、結果としては良かったんじゃないかとも思う。
ーー『TRICKSTER』のリリース後、日高さんは「歌詞の力を上げたい」というコメントを残していて。
SKY-HI:ああ、はい。
ーーその試行錯誤が2ndシングル曲「スマイルドロップ」に結実し、代表曲の一つである「カミツレベルベット」につながり、さらに2ndアルバム『カタルシス』(2016年1月)に至ったということも言えると思うのですが。
SKY-HI:確かに。それはまったくその通りだと思います。『TRICKSTER』のときに感じた「もうちょっと」というクリエイティビティを本気で身につけようとして、もがいていた時期だったんだろうなと。その中心にあったのがおそらく、歌詞の力を上げることだったんだと思います。1stアルバムでも、(歌詞のなかで)いいことを言おうとしてるんだけど、言い得ているかというと微妙で。源泉はあるのに、それを伝えるスキルがなかったんですよね。たとえば「愛ブルーム」にしても、“ギスギスした世の中で、それでも君は美しい”と伝えるのに〈アスファルトされた街中で君だけが柔らかくて〉という歌詞を書いたのはいいなって思うし、才能はありそうだなって感じです(笑)。
「フリージア」は自分自身を象徴する曲
ーー具体的にはどういう方法で歌詞をレベルアップさせたんですか?
SKY-HI:具体的には覚えてないですけど、「スマイルドロップ」をメチャクチャ書き直したのは確かで。「スマイルドロップ」は今聴いても、「いい歌詞が書けたな」と思うし、歌い方もなかなか良くて。よくがんばった(笑)。歌詞だけじゃなくて、メロディ、トップライン、フロウ、曲全体のクリエイションが上がったんだと思います。「愛ブルーム」もあったものが、「スマイルドロップ」に明確に生きてるのも良かったなと。
ーーつながっているわけですね、そこは。日高さんとしては当然、自分自身の価値観や生き方、社会に対するメッセージを込めたいという思いもあっただろうし。
SKY-HI:ポップでキャッチ―で中身がなければ、「なんだよそれ」じゃないですか(笑)。ポップなものをやるのであれば、中身の強さがないと続けられないし、自分で自分のことを嫌いになってしまうので。まったく中身のないパーティーソングなんて無理すぎるし、当時は特に日本人に日本語で刺すことを絶対にしなくてはならないと思っていたので、当時は特に日本人に日本語で刺すことを絶対にしなくてはならないと思っていたので、サビで英語を使わないことにもこだわってましたね。「カミツレベルベット」の頭の部分もそうだし。
ーー〈単純な事ほど難解だ/正解があれば苦労しないさ〉ですね。ベストアルバムにも『カタルシス』の楽曲が多く選ばれていて。「POPS BEST」の1曲目「カミツレベルベット 2020」、「RAP BEST」の1曲目「フリージア ~Original~」がどちらも『カタルシス』の収録曲っていう。
SKY-HI:あ、ホントだ。ベストアルバムを「POPS BEST」「RAP BEST」に分けることーー結局「COLLABORATION BEST」を含む3枚組になりましたけどーー「RAP BEST」の1曲目を「フリージア」のオリジナルバージョンにすることは4、5年前から決めていたんです。
ーー「フリージア」が特別な曲であるポイントって、どこにあるんですか?
SKY-HI:「フリージア」がなぜ特別か、ですか? 自分自身を象徴する曲だと思うし、一文字一文字、全てのフロウが特別というか、狙いとか計算が一切ない曲なんですよ。逆に「カミツレベルベット」は、狙いや計算の果てに出来た曲なんです。自分史上、いちばんポップなものを作ろうと思ったので。
ーーなるほど。
SKY-HI:「スマイルドロップ」もポップに振り切っていて。「自分はこういう曲を作れる人間にならないといけない」という天啓があったというか。「スマイルドロップ」を作り上げたことで体が出来て、それを活かしたのが「カミツレベルベット」だったんです。逆に言うと「これよりもポップになることはない」というラインでもあるんですよ、「カミツレベルベット」は。これ以上ポップになると、自分の作品ではなくなる気がして。そういう意味では、「フリージア」と「カミツレベルベット」は両極端だし、だからこそベストアルバムでも両方1曲目になったんでしょうね。