『1限目モダン』インタビュー
レトロな少女、1stアルバム『1限目モダン』の懐かしさと新しさ 相対性理論に影響受けた2人ならではの“日常の見つめ方”
サブカルチャーという言葉がある種形骸化してしまった2019年に結成された男女ユニット、レトロな少女。作詞作曲編曲の成山まこと、ボーカルの佐藤餓死によるサウンドや言葉選びは、相対性理論から多大な影響を受けている。どこか懐かしさを感じるポイントが多いが、すべての楽曲を成山が打ち込みを中心に制作し、ほぼすべての曲をMVで公開しているところは現代らしいやり方だ。東京の地名などが歌詞に盛り込まれているのも特徴的で、じわじわと気になってくる。1stアルバム『1限目モダン』を本日9月9日にリリースするタイミングで、謎多き2人に渋谷でインタビューを行った。(西澤裕郎)
「集団行動のライブを観ていたら、『音楽やりたい......』と思った」(成山)
ーーレトロな少女は、相対性理論の影響をかなり色濃く受けていますよね。
成山まこと(以下、成山):隠すことでもないんですけど、2人とも相対性理論が大好きでございまして。ただ、やくしまる(えつこ)派と真部(脩一)派で違うんですよ(笑)。僕は真部派で。
佐藤餓死(以下、佐藤):私はまるえつ派なんですけど、それぞれ違う部分が好きだから、うまくバランスがとれているのかもしれないです。
ーーそもそも成山さんが、音楽アプリで佐藤さんの歌声を聴いてボーカルのオファーをされたそうですね。
佐藤:私が「nana」っていう音楽アプリで相対性理論のカバーを歌っていたんです。いいね機能みたいなもので成山からリアクションをもらって、ページに飛んでみたらオリジナル曲を出していて。相対性理論っぽさもあって好きだなと思いカバーしたら「ボーカルやりませんか?」という連絡がきたんです。
成山:もともと、いろいろなところでボーカルを探していたんですよ。でもいまいちぴったりくる人がいなくて。僕の好きな音楽とやりたい音楽にマッチする人はどこにいるんだろうと考えたとき、相対性理論を歌っている人が一番早いんじゃないかと思い、カラオケアプリで検索をかけて、ひたすらいいねを押しまくるというマーケティングをしていたんです(笑)。実は、レトロな少女として歌ってもらったのは彼女が5人目なんです。
ーーレトロな少女では、成山さんが作詞・作曲・編曲まで行っていますが、楽曲制作をやり始めたきっかけは何だったんですか?
成山:TM NETWORKの「Get Wild」をたまたまYouTubeで聴いたとき、すごく良いメロディだと思って自分で弾いてみたいと思ったんです。家に安いキーボードがあったので、トゥントゥントゥンって耳コピしてみたらメロディを弾けて。記録して再生してみたい気持ちが出てきて、フリーソフトを落として記録させたら、音が足りないなと思って足していくようになって。その過程で、自分でも音楽が作れるじゃんと思うようになって始めたんです。
ーーなかなかおもしろいきっかけですね。
成山:高校時代にはDTMで曲を書いていたんですけど、このままだと僕はダメな人生を歩んじゃうんじゃないかと思い、大学では体育会系の部活に入ってゴリゴリ上下関係の中で部活動をやっていたんです。部活を引退した2018年9月、ひょんなことから集団行動のライブに行って観ていたら、「あ、音楽やりたい......」と思い、急いでCubase立ち上げて再びやり始めるようになったんです。
ーー相対性理論の他には、どんな音楽に影響を受けたんでしょう。
成山:中学時代はヴィジュアル系バンドをすごく聴いていました。彩冷えるというバンドや、LUNA SEA、Plastic Treeを聴いたり、さっき言ったTM NETWORK、T.M.Revolution、浅倉大介さん、小室哲哉さんなんかは作曲家として好きですね。あとは、真部脩一さんが本当に好きなんです。
ーー餓死さんが影響を受けた音楽は?
佐藤:私はインディーズバンドが好きで、めっちゃライブにも行きます。例えばハヌマーンとかART-SCHOOL、Syrup16gとかも好きです。女性歌手も好きで、椎名林檎さん、宇多田ヒカルさん、大塚愛さん、Coccoさんとか、globeも好きです。そこも2人で意気投合するところで。今の70代、80代が聴く演歌とか歌謡曲もすごく好きなので、いろいろなルーツがありますね。
ーーちなみに音楽以外の趣味はありますか?
佐藤:強いて言えば、ネットサーフィンと読書みたいな感じですね。日本文学が好きで、大学もそういう学部に通っていました。安部公房と江國香織の2人が好き。あとは室生犀星とか、いろいろ読んでいます。
「もはやサブカルはメジャージャンル」(佐藤)
ーー佐藤餓死という名前はとてもインパクトがありますが、どういう由来があるんでしょう?
佐藤:もともと活動しようと思ってつけた名前じゃなくて、SNSで友達とだけやりとりする鍵垢を作ろうと思って。お砂糖でできた砂糖菓子を名前っぽくもじったら、サブカル層に受けそうだなと思って、ニヤッ、クスッてする名前にしようと思いました(笑)。“死”って入ると、大体サブカル好きな人はハマるから(笑)。
ーーサブカルをなんだと思っているんですか(笑)。でもたしかに90年代~00年代と比較すると、サブカルという言葉が形骸化しているなとも思います。
佐藤:私もそれは同感で、もはやサブカルはメジャージャンルというか。「エモい」と一緒ぐらい軽い感じに思っていますね。そんな感じで飽和している状況ではあるんですけど、2人のサブカル追求みたいな感じで、私はレトロな少女をやっています。
成山:僕は端的に言うと、サブカルって「B級グルメ愛着症候群」みたいなことだと思うんです。分かります?
佐藤:全然分からない(笑)。
成山:例えば、ミシュランで星をとるようなフランス料理は、音楽で言うとメジャーバンドだったりクラシックだったりすると思うんです。一方で、B級グルメ選手権に出ているお好み焼きとか唐揚げを好きな気持ちもあるじゃないですか。それがサブカルなのかなという感覚。中津からあげがB級グルメからメジャーになることもあるわけですよ。そういう感じでおもしろいサブカルがないかなってガチャガチャ探すのはすごく楽しいですけどね。
ーーレトロな少女という名前は、どのようにしてつけられたんですか?
成山:自分が音楽をやると決めたとき、何が好きなのか突き詰めて考えたんです。僕は真部脩一さんのメロディが好きで、それはメロディに感じる懐かしさ、そして新しさだと思ったんです。懐かしいということを短い言葉で表現しようと思った時に、レトロって言葉はおしゃれだし、いいなと思ったんですよね。それにくっつける単語として女性ボーカルの音楽をやりたいと思っていたことと、学校の映像が浮かびまして。それで少女という単語がマッチするんじゃないかと思ってつけました。
ーーデビューアルバム『1限目モダン』に収録されている曲はすべて、MVとして発表されている楽曲がベースになっています。それ以外の曲もYouTubeにあがっていますが、どうやってアルバムに入れる楽曲を選んだんですか?
佐藤:2人で入れたい曲を出し合って、「これは絶対入れたい」「これは別に入れんでもいいかな」みたいなのを分けていって。結果、学校モチーフの曲が多くなりましたね。
成山:歌詞を見ていただくと分かるんですけど、どれも学生的な要素が強いんです。「西八行き最終バス」は、僕の通っていた大学が多摩にあって、西八王子に馴染みがあるからで。
ーーかなり成山さんの色が楽曲に反映されているわけですが、それを歌う佐藤さんはどのようなことを楽曲から感じていますか。
佐藤:日常で女性しか使わないであろう単語を織り交ぜていたりしているので、自分にとって馴染みやすい言葉が多いなと思っていて。「いつかのマキシマイザー」っていう曲の“マキシマイザー”ってわかりますか?
ーーわからないです……。
佐藤:マキシマイザーっていう化粧品があるんです。男性は普段使わない言葉じゃないですか? まだ発表してない曲には、“イエベ”とか“ブルベ”っていう単語が入っていて。人によって「この色が似合います」っていうパーソナルカラーがあるんですけどーー。
成山:あなたは“ブルベ”だもんね。
佐藤:私、たぶんブルベです。イエベ春、ブルベ夏、イエベ秋、ブルベ冬みたいに季節ごとに分けられるんですけど、そういうのを(成山は)知っているんですよ。そういう部分も含めて歌いやすいし、馴染みやすい。もしかしたら女性が経験したことがあるかもしれない内容が多いので、私も歌っていて、「あー分かるわ」って思ったりします。ちょっとひねくれている女性みたいな感じの歌詞が多いですね。
ーーどうして成山さんの歌詞に、女性的な部分が反映されていると思います?
佐藤:本人がそういうのに憧れているのかな? ちょっとひねくれていて、サブカルを愛しているけど、サブカルに寄りきれないーー中途半端な女性が多い気がします。でも、なんかおしゃまですみたいな。私もそういうのが好きなので、歌いやすいですね。