安室奈美恵、浜崎あゆみ、西野カナ……ティーンに支持されるアーティストの時流 安斉かれんブレイクから考える“歌姫の系譜”

 そして、00年代後半になると、今度は西野カナや加藤ミリヤが“新世代歌姫”として注目されるようになる。様々な要因が考えられるが、その一つにはケータイの急激な浸透が関係しているのではないだろうか。ケータイを手にしたティーンは、「mixi」をはじめとするSNSやブログを通じて情報を仕入れるようになった。テレビで特集されるような分かりやすく流行っているものに限らず、世界中の個性的な仲間からあらゆる情報が手に入るため、一見タイプの違う西野と加藤が同時期にティーンから支持を受けたともいえる。しかし何より、二人がティーンのカリスマになり得た理由は、ケータイ文化を取り入れたリアルな恋心を描いた歌詞が若者の心を捉えたからだろう。西野カナの「会いたくて 会いたくて」や加藤ミリアの「SAYONARA ベイベー」などは、失恋ソングブームの火付け役になった。〈もう一度聴かせて嘘でも/あの日のように“好きだよ”って…〉〈SAYONARAベイベー すごくツライ〉。二人の歌詞は、実際に意中の相手や恋人に語りかけるような言葉、そして携帯小説やブログにティーンが自分の思いを吐露する文字に近いからこそ、自分の辛い気持ちを代弁してくれるような西野や加藤の楽曲に惹かれたのかもしれない。

西野カナ 『会いたくて 会いたくて(short ver.)』
加藤ミリヤ 『SAYONARAベイベー』

 さらに現代に近づくと、ティーンが好む音楽のジャンルはより細分化され、誰かと好きなものを共有するのではなく、自分のキャラクター性や生き方に合ったものをセレクトする“個”の時代に突入する。もちろんその時々で“バズる”曲はあるものの、ものすごい勢いで消費されていく時代だ。ライブに足を運ばなくても、スマホの画面でいつでも好きなアーティストの歌やパフォーマンスを堪能できる。スマホの誕生により、画面の向こうにいる誰かの私生活や思考にアクセスできるようにもなった。これまで手の届かない存在だったアーティストは、良くも悪くも身近な存在になったと言えるだろう。さらに、芸能界への入り口も変化し、TikTokやInstagramを通じてそれまで普通のティーンだった子がブレイクすることも。そんな時代の中で、あゆと同様に松浦の手で育てられ、ポストミレニアルギャル=次世代ギャルとして頭角を現した安斉かれんは稀有な存在だ。その美しさからドラマ出演前は、CG説も出るほど。謎めいた存在としてデビューしたことや、「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」で描く劣等感を乗り越えようとする強気な歌詞。一方で、バラエティで惜しみなく視聴者に素顔を見せる“親しみやすさ”。それらすべてが安室奈美恵、浜崎あゆみ、加藤ミリヤ、西野カナが紡いできた歌姫の系譜を思わせる。

 令和に突入し、長い間ポストが空いている歌姫の座に名乗り出た安斉かれん。ドラマを通じて、あゆからバトンを受け取った彼女はティーンを巻き込んで“令和の歌姫”と呼ばれる存在となっていくのか。何かと話題が尽きない彼女の存在から目が離せない。

安斉かれん / 僕らは強くなれる。

※記事掲載時、一部内容に誤りがございました。訂正してお詫び申し上げます。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter:@bonoborico

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