2ndアルバム『JUGEM』インタビュー

嘘とカメレオンが語る、『JUGEM』で打ち出せたジャンルレスな音楽性 「いきたいところにひとつ到達できた」

 嘘とカメレオンの2ndアルバムが完成した。毎作意味深な、小説や映画のようなタイトルを冠している彼らだが、今回のタイトルは『JUGEM』。落語の「寿限無」や早口言葉を思い浮かべる人も、あるいは異国の言葉の響きのように感じる人もいるだろう。口当たりよくポップでいて、でもどこか不可思議な呪文のように耳について離れないこの感じは、嘘とカメレオン・サウンドをよく表しているように思う。

 今回のアルバムはとくに、彼ら独自の反骨心や攻撃性、理知的な毒っぽさが、より衝動的でプリミティブに表された楽曲もあれば、ポップでキャッチーに昇華された曲も多い。これが自分たち。だから自由に受け取ればいい。そんなふうに強いかたまりとしてここにある感覚だ。今作へは、どう向かっていったのか、今回はメンバー全員に制作について話を聞いた。(吉羽さおり)

初めて初期衝動が出た盤(渡辺壮亮)

ーー『JUGEM』は、毎度のごとく濃い作品でやりたいことをやっているアルバムですが、まず感じたのは今回はよりライブ感が詰まった、まさにバンドのいいところが詰まった作品だということでした。制作で意識したことや、アルバムの全体のイメージとして思い描いたことはありましたか。

渡辺壮亮(以下、渡辺):毎回とくにビジョンを持たずに曲を作っているんです。いつもそうですけど、今回も時間的な切迫感があって。そのなかで、あまり難しいことを考えるのをやめちゃったというか。

ーーその難しいことというのは。

渡辺:これまでは、“らしさ”を追いかけていたところがあったと思うんです。ほぼすべての曲を自分が作曲していて、5人としてのあり方を提示しようとしすぎていた気がするんですね。でも、いち作曲者、ひとりの人間に立ち返って、もうちょっとラフに曲を作ってみようと。それで、自分のバックボーンを恐れずに出していったり、初期衝動にまみれた感じにーーこれは結果的になったんですけど。ようやく、初めて初期衝動が出た盤かなという感じがしています。

ーーどの段階でそういうふうにタガが外れた感じになっていったんでしょう。

渡辺:ここまでにアルバムを作りましょうという話が出て、そこに向けて曲を作っていったんですけど、前半戦があまりにも何の手応えもなかったんですよね。全然曲ができなかったなという感じがあるんです。右往左往しすぎかなと思って。曲調はいろんなところにいってもいいんですけど、マインドが右往左往しすぎなので。もうちょっと地に足つけてというか、趣味的な感覚で曲を作ったほうがいいなと思って、好き勝手にやって。すごい昔のデモを掘り起こしたりもしてたよね?

渋江アサヒ(以下、渋江):1stアルバム『ヲトシアナ』(2018年)の頃に作っていた曲とかを引っ張り出したり。

渡辺:当時ボツにしたデモを掘り起こして、いくつかアサヒや菅野に聴いてもらって。これいいんじゃない? とか言われたものを、作り直してみたりとか。それがシングル『モノノケ・イン・ザ・フィクション』にも収録した「binary」だったかな。1コーラス丸々でき上がっていたんですけど、当時の俺は何か気に入らなかったのか、ボツっていたんです。

ーーシングル時のインタビューでも話してましたが、やりたいことをやった曲でしたね。みなさんももっとそういったバンドの持つ面白さだとか、今の嘘とカメレオンのリアルなバンド感を出していいんだっていうのは感じていたんですか。

渋江:どちらかというと結果論なんですけど、デモ録りの段階やミックスの方向性はもうちょっと生っぽくという方向性では持っていってたと思う。

渡辺:ミックスとか録り方とかでいうバンド感は、俺とエンジニアのマンツーマンで協議していたところがありましたね。いつも通りな録り方でやった曲もありつつ、例えば「リトル・ジャーニー」では敢えてドラムをいいマイクじゃないというか、どこにでもあるようなマイクで録って、左右にパンを振らずに出してみたりとか。あとは、何十万、何百万のコンデンサーマイクを使うという選択肢がありつつも、いつもライブで使っているハンドマイクで、手で持って録ったりもしたし。いろんなことを試しつつ、もともと持っていたいライブバンドとしての熱量みたいなところを出そうというのはありました。今までやっぱり、音源になると多少着飾っていたところもあったし、ただその着飾りみたいなところは良さでもあるから、出したい曲では出しつつ。今回はそこをバンドの色として掲げるのではなくて、崩していきたいなと。手法的なところではエンジニアと相談して、試していきましたね。

ーーBPMが途中からグッと上がっていく「リトル・ジャーニー」もそうだし、「秒針」もそうだと思うんですがセッションでの熱量をそのままパッケージしたようなヒリヒリとした感覚や、アウトロでの遊びが入っていて。ここらへんは、ライブバンドならではと感じた曲でした。

渡辺:そうですね。今まではみ出し方がすごく難しかったなと思っていたんです。嘘とカメレオンっぽさを出しつつも、やっぱりメジャーにいったからにはクオリティを上げたいなという気持ちで、空回りとまではいかないですけど、はみ出した部分を修正する作業が多くて。今回のアルバムとしては、はみ出した部分をどう楽しむかが大事だなと思っていて。なので、はみ出しているところは、なるべくはみ出したままで録っていこう、みたいな気持ちで作りましたね。

ーーまたいくつか印象的な曲を上げていくと、「カラクリdestruction」はまず頭のフレーズ〈異形解散 鯉口を切る〉というフレーズでがっちり掴んで、複雑なリズムやソリッドなリフと、メロディや言葉の絡みの塩梅でグイグイと引っ張り込んでいく、とても嘘カメらしい曲です。

渡辺:「カラクリdestruction」は今回のラインナップのなかだったらいちばん和ロックを意識した感じはあるかもしれません。ただ、批判的な言い方ではないんですけど、和ロックはあまり好きではないというか。“いわゆる和ロック”みたいなものをするのには、すごく抵抗がある。和ロックとちがう角度の引っ掛かりを、どれだけ作れるのかというのが和ロックっぽい曲を作るときの勝負で。オルタナ感といったらそれまでなんですけど、オルタナとしてのアプローチをふんだんに使いつつ、真面目なのかふざけているのかわからないくらいのところを攻めたほうがいいなと思って。“いよー”っていう声を足したりとか。大真面目にはやるんですけど、パッと聞き正気か!? っていうほうが俺的には面白みはあるなと思って。そういう意味では、結構恐れずにいろんなことを試している曲だなという感じですね。これまではロックっぽい音は出してきたんですけど、ハードコアにいっちゃうまでのことってあまりやってこなかったじゃない?

渋江:そうだね。

渡辺:でもアウトロでただただハードコアをやってるというか。たまにはハードコアやらせてよ、みたいなね(笑)。この時間だけは趣味の時間ですみたいなことでアウトロをつけていたり。

ーー曲調とアウトロとの組み合わせに、心地よい違和感がありますね。

渡辺:楽しいなと思って。でもハードコアしてるんだけど、音の選び方がハードコアじゃないという、ひと癖はつけたいなというのは意識しているので。頭からつま先まで意識して作っている曲だなと自分では思ってます。

ーーチャムさんはその和の要素っていうのは頭にあって、歌詞に反映されているんですか。

チャム(.△)(以下、チャム):今日初めて知りました(笑)。今までの私たちらしい曲だなって、曲をもらったときから思っていて。曲も怒涛のフレーズとか展開が続いて、ちょっと俯瞰して皮肉を持った目で世間を見ている感じが、いちばん素直に出た曲だなっていうのがあったんです。でもみんなそうなんですけど、事前にそれがどういう曲かを聞いて、そのイメージを作り上げることはあまりないんですよね。だから今の話は新鮮でした。

ーー冒頭の〈異形解散 鯉口を切る〉というフレーズは、ポンと出てきたフレーズなんですか。

チャム:最初にこの言葉があるのがいいなって話したよね?

渡辺:「鯉口を切る」っていう単語がいいねっていう話をしていて。

チャム:それも歌録りの段階だったんです。そこで「頭の部分に、何か言葉を入れたい」って言われて。

渡辺:「鯉口を切る」って言葉ってご存知ですか。日本刀の鞘の口のところを鯉の口に例えて鯉口っていうんですけど。侍が、指で刀をちょっと鞘から出すじゃないですか、あれを鯉口を切るっていうらしいんです。まさにそういう間合いに入った、戦闘態勢に入ったという刹那、切迫感というか、息を飲む感じが、曲のフレーズでもあるので。その間合いに入ったぞっていうのを、その言葉以外で何かないかなと思ったときに、鯉口を切るという言葉を知って。これはいいなと思って。というところ以外は多分、歌詞に和っぽいところはあまり出てないのかな。

チャム:そうだね。

渡辺:チャムが歌ってるところはシンプルに、マザーファッカーっていう感じの歌詞だから。

チャム:そうそうそう、いつも通りで(笑)。

渡辺:そういうところも、僕が思っていた和っぽくなりすぎない感じになっていたり、サビも別に和に依存してないのがすごく出ていて。最終的なバランスは良かったかなと思いますね。

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