『ボイコット』レビュー

amazarashi 秋田ひろむのブレることない音楽に向かう姿勢 『ボイコット』にも息づく確かな時代精神

 『爆弾の作り方』(2010年)での鮮烈なメジャーデビューから早10年。孤独を抱えたマイノリティに向けて歌い続けられた、詩人・秋田ひろむによる魂の言葉の数々は、いつしか現代のユースカルチャーにおける精神的な中軸を担うようになっていた。3月11日にリリースされた通算5枚目となるフルアルバム『ボイコット』は、その不穏なタイトルやアートワークに反して、それぞれの人生を生きる挑戦者たちを祝福するような、感動的な1枚である。

 2019年は「ネット発」のアーティストが多数注目を集めた年となり、その直接的なきっかけは2018年末の『第69回NHK紅白歌合戦』に米津玄師とDAOKOが初出場したことだった。しかし、Eve、ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。など、匿名性が強く、ゲームやアニメ的な世界観のキービジュアルを打ち出して活動するスタイルは、amazarashiが確立した部分が大きいように思う。また、ネット発のアーティストの歌詞の多くに怒りや痛みが内包されていることも、秋田の歌詞とのリンクが感じられ、今年『From DROPOUT』でメジャーデビューを果たした秋山黄色が表現する鬱屈も、amazarashiからの系譜にあるように思えた。

 昨年シングルとして発表され、『ボイコット』でもラスト前の重要な位置に収録されている「未来になれなかったあの夜に」は、横浜流星や杉野遥亮といった若手俳優が出演したミュージックビデオも大きな話題を呼んだが、今の若手俳優の流れに先鞭を打った存在と言えば、やはり菅田将暉の名前は外せない。そして、秋田は米津らとともに菅田へ楽曲を提供している1人で、菅田の歌には秋田譲りの「熱さ」がある。さらに言えば、菅田との交流もよく知られるあいみょんは、昨年の対バンツアーでamazarashiと共演。意外な組み合わせにも思えるが、「言葉」に力があり、なおかつフォークを今にアップデートして、若者の間でカリスマ的なポジションを獲得しているという意味で、両者はよく似ている。

amazarashi 『未来になれなかったあの夜に』Music Video

 バンドシーンで言えば、かつてsyrup16gやART-SCHOOLが内省的な感情や「死」を美しく歌うことで、一部では「鬱ロック」とも呼ばれたことを思いだす。その名称の是非はさておき、これは当時一世を風靡した「青春パンク」に空虚さを感じたリスナーから確実に支持され、今では日本語ロックの文法のひとつになっている。amazarashiもまた、苦々しい感情をリアルに刻んだ上で、「それでも」を描写することにより、支持者を増やしてきた。そして、ジャンルやメジャー/インディーといった境界が消えた2020年においては、幅広い表現者が彼からの影響を直接的にも間接的にも受けていると言えよう。

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