Eveの音楽はいよいよ社会へと開かれていく アルバム『Smile』は“覚醒”の一枚に

 Eveがニューアルバム『Smile』を2月12日にリリースした。

 “覚醒”の一枚だと思う。前作『おとぎ』から一年、めまぐるしく変化する状況のなかで、シンガーソングライターとして着実に成長を遂げてきた彼の現在地が刻み込まれている。ポップミュージックとしてのキラキラした輝きと、それと対称をなす内奥のダークな暗がりの二面性が、挑戦的なサウンドメイキングと共に結実している。

 もともとBUMP OF CHICKENの楽曲をきっかけに音楽と出会い、ボカロ曲のカバーを「歌ってみた」としてニコニコ動画に投稿するところから活動を始めた彼。「ネットカルチャー発の新たな才能」として注目を集める発端となったのは、全曲作詞作曲を手掛け2017年末に自身のレーベルからリリースした前々作アルバム『文化』だった。

 前作アルバム『おとぎ』も、いわば『文化』から地続きの精神性で作られた作品だった。現実と非現実が隣り合う世界観を描く楽曲は、とても幻想的な物語性を持つものだった。彼の音楽はアニメーションを主体にした映像と深い部分で結託し、アレンジを手掛けるNuma、映像作家のMahやWabokuなどクリエイターとのチームによる制作環境から生まれてくる。ただ、あくまでEve自身の内面性をその核に持つ「個」の表現が貫かれてきた。

 ただ、『おとぎ』以降、状況は大きく変わった。

 その表現は、社会へと開かれていった。他者と交わる部分でクリエイティブがなされるようになった。端的に言うと、タイアップの機会が増えた。特に、今年に入ってからはJR SKISKI 2019-2020キャンペーンテーマソングとして書き下ろされた「白銀」と、ロッテ・ガーナチョコレート“ピンクバレンタイン”テーマソングに起用された「心予報」という、2つのCMソングが世を彩った。

 可愛らしいメロディにハンドクラップの仕掛けがほどこされ〈桃色の心予報〉という言葉が歌詞に配された「心予報」も、躍動感あるバンドサウンドをベースにEDMのビルドアップのように徐々にテンションを高めていき〈想い馳せる 白い海原〉というフレーズを歌うロマンティックなサビのメロディに飛び込んでいく「白銀」も、とてもキャッチーでカラフルな作りになっている。おそらく、これらの曲や、専門学校HALのCMソングに起用された「レーゾンデートル」でEveの名前を知った人も多いだろう。

心予報 - Eve MV
レーゾンデートル - Eve MV

 その一方で、アルバムは、こうした曲と対称的な、自分自身の内奥に深く潜り込むような彼のダークな想像力が軸になった一枚でもある。

 きっかけとなったのはアニメ『どろろ』のエンディングテーマとして書き下ろされた「闇夜」だろう。先日に東京国際フォーラムで開催されたツアー『winter tour 2019-2020「胡乱な食卓」』ファイナル公演のMCでも、Eveはこの曲がアルバムの中で最初にできた曲であり、思い入れのある曲だと語っていた。

 ストリングスの響きと細かく刻むハイハットが印象的なこの曲は、00年代のバンドシーンから10年代のボカロシーンへと引き継がれた“疾走感”を持つギターロックの意匠とは違い、重く沈み込むような“虚無感”のテイストを持ったもの。個人的にはXXXテンタシオン~ビリー・アイリッシュが象徴する、エモラップとゴスが混じり合う今のUSのポップミュージックの潮流ともリンクする音楽的な引き出しを開けた重要な一曲だと思う。

闇夜 - Eve MV "Dark night"

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