『名探偵コナン』最新OP/EDテーマに感じる“原点回帰” WANDS×SARD UNDERGROUNDをアニソンの観点から解説
今年1月に放送開始から25年目を迎えたTVアニメ『名探偵コナン』。その新年一発目の放送となった第965話「大怪獣ゴメラvs仮面ヤイバー(序)」より、オープニング/エンディング主題歌が共にリニューアルされたのだが、その担当アーティストがちょっとした話題になっている。オープニングテーマ「真っ赤なLip」を歌うのは、2019年11月に新ボーカリストを迎えての再始動を発表した新生WANDS。そしてエンディングテーマ「少しづつ 少しづつ」を担当するのは、4人の若き女性メンバーによって結成された新世代ZARDトリビュートバンド・SARD UNDERGROUND。そう、WANDSとZARDという、90年代以降のJ-POPシーンで絶大な人気を誇った2組の魂が、時の扉を越えて『名探偵コナン』の主題歌で再び相まみえたのだ。本稿では、今回の2曲が『コナン』という作品を新たに彩る意義と意味を考えていきたい。
まずはWANDSについて。1991年にデビュー、1992年に中山美穂 & WANDS名義で発表した「世界中の誰よりきっと」を皮切りに、2000年に「解体」と銘打って解散するまでに数々のヒット曲を生み出したことで知られる彼ら。その当時は『コナン』楽曲を担当することはなかったが、アニメソングの観点から見ても、今なおファンから厚く支持されている『SLAM DUNK』のエンディングテーマ「世界が終るまでは…」(1994年)や、『ドラゴンボールGT』のエンディングテーマ「錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう」(1997年)、ZARDの坂井泉水が歌詞を提供した『遊☆戯☆王』のエンディングテーマ「明日もし君が壊れても」(1998年)といった忘れがたき名曲を残している。
活動時からメンバーチェンジを繰り返し、その構成メンバーによって第1期、第2期、第3期と分かれていたWANDSだが、19年ぶりに復活した今回のWANDSは「第5期」とされている。メンバーは、創設メンバーのひとりでもある柴崎浩(Gt)、1992年から2000年の解体時まで在籍していた木村真也(Key)、そしてプロデューサー・長戸大幸の紹介で参加が決まった上原大史(Vo)の3名。元々は、柴崎と同じくバンド結成時からのメンバーだった大島こうすけ(Key)が参加していたが、彼は楽曲制作に専念するためバンドから退き、代わりに木村が合流することになったという(そのため、当初予定していた上原、柴崎、大島の構成が第4期となる)。
ちなみに柴崎は、T.M.Revolutionの西川貴教を中心に結成されたミクスチャーバンド・abingdon boys schoolのギタリストとしても活動。『D.Gray-man』のオープニングテーマ「INNOCENT SORROW」(2006年)や『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』のオープニングテーマ「HOWLING」(2007年)といったアニメタイアップ曲の作曲も担当している。一方、今回の『コナン』オープニングテーマ「真っ赤なLip」を作編曲した大島も、T.M.Revolutionや西川のソロ作品などに携わっているほか、MAN WITH A MISSIONやSPYAIRらのサウンドプロデュースを通じて数々のアニメソングに関与。『コナン』の第38期OPテーマに起用されたKNOCK OUT MONKEY「Greed」(2014年)のサウンドプロデュースも手がけている。そう考えると、WANDSの遺伝子がアニメソングに与えている影響は想像以上に大きいのかもしれない。
そして肝心の「真っ赤なLip」だ。新ボーカリストの上原が作詞、先述の通り大島こうすけが作編曲を担当したこの楽曲は、爽快感や切なさを最大の魅力としていたかつてのWANDSのイメージとは趣きを変え、ジャジーな雰囲気でクールに攻めるアップチューンに。ブラス系のシンセサウンドやワウギター、フィンガースナップを交えたシャッフル系のリズムで構築されたサウンドが醸し出すのは、ゴージャスかつどこかミステリアスなムード。上原の艶味を帯びた歌声にもそこはかとない妖しさが漂っており、これらはおそらくミステリー作品である『コナン』らしさを意識して生まれたものだろう。また、WANDSの過去曲に照らし合わせるならば、大島が作編曲を手がけた2ndシングル「ふりむいて抱きしめて」(1992年)を思わせるダンサブルな曲調になっているのも興味深い。〈トリック〉や〈ヤバイ君の正体〉といったワードを散りばめつつ、魅惑的な愛の罠にハマっていく主人公の心情を描いた歌詞も雰囲気たっぷり。本シングルの名探偵コナン盤のジャケットに描かれている、赤いリップを塗る蘭の姿に胸がドキドキしたのは新一だけではないはずだ。
さらに注目すべきは本楽曲を用いた新オープニングアニメ。これが『名探偵コナン』のこれまでの歩みを知っていればいるほど感動できる、非常に凝った作りをしているのだ。まず印象に残るのが、楽曲に合わせてダンスを踊るコナンのアニメーション。コナンとダンスと言えば、第8期オープニングテーマである愛内里菜「恋はスリル、ショック、サスペンス」(2000年)でのパラパラダンスが有名だが、今回はそのオマージュ的な振り付けも取り入れつつ、「真っ赤なLip」の大人っぽいテイストにマッチしたクールで艶のあるダンスを披露している(振り付け監修はリアルアキバボーイズのけいたんこと榊原敬太、演出振付家としてゲッツが関与)。また、今回は青山剛昌による原作コミックのカットを演出に使用。25年以上に及ぶ連載のなかでもファンの印象に残っているであろう名シーンのコマが次々と画面を彩っていき、最後は漫画のページが集まって作品ロゴに変わるという演出に、グッときたファンは多いことだろう。