Maison book girl、視覚と聴覚を包み込むスペクタクル 『Solitude HOTEL ∞F』で過ごした濃厚な時間

 Maison book girlの単独公演『Solitude HOTEL ∞F』が2020年1月5日、LINE CUBE SHIBUYAにて開催された。単独としては最大規模の会場でありながら、2019年内にソールドアウトを果たした本公演。ブクガの飛躍を感じさせる勢いに満ちた、濃厚な1時間半だった。

 うっすらと客席を覆ったスモークが、ステージへ投影されているプロジェクションの光を受けて鈍く輝いている。それを眺めながら開演を待つ。ブクガのライブを生で見るのは二度目、ただ、前回は小規模なライブハウスでの公演だった。

 「風の脚」をSEとして、ステージ上のスクリーンには波立つ海の映像が映し出され、そのまま(アルバム『海と宇宙の子供たち』冒頭の流れと同じく)「海辺にて」へ。メンバーたちはスクリーンの向こう側でパフォーマンスし、スクリーンを透かし見るようなかたちで進行してゆく。照明によってコントロールされる映像とメンバーたちの姿のレイヤー感に幻惑されながら、徐々に世界に引き込まれていった。

 暗転を効果的に用いた「rooms」やサウンドに対する照明のハメが研ぎ澄まされた「狭い物語」など、エッジーな楽曲の魅力と世界を増幅させる光の演出は一分の隙もない。激しく複雑な振付もさることながら、たとえば横たわった姿勢から起き上がりながらずっとコンスタントに歌っている……といった細部に感じられる、メンバーの身体能力の高さにもひそかに圧倒された。ブクガとしての表現を現実化することに振り切った単独公演だからこそ味わうことができたもので、ライブを見た経験の浅い自分としても、重要な機会だった。

 セットリストは『海と宇宙の子供たち』とその前作『yume』からの楽曲を中心としたもの。MCは一切なく、途中まで観客とのインタラクションもほとんどなかった。ステージ上で凛とパフォーマンスする4人と、緻密に組み上げられアレンジも施されたサウンド、そしてhuezによる映像と照明の演出に圧倒される時間。ちょうど全体の折返しあたりに「my cut」でメンバーが観客を煽り、客席に漂っていた緊張感も一旦ほぐれたように思えたが、それもまたつかのま、視覚と聴覚を包み込むスペクタクルがふたたび展開していった。まるで観客として感じた高揚感や一体感までもが、『Solitude HOTEL ∞F』の作り出す世界の演出だったような、奇妙な感覚に陥った。

 ペストマスクをかぶった人物がステージ上を徘徊する「レインコートと首の無い鳥」。水面や水中のイメージをスクリーン上に重ね、インストゥルメンタルのうえで各々のソロダンスが披露された「water」。ステージ正面のスクリーンにメンバーの影を落とし、ミニマルながらインパクトの強いビジュアルを作り出した「シルエット」。朗読するメンバーと対照的に、ストーリーを身ひとつで請け負うかのように舞うコショージメグミの姿が印象的なポエトリーリーディング「思い出くん」。折り返した後半では多彩な演出がつづいたが、終盤で披露された「bath room」はまさにとどめだった。

 「bath room」では、イントロのスティーブ・ライヒ風のハンドクラップが逆再生に差し替えられていたうえ、楽曲の後半にかけて徐々にテンポが落ちていった。テープが止まるようにピッチを落としながら再生速度を緩めていくのではなく、ピッチを維持したまま楽曲がいびつにひきのばされていく様子は、異様な不穏さを湛えていた。さらに、クールな楽曲のなかに潜んでいる激情をむき出しにしたかのようなコショージと和田輪の掛け合い(絶叫)を経て、改めて登場した4人の姿は血まみれ。そのまま最後の一曲、「悲しみの子供たち」になだれ込んだ。

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