BEYOOOOONDSは令和を映す鏡となるか 1stアルバムを構成する3つの要素とともに解説

 BEYOOOOONDSの記念すべき1stアルバム『BEYOOOOOND1St』が11月27日に発売した。あらためて、彼女たちのプロフィール紹介から始めたい。

 2018年に結成されたBEYOOOOONDSはハロー!プロジェクト所属の新グループ。4人組の「CHICA#TETSU」と、5人組の「雨ノ森 川海」の2つのユニットに、3名を加えた計12名からなる。グループ名の語源は「〜を超えて」「〜の向こう側へ」という意味を表す”Beyond”。既成の枠組を超えて自由に未来へ大きくビヨーンと伸びていってほしい、という思いが込められているという。形を変幻自在にビヨーンびよーんと変貌させるスライムのようなグループを目指しているのだとか。そんな彼女たちは今年の8月に『眼鏡の男の子/ニッポンノD・N・A!/Go Waist』で晴れてシングルデビューし、今回1stアルバムのリリースに至ったというわけだ。

BEYOOOOOND『BEYOOOOOND1St』(通常盤) (特典なし)

 今作、序盤は豪快なメタル曲「アツイ!」で幕を開ける。間髪入れずにテンションMAXなユーロビート調の「ニッポンノD・N・A! 」へ繋ぎ、そこからユニット曲を経て、前山田健一作曲の「きのこたけのこ大戦記」へという流れ。きのことたけのこの不毛な(?)戦いを大袈裟に歌っていて思わず笑ってしまう。ここまでの数曲で、いかにBEYOOOOONDSというグループが力強く、エネルギーに満ちたグループなのかが伝わる。大粒の楽曲がドスッ、ドスッ、と迫ってくるような、目まぐるしい音数と凄まじい音圧。しかし、それが次曲でスッと影を潜め一転、ピアノだけの世界へーー。

BEYOOOOONDS『アツイ!』(BEYOOOOONDS [HOT!])(MV)
BEYOOOOONDS『ニッポンノD・N・A!』(BEYOOOOONDS [The Japanese D・N・A!])(Promotion Edit)

 アルバムのちょうど折り返し地点。8曲目「小夜曲“眼鏡の男の子”」から9曲目「眼鏡の男の子」に突入すると、このグループの大きな特徴である“演劇”、つまりメンバー同士の台詞のやり取りが繰り広げられる。

BEYOOOOONDS『眼鏡の男の子』(BEYOOOOONDS [The boy with the glasses.])(Promotion Edit)

 イントロまで約1分半に及ぶこの寸劇は、8月のシングルで聴いた時はさすがに長いなくらいに思っていたのだが、こうしてまとまったアルバムの流れで聴くと意外と良い。というかむしろ、このアルバムの”核”にすらなっている。そして、ドラマ仕立てというよりは前口上スタイルなので、あたかも劇場のシートに座らされたかのような独特の雰囲気をもたらしていて、音楽アルバムなのに観劇しているような、不思議な空気が漂う瞬間だ。こうした点を含め、本アルバムの注目すべきポイントは大きく分けて3つあると思う。

 ひとつは、“日本”。日本的な効果音、日本的な言葉、日本的なサウンド……とアルバムの端々に日本を感じるエッセンスが印象的に織り交ぜられている。「ニッポンノD・N・A!」は文字通り日本人の特徴を皮肉交じりに歌ったある種の“日本人讃歌”だし、「恋愛奉行」は七五調の言葉遣いと馴染み易い音階で作られたいわば和エレクトロ。

 もうひとつは、“温故知新”。BEYOOOOONDSが表紙を飾った『クイック・ジャパン146号』において、今作で多くの楽曲の作曲を担当している星部ショウが、ハロプロについて”温故知新”というキーワードを掲げているが、このアルバムもその例に漏れず随所にその精神が感じ取れるものとなっている。Earth, Wind & Fireを思わせる「元年バンジージャンプ」、Village Peopleの「Go West」をBEYOOOOONDS流ダイエットソングとしてカバーした「Go Waist」といったように、過去の音楽とりわけ海外のディスコ〜ダンスミュージックを主な参照点とし、現代のポップスへと華麗にアップデートしている。

BEYOOOOONDS『Go Waist』(BEYOOOOONDS [Go Waist])(Promotion Edit)

 そして最後に、“演劇”。そもそもこのグループ結成のきっかけとなったのが「演劇女子部(ハロプロメンバーが出演する舞台企画)」における高瀬くるみと清野桃々姫の演技力であり、そのために星部が書き下ろした「眼鏡の男の子」がうまくハマっていたからだという。演劇そのものがまずグループの出発点だったのだ。またこの曲以外にもアルバムの所々に寸劇が挟まれていて、たとえばミュージカル調の「恋のおスウィング」は宝塚歌劇団風に作られていたり、「高輪ゲートウェイ駅ができる頃には」では駅名を決めた際の一悶着を軽く解説する語りが挟まれていたりと徹底している。

 こうしたポイントもさることながら、ユニット曲にも注目だ。CHICA#TETSUが歌う「高輪ゲートウェイ駅ができる頃には」(「中央フリーウェイ」を彷彿とさせる名曲だ)と「都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて」は、80年代以降の日本の歌謡史における重要なアレンジャーのひとり、清水信之が編曲で関わっている2曲である。稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」、大貫妙子「メトロポリタン美術館」、SMAP「セロリ」など、彼が編曲を手掛けた名曲は数知れず。日本のいわゆるシティ感〜都会のイメージを作り上げた立役者と言っても過言ではない。そしておそらくハロプロには初仕事であろう。

 一方で、雨ノ森 川海の歌う曲には女性の強気な言葉が盛り込まれている。〈すごいのよ?わたし〉と歌う「そこらのやつとは同じにされたくない」、校則に縛られメイクできない主人公が〈100点じゃない私を 私って決めないで〉と歌う「GIRL ZONE」。この2曲はどちらもハロプロ好きを公言しているシンガーソングライター、大森靖子による作曲。そして前者の作詞は元アンジュルムの福田花音。名アレンジャーが参加した都会的なCHICA#TETSUと、ハロプロと所縁の深い女性陣がバックアップする雨ノ森 川海。こうした対照的なユニット曲も魅力である。

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